時期を外した文化祭
「ふー、よし」
やっといつもの生徒会業務が終わった。
先に終わっていた生徒会副会長のアンペルことディアが、背後から俺に抱きつき、
「終わったカ?さっさと帰ってUAOでもしようゼ」
「ああ、ちょっと待ってくれ。今日はこれだけじゃ終わんないんだ」
「ハ?」
生徒会室の最奥にいる、会長の方に視線を向ける。
既に仕事が終わって、腕を組んでいた彼女は、キリっとした表情で、
「今年もこの季節がやって来ました」
「……なんかあったっケ?」
「文化祭よ」
秋辺りに文化祭をやると、中間テストと体育祭も相まって、めちゃくちゃ忙しくなってしまう。
だから、ちょっと早めのこの時期に行うのだ。
「なるほど、面白そうだナ」
「ああ、去年は楽しかったぞ。ロケット花火で的当てをしたんだ」
「……外でやったんだロ?」
「もちろん教室内でやったが?最後にロケット花火で宇宙に行けるか実験したんだ。ちなみに被検体は東間君」
統華にお願いして貰ったら一発だった。
結局1メートルくらいしか浮けなかったんだけどね。
「丁度いいから、今月のイベントは生徒会で出店することにしたわ。生徒会の仕事は外部委託します」
「なんの店を出すかは決まってんの」
「まだよ。でも、料理の達人もいることだし、喫茶店でもしようかなとは思っているわ」
「え、会長って料理までできるの?」
「いえ、私も人並み以上にはできるけど、達人と呼ばれる領域には至ってないわ。彼女のことよ」
会長が指さしたのは……少し離れてこっちを見守っていた、書記さんだった。
「え……あれが料理の達人なのカ?」
「そうよ。彼女は、うちの本家で代々料理長を務めている一族の末裔。もちろん彼女自身も凄い腕を持っているわ」
会長が顎をクイっとしゃくらせたかと思うと、書記さんは机の下に引っ込んで、
ガタガタ
料理をしているような音が聞こえてきた。
「生徒会室に料理道具なんてあったっケ?」
「ほとんどなかった気がする。徹夜カップラーメン用の湯沸かしポットくらいじゃないか?」
今日の荷物的に、そこまで多くの物を持ってきているとも考えにくい。
道具がほぼ要らない料理……
「サンドイッチと見た」
「いや、ハンバーガー辺りだロ」
「それ大差ないわよ……。っと、できたみたいね」
机の下から顔を出した書記さんが2枚の皿を出し、その上に綺麗に飾られていたのは……ハンバーグ。
「いや、どういうことだよ」
「……一文字違いだし、私の方が近イ」
「とにかく、食べてみなさい」
会長に促された通り、一口サイズに切られたハンバーグを口に放り込み、
ジュワ!
外はカリっと、中はジューシーで
「「うま!」」
こ、これが達人の領域か。
貴族で舌が肥えてるハズのディアも、美味しそうに一口一口堪能してゆっくりと食べていく。
気づいたら皿が空になってた。
「お前、うちに雇われないカ!?給料はこいつの本家とやらの2倍……いや10倍は出す!」
「ヒィィ!」
いつの間にか書記さんの両手を取っていたディアだったが、一瞬で振り払われてた。
あの人見知りさんには無理があるよ。
「確かに、書記さんがいるなら喫茶店がいいかもしれないな」
「……恐縮です」
「でも、普通に喫茶店ってのはどうなんダ?漫画だとメイド喫茶とかやってるぞ」
「……もしメイド喫茶だったら参加しない」
「その時は外部委託した生徒会業務を全てやらせるから大丈夫よ」
……不味い、このままだと過労死する!
でもメイドするくらいなら過労死する!
「あー、あれだ。せっかく生徒会がやるんだし、メジャーな出し物ってのは避けた方がいいだろ」
「……確かに、出し物をするクラスの中に、メイド喫茶があった気がすル」
「そうね……じゃあこうしましょう」
会長の案を聞いて……メイドよりはマシかな?
◇
「これで大丈夫か?ズレてたりしない?」
「……ええ、よく似合ってるわよ」
文化祭当日。
俺たち生徒会メンバーは、店の最終チェックをしていた。
慣れない衣装に身を包んだ俺は、会長にヘルプを求めたが、どうやら問題なかったらしい。
「書記さん、料理の準備はできてる?」
「……(コクリ)」
「材料の用意は?」
「完璧ダ」
「そろそろ開店するわよ!」
店の前には、開店前にも関わらず、既に多くの生徒や、一般人たちが並んでいる。
俺は、腰に下がってる刀を正し、
「開店です」
「いらっしゃいませ……でござる」
取ってつけたように、語尾をつけた。
ここはメイド喫茶ならぬ、武士喫茶。
ハゲの鬘はなんとか免れたが、服装は会長がくれた武士着、語尾はだいたいにござるを付ける。
「ご注文はなんでござるか?」
「えっと、ステーキの武士切り?で」
「私は普通のハンバーグで」
「承知した」
……開始数分で羞恥心に殺されそうでござる。
「ステーキの武士切りとハンバーグ一つづつ」
「もうできてるゾ。持ってケ」
いや、速すぎな。
ちなみに、料理は全て書記さんが作り、ディアはそれの手助けをしている。
ディアの料理力は……うん、箱入り貴族だから仕方ないね。
「失礼、ご注文の品をお届けに参った」
「ウソ、早や!」
「では、ステーキの方を切らせていただきます」
腰にぶら下げた刀を抜刀し、振り上げる。
そのまま、ステーキに向かって振り下ろし……サクッと真っ二つに切れた。
もう何回かサクサクっとして、食べやすいサイズにカットする。
「どうぞ、ごゆっくり。でござる」
なるべく客を少なくするためにも、マジで長く居座って欲しい。
さて、軽くオーダーを済ませて、次の席へ……
「あの、ここの毒見サービスっていうのは?」
ステーキを注文した女子生徒が、メニュー表の一端を指さして、俺を呼び止めた。
「あー、武士が毒見として、商品を一口食べるサービスでござる。あまりお勧めはしませ」
「お願いします」
……わお、即断即決で。
「えっと、食べる量が減っちゃうんでござるよ」
「いいです。毒見、お願いします」
俺は溜息をつきながら、懐(清潔)から、専用のフォークを取り出し、
「失敬」
一口だけ頂いた。
うん、美味しいね。毒なんてないね。
「毒はなかったでござる。どうぞ、召し上がれ」
「キャー、ありがとうございます」
「あの、私も」
……なにこれ?
この物語はフィクションです。屋内花火はやめましょう。
文化祭でやることないなら、これやってもいいですよ。コロナのせいで飲食無理だけど。
えっと……最近更新頻度がアレで、アレなんですけど……期末テストがやばいので、2週間ほど投稿が空きます。
中間がヤバかったから、今回やらかすとマジで留年するんや。