今回、イグノ死す。デュエルスタンバイ!
クマ魚の出現場所まで泳いで行く。
推奨レベルにギリギリ届いていないが、まあなんとかなるだろう。
道中、雑魚モンスターに絡まれたが、加速を使って瞬殺した。
「見えてきた」
どうやら、狭い洞窟の中にいるようだ。
……今思い出したけど、俺ってクマと相性悪い?
加速を使っても瞬殺できないだろうし、向こうの攻撃は重いけど、避ける素早さは俺にはない。
やばい気がしてきた。
一回帰ろうかな。
「グオーーーー」
あ、手遅れっぽい。
相変わらずエラとヒレを適当に付けられたクマが、洞窟の奥から這い出してきた。
やるか。目標は二回目の加速で倒す。
できるだけ多くの加速時間を攻撃に使うため、しっかり引き付けて……今!
クマ魚が右手を振りかぶったところで、加速を開始する。
クマパンチを回り込んで回避し、懐に潜り込んで、腹にラッシュを放つ。
加速終了。
少し怯んでいたクマ魚が、持ち直して左手で引っぱたく。
避けたいけど、スピードが足りない。
なんとか右腕で防いだが、HPの4割を持って行かれた。
次の加速まであと8秒、このペースだと先にやられるし、こいつのHPはまだ7割ほど残っている。
つまり、一回の加速では3割程度しか削れていないのだ。
「方針を変えるか」
とりあえず、次の加速まで耐えないと、勝ち筋がない。
見てから避けては遅い、先読みして避けるんだ!
次の攻撃は……のしかかり。
攻撃が始まる前に横に全力で泳ぎ、ついでに倒れこんできたクマの脇腹に蹴りを入れておいた。
攻撃力の低さも相まって、あまり効いていない。
だが、立ち上がるのにさらに時間がかかり、加速までの時間はあと2秒。
次の攻撃中には発動できる。
僅かに右手が動いた。芸のないクマパンチか。
けど、さっきはHP4割を持って行き、今のHPは6割、クリーンヒットでもしなければ十分耐えられる。
若干気が緩んだその時……振りかぶりを終えたクマ魚の爪が伸びた。
「待ってそれは話が違う!」
そんな言葉がクマ魚に通じる訳もなく、無慈悲な爪が振り下ろされた。
まだ加速はできない。
避けきるのは無理そうなので……逆に近づいた。
今一番避けるべきことは、あのやばそうな爪を食らうことだから、間合いの内側に入ってダメージを少なくする。
吹っ飛ばされて、洞窟の壁に多少埋められたが、HPは1割残った。
そして、加速のCTは上がっている。
しっかり引き付けてから……加速して、俺はクマ魚の顔に張り付いた。
「ちょっと痛いけど我慢してねー」
そう言って……力ずくでエラを引っぺがす。
どうせこの加速で全力で攻撃しても削り切れないんだ。
はがした物がドロップアイテム扱いになるかは賭けだったが、どうやらいけるようだ。
そして、残りの加速時間を使って逃走する。
どうせあいつはあんまり速くない、次の加速まで逃げれば勝ちだ。
……そう思ってた時期もありました。
怒り狂ったクマ魚が、俺を追って来た。
あれ、なんか早くね?
余裕で次の加速が間に合わないんだけど。
俺も全力で逃げるが、クマ魚の方が倍くらい速い。
……もしかして、負けですか?
いや、まだワンチャンある、クマと言えばあれだ。
「必殺、死んだふり!」
実際、普通のクマにはかなり有効らしい。
俺は、このゲームの再現度を信じる!
このハリウッド俳優顔負けの死んだふりで……止まった判定で死んだわ。
◇
あれから、真っ暗な空間に送られた。
空中に文字が浮かんでいて……『デスペナルティ あと59分』
どうやら、死んだら1時間は生き返れないらしい。
俺は、諦めてログアウトした。
現実世界で、スマホを開くと……東間から着信履歴があった。
昼ご飯を用意しながら、折り返し電話をする。
数コール後、東間がでた。
「おう悠馬、電話出なかったけど、何してたんだ?」
「言われた通りUAOをやってたんだよ。今死んでデスペナ中」
「お前時々見通しが甘いからなぁ。大方、推奨レベルに満ちない所に素材でも取りに行ったんだろ」
さっすがよく分かっていらっしゃる。
俺に振り回されて、DAOで初見のダンジョンの推奨人数が分かるようになった人は言うことがちげえや。
ちなみに、そのせいでこいつの二つ名は”リトマス試験紙”だった。
「それより、用があったのはそっちだろ」
「ああ、明日実家から帰るんだ。調査報告を聞きたい」
「……まだ二日しかやってないけど、良いゲームだよ。結構ハマるかもしれない」
「それはよかった。まあ、もう二人分購入済みなんだけどな」
俺に調査させた意味よ。
いや、元から俺をこのゲームに誘うためだったのかもしれない。
「じゃあ切るぞー」
「ちょっと待って、言っておくことがある」
電話を切ろうとした東間を止めて、どうしても伝えたいことを告げる。
「生き物のスキルだけど、完全ランダムっぽいんだ。それで、美味しい生き物ほど強いっていう法則があるらしい。よく祈っとけ」
「ああ、分かった。そういえば、お前のスキルって何なんだ?」
「やってからのお楽しみ」
そう言って、俺は電話を切った。
もちろん、美味しい生き物云々はウソである。
俺だけ狙われるなんて許さない、死ぬときはお前も一緒だ(悪い笑み)。
まあ、祈るだけだからあんまり関係ない。
あいつも結構ガチャ運いいけど。
さて、ラーメン食ったり、スマホで情報収集してたら一時間が経過した。
そろそろ生き返れるだろう。
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いろんなゲーム用語使ってるけど分かるかな?
ちなみに、死んだふりが効果的っていうのはマジらしい。
まずまず現実の熊って時速60くらいでるから、逃げるよりは死んだふりした方が絶対生き残れる。
イグノ君はもう十分攻撃していたので、仮に自滅しなかったとしてもゲームオーバーでした。