やめて、私の為に争わないで!
「テメェ表出ろやァ!」
「上等よ!」
……女の子がそんな言葉使いをするんじゃありません。
◇
5分前、最近はログイン時間の半分は拠点で遊んでいた。
普通に友達と遊んでいる感じで、楽しいんだよなぁ。
それで、スマ〇ラでマドカと一緒にミワを追いつめて(俺:マドカ=1:9)いると……後ろから抱きついてくる人がいた。
一瞬ミワかと思ったが、彼女は隣で苦手キャラを操作している。
とりあえず、マドカと一緒にミワシ〇クを追いつめて、
「フー」
「ヒャッ!」
耳に吐息が吹きかけられて、女の子みたいな声を出してしまった。
その間に、俺は撃墜されて、
キーン、ゲームセット
「あ~、また負けたっす~」
「おいファニー、何すんだ!?」
振り返って、吐息をかけてきたファニーに、責任転嫁した。
あの吐息がなかったら、多分勝てたと思うんだよ(ミワはあと2ストック残っていた)。
「だって、暇だったしー」
「ちょっと、私のダーリンにヘンなことしないでよ」
顔は笑っているが、目は全く笑っていないミワが、優しく語りかけていた。
「いいじゃん別に。そもそも、私のダーリンって何よ?」
「そのままの意味だよ。この前婚約したもんね?」
……した記憶ないんだけど。
ミワも怖かったが、ファニーの顔も、女のドロドロしたモノを感じ……めちゃくちゃ怖い。
……君まだ中学生だよね? マドカがドン引きしてるよ?
「え、婚約?ねえ、昔私と交わした婚約を忘れたの?」
「ダーリンがそんなことする訳ないでしょう。ダーリンは私一筋なんだから♡」
そう言って、両方の手を握られ、町中じゃなければダメージが入るくらいに引っ張られて、想像するだけで痛い。
「私は幼馴染だよ」
「やだやだ、恋は時間とか言い出すタイプ?時間じゃなくて、質、なんだよ」
バチバチバチ
そんな擬音語が聞こえてくるような権幕で、二人が睨みあっている。
……これは、あの言葉を言うチャンスか!?
「やめて、俺の為に争わないで」
「「黙ってて!」」
……あれー、「そんなことしてない!」的な反応を期待してたんだがなー。
その後も、俺とマドカを置いて、言い争いは加速し、
「テメェ表出ろやァ!」
「上等よ!」
そう言って、拠点から出ていった。
「……リーダーも大変っすね」
「ファニーがガンツ以外にあんなにキレるとは思わなんだ。なんであんなキレてんだろ?」
「……ファニーさんも大変っすねー」
フル装備で拠点を飛び出していった二人を追って、見に行ってみると……参テルにある、決闘場だった。
一万円で利用することができ、一対一のタイマンができる施設だ。
使ったアイテムは使用前に戻ったり、死んでも一時間のペナルティはなかったりで、いろいろと便利なやつである。
他の利用者たちも二度見する雰囲気を纏って、彼女らは一万円を入れて、シンプルな平地の決闘場に入っていった。
「勝った方がイグノの婚約者ね」
「異存なし」
いやいや、俺の意思とか……その他もろもろは?
「イグノ、デュエル開始の宣言をして」
「ダーリン、デュエル開始の宣言を」
……もうどうでもいいや。
「いくぞ、デュエル開始ィィィ!」
ファニーが毒剣を出し、ミワが拳銃を取り出した。
ミワがデコイで二人に増えて、ファニーを翻弄しながら発砲。
デコイからも発砲はあるが、銃撃音はしない。
本体からの銃弾を、ファニーが毒剣で切り裂いて、〈身体強化〉でスピードを上げて、本体へと近づく。
苦し紛れに出されたデコイを無視して、本体に斬りかかるファニーだったが……点滅して、消えた。
「え!?」
「騙されたなぁ」
さっきデコイだと思われていたミワが、背後からファニーを銃撃。
だが、元から補助程度にしか使っていない銃だし、なんとかファニーの防御上昇が間に合って、全然ダメージは入っていない。
けど、ミワのデコイ使いは本当に上手で、近距離魔法中心のファニーにはキツイだろう。
ある時は何もせずにすれ違い、ある時は近づかれても全く動かず、ある時はデコイと左右逆に進む。
そのへんの駆け引きは、さすがゲーマーという勝負強さ。
元から、素早さ特化のファニーに匹敵する素早さをしてるし、一度離れられると追いつけなくて、二分の一から五分の一の確率(ミワのデコイは一回に4体まで)を見事に外させる。
このままでは、ファニーの魔力とHPが削られて、ゲームセットになるだろう。
彼女もそれを分かっているのか、打開するために、ひとつのアイテムを取り出した。
それは……イベントのデートで、俺が適当にあげたファニーの好みぬいぐるみ。
「[糸伸喰 フィパッシュ]」
……あれ、鱗器にされていたのか。
彼女は、右手でぬいぐるみの尾びれ部分を持って……かわいい魚のぬいぐるみが、伸びた。
そのままミワの一体に噛みついて、ホログラムになる。
鱗器で遠距離攻撃を得て、さらに、
「フッ!」
「は!?」
本体かと思われるミワは、伸びてきたぬいぐるみを避けたのだが、決闘場の壁に喰らいついて、ファニーが高速移動した。
急接近した彼女は、毒の剣で斬りかかり、ミワは拳銃で防ぐ。
「バースト」
「わっ!」
毒の剣が弾けて、紫色の液体を飛び散らした。
ダメージ自体は少ないが、毒ってしまって、ミワのHPが少しずつ減っていってる。
鱗器の力で、一気に形成が逆転したな。
こうなったら、ミワも鱗器がなくては対抗できないぞ。
そう思っていると、やっと何かのアイテムを取り出して……逆刃刀。
「[逆刃刀 シンテゐ]」
いつもはナイフを使っていたのに、今取り出したのは、逆刃の刀。
ぬいぐるみを利用して、急接近してきたファニーを、
「〈流墜漸〉」
上から叩き伏せた。
ちょっと、怒られるからやめてくれない?
スピード特化にしていたせいで、ファニーは死んでしまったが……あいつのスキルはここからだ。
数秒で少し幼く、MPマックスで復活して、
「〈トラッシュジェイド〉」
毒塊を振り回して攻撃したが、〈瞬転〉でギリギリ避けていた。
そして、ファニーの真正面に、あからさまなデコイを走らせて……
「〈トキシック・ドル〉」
一瞬で毒の針で貫いた。しかし、やはりデコイ。
本体(?)は、デコイの影から回り込んで……素早い反応で毒針が刺さったが、それもデコイ。
いや、本当に上手い。
本体は、また上にいて、
「〈玖洙流漸〉」
逆刃刀が緑色に輝いて、凄まじいスピードの九連突きが放たれた。
防御方面に魔力を回したファニーだったが、この九連撃には耐えられずに、二度目の復活。
長いことファニーと旅して来た経験から言うと、おそらく復活できるのは、あと5回っていうところかな?
復活による弱体化の度合いまで考えると、あと2回までには追いつめておきたいだろう。
それに対して、ミワのHPはあと6割だが、今も毒で減り続けている。
ちょっとファニーの方が有利ってところかな?
何故か活躍がなかったが、元からタイマン最強クラスの能力だからなぁ、【ベニクラゲ】。
どうやってミワが騙しきれるかが肝になる。
彼女は、また正面からデコイを出し、
「流石にもう分かる」
ファニーのぬいぐるみが、正面のデコイをすり抜け、本体の腕に食らいついてミワを引き寄せて、
「〈ベノムディッド〉」
彼女の左手の指が、紫色になって、ミワを攻撃しようとしている。
一瞬ピンチかとも思ったが……会長に剣術をやらされた俺には分かる。あれは、
「抜刀術〈葬流漸〉」
抜刀術の構えだった。
鞘から抜かれたミワの逆刃刀が、ファニーの紫色の手にぶつかった。
ギリギリギリ
二人の力は拮抗していたが、おそらくあの技には、
「ハッ!」
ミワの、逆刃刀の鞘が、ファニーの左腕にぶつかって……手がズレた。
そのまま、逆刃刀を首に当てて、またファニーは死んだ。
まだストックに余裕はあるとはいえ、弱体化を加味すると、今回で決着を付けないとキツイぞ。
だが、癖か何かに気づいたのか、もうデコイは通じないだろう。
……さて、どうするんだ?
ミワは、しっかりと逆刃刀を構えて、
「フィジカルで圧し潰す」
「やってみな!」
……確かに、今のファニーはアンペルよりも小さくなっている。
フィジカル勝負だと、体格差でやられかねない。
しかも、接近戦となると、あのぬいぐるみの鱗器も使いにくいだろう。
「〈ポイズンソード〉〈トキシック・ドル〉」
ファニーの右手に、毒の剣、左手に毒の針を持って、ミワに対抗する。
激しい斬りあいが続いて、双方のHPが段々削れていく。
しかし、
「え!?」
「騙されたなぁ?」
瞬き一つしていなかったのに、気づいたらミワは、デコイにすり替わっていた。
〈ステルス〉で透明になると同時にデコイを出して、完璧に入れ替わったのだ。
驚くべきは、ほぼ完全に同じタイミングで、〈ステルス〉とデコイを使った、ミワの技量だ。
そして、透明なまま、いきなりデコイになって驚愕しているファニーの横から、
「〈天翔竜閃〉」
ミワが抜刀して、超神速の一閃をおみまいした。
ファニーは死んで……復活はしたが、これ以上はジリ貧になっちゃうかな?
実際、次のストックでは、そこまで時間が経たない間に、ステータス不足でやられてしまった。
これは……勝負あったか?
まあ、ミワが負けて、リスカ祭りになるよりはいいかな。
そう思いつつ、最後まで見届けようとしていると……
「まだ私のバトルフェイズは終了していない」
ファニーが、ポイズンソードで時間稼ぎをしながら、
『昏き深紅の毒よ。今ここに愛と毒を込めて誓おう。立ち塞がる巨悪を打ち砕け』
彼女は、少なくなった魔力で、低い威力を補うために〈詠唱〉を行って、
「〈パラニック・バースト〉」
自爆した。
紫色の液体が飛び散って、ミワに降りかかる。
1ストック犠牲にしてでも、広範以降撃で、ミワを麻痺にして、
「〈トキシック・ドル〉」
「〈竜墜漸〉」
毒の針と、上段からの剣が交錯して……相打ち。
もうファニーのストックも残っていなかったので、引き分けになったのだが、
「……もうデコイの癖見切ったから、次は勝てる」
「……魔法の種類分かったから、次は勝てる」
……もう一万円突っ込んで、2回戦を始めました。
飽きてきたし、ミワが負けた時のために、家中のカッターやらはさみやらを回収しておこう。
鱗器の解説は全部設定集に入れておきます。