大統領のバースデー
もう6月も中盤、雨が多い今日この頃。
そろそろ月一のイベントについて、真剣に考えなければいけない時期だ。
「今回どうします?」
「……私が決めタ」
おお、六月も特にイベントがないから、また剣で斬りあいでもするのかと思ったが、ディアが決めてくれてたか。
「何やんの?」
「……秘密ダ」
……え?
「……ちょっと何言ってるかわかんない」
「今回は女性中心のイベントにするつもりだから、辰海君は何もしなくていいわ。 というか、女子トークするから出て行って」
そんな、殺生な……。
もう少し粘ろうとしたが、会長とアンペルに背中を押されて、強引に生徒会室を追い出されてしまった。
さすがに何もしないのは心が痛むので、通常業務だけは持ち帰ったが、それ以外は何もしていない。
まあ、あの3人がするイベントってのも、楽しみだな。
◇
数日後、いつも通り、東間と一緒に学校に登校した。
ちょっと遅れて来たが、遅刻にはならないだろう。
なんかいつもよりも顔がニヤけている気がするが、なんかいいアニメでも見つけたのかな?
「……なんかあったのか?」
「クッ、いや何もww」
……こいつがこんな態度の時は、絶対に俺に不幸が降りかかるんだよなぁ。
今日は気を張っておかないと。
自衛隊並みの警戒心を発揮しつつ、一つ一つの動作に気を使い、神経をすり減らしながら教室に向かった。
しかし……教室には誰もいない。
いつもなら、半分くらいはいるハズなんだが、
「今日なんかあったっけ?」
「クッ、黒板を見てみろよwww」
前の黒板には、『体育館に集合』とだけ書いてある。
「え、昨日なんか言われてたっけ?」
「聞いてなかったのか?全校朝礼の日じゃん」
「じゃあなんで遅れて来んだよ!?」
急いでロッカーから体育館シューズを抜き取って、誰もいない廊下を走る。
その時、俺は気づいていなかった。幾ら全校朝礼の日といっても、遅れて来る人は普通にいることを。
誰一人いないのは、おかしいということを。
体育館に着いても、いつものウザい校長の声は聞こえてこない。
ちょっと不安になりつつも、体育館の扉を開いて、
パアン!パアン!パアン!
大音量の爆発音が鳴り響き……クラッカー。
中をよく見てみると、中央には大きなビッグ五段ケーキが置かれていて、中央のプレートに書かれているのは、『辰海君、お誕生日おめでとう』。
さらに、両サイドや二階には、ほぼ全校生徒が集まっていて、最前列は例のクラッカーを持っていた。
今日、6月16日は、辰海悠馬の誕生日だ。
そういえばそうだったな。
「……恥っず!」
え、これが6月イベント?
アメリカ大統領でも、こんな豪華な誕生パーティーをするのか……いや、さすがにアメリカ大統領は無理があるか。
せいぜいトップアイドルくらいかな?
嬉しさ2割、恥ずかしさ8割ってところなんだが……。
『さて、皆さんおはようございます。司会の水野です。今日は、いつも俺たちの為に一生懸命(溜め)働いてくれている、辰海君の誕生日です。
みんなで祝ってあげましょうww。せ~の、』
「ハッピバースデートゥーユー
ハッピバースデートゥーユー
ハッピバースデーディア辰海ー」×全校生徒
……もしかして、あのクソでかロウソクの火を吹き消せってことか?
無理だろ。しかも17本もあるし。
『では辰海君、火を吹き消して下さい!』
「いや無理だろぉ!」
一応やってみたが、揺れもしないぞ。
近くにいた人が、空気を圧縮して放出するやつを渡してくれたからどうにかなったが、ちょっとロウが垂れかけてる。
『さてみなさんお気づきでしょうか?ここ一週間はずっと雨で、今日も雨の予報でした。しかし、見上げてみれば今日は晴天。そう、ジューンブライドってやつです』
ジューンブライド……確か、6月に結婚式をして、雨が降らなかったら縁起がいいとかいうやつだっけ?
嫌な予感(確定演出)がしてきたかと思うと、
『舞台にご注目下さい』
舞台には……純白のドレスを着た、ディアと会長がいた。
そして、いつの間にか背後に立っていた書記さんが、スーツを渡してくれた。
『おっと、小さくて可愛い花嫁と、エレガントな美しい花嫁がいます。辰海君はどちらを選ぶのでしょうか?』
やっぱりそうなるよなぁ……ゴミがよぉ!
「……二人とも選ぶとか、そんな感じの甘い答えじゃだ……めそうですねありがとうございました」
花嫁姿の会長から、黒いオーラが出てきたことで、淡い期待も打ち砕かれた。
さて、いつもなら後が怖いから、適当に会長を選ぶんだが。
用意されていたレッドカーペットの上を歩いて、舞台の上に登り、
「……ディア」
ディアを選んだ。
まあ、このイベントはこいつが企画してくれたらしいし、あとが怖いけど、今回のイベントはこいつを選ばせてもらおう。
彼女も、てっきり会長を選ぶと思っていたのか、少し驚いてる希ガス。
「……ッフ、私を選んだカ。お前は正しい判断をしたゾ」
「ちょっと、その後が怖いから、あんまり会長を挑発しないで!」
一周回って白いオーラを出し始めた会長を無視()して、ディアの脇を持って高い高いしてやった。
『おおー、いいお嫁さんを選びましたねぇww。では、誓いの接吻を』
……え、マジ?
俺は昔に統華とやったり、起きたらミワがキスをしてきたこともあって、感覚が麻痺してきてるが……
「安心しろ、これを使ウ(コソコソ)」
そう言って、視線の先にあったのは……持っていたバラの花束。
ああ、これで口元を隠して、接吻しているように見せかけるってことか。
『では、誓いのキッスを』
東間が催促してきたので、予定通り、バラの花束で隠しながら、ギリギリまで顔を近づけて、
チュッ
思いっ切り唇と唇が触れ合った。
それと同時に、舌を入れてきた。
生徒たちから、黄色い声が飛び交う。
数十秒後、唇を離して、
「わ、私の母国では、挨拶みたいなものなんダ」
「これが挨拶って、お前の母国感染症とか大丈夫か?」
そう言いつつも、観客サービスのために、内側の手をディアと繋ぎ、外側の手を振った。
また黄色い声が飛んでくる。
『さあ、もう一度新郎新婦に拍手をお願いいたします』
たくさんの人が拍手をくれました。
ちなみに、巨大ケーキ、ウェディングドレス、タキシードその他諸々、全部ディア持ち。
ケーキは生徒全員で食べました。