マ〇カⅠ
歴代最長
怒られませんように。
「次は何に乗る?」
「あれ♡」
指をさした先は……フリーフォール。
なんか高い所に上がって下がるやつ……もちろん俺は大嫌いだ。
というか、ジェットコースターには乗ったことあるけど、フリーフォールは乗ったことがない。
「……あの、ゴーカートとかにしない?」
「えー、先にフリーフォールー」
……ま、まだ乗ったことなかったし、もしかしたら、万が一面白いという可能性も無くはな
「無理 無理 無理 無理!」
「大丈夫、怖がってるダーリンも可愛いよ」
それ何も解決してねぇんだよ!
ああ、ゆっくりと地上が遠くなって……これ機械壊れたらどうするんだよ!
「俺、来世は鳥になるんだ」
「じゃあ私も鳥になる」
ガチャン
体が浮き上がるような感覚がして、だんだん地面が近づいてくる。
激突する!っと思った所で、体に重力がかかって、また地面から離れていき……
もう二度と乗らねぇ。
普段ならバスで本を読んでも酔わないくらい、三半規管は強いのだが、フリーフォールから降りた後はフラフラだった。
「すまん、スポーツ飲料買ってきてもらっていい?」
「分かった、ここで待っててね」
近くのベンチに座って、スポーツ飲料を買いに行く伊織を見送る。
さて……近くに自動販売機はなかったし、もろもろ考えたら5分はかかるだろう。
「で、何やってるんですか?会長」
物陰に隠れているが、綺麗な黒髪がはみ出している越湖シャロの方を向いて、そう言い放った。
あの人何やってんだ?
言われてから、すぐに髪は見えなくなったが、
「いや、もうバレてますって」
二回目の呼びかけで、素直に出てきた。
「……こんにちは」
「はいこんにちは。で、さっきからなんで尾行してるんです?」
「前あんなことがあったから、心配して見に来てあげたのよ」
ああ、伊織の家に監禁された時か。
「そうですか。でも、最近は結構安定してるから、心配な」
ボトン
「ダーリン、何してるの?」
声の方へ振り向くと、せっかく買ってきたスポーツ飲料を落として、顔面蒼白な伊織が立っていた。
俺の完璧な計算によると、あと2分はかかるはずなのに、どうしてもう帰ってきているんだ。
「……会長、責任とって下さい」
「結婚する?」
「今のはそういう意味じゃないでしょ」
まったく、ボケが下手なんだから。
現実逃避(PP40)をしていると、
「こんなところで、ラチ」
「(ギロッ)」
「ッ、越湖さんは何をしているの?」
女同士の、熾烈な言い争いが始まった。
良かった、俺に矛先は向かないみたいだ。
会長が暴力に走ろうとした時だけ仲裁しようと思って、少し離れた所から傍観して、10分後。
とうとう考えることがなくなって、本格的に暇してきた時、
「ちょっと来て、ダーリン」
「拒否権はないわ」
ようやく何かの結論を出した美少女×2に各腕を引っ張られ、着いた先は……ゴーカート。
「えっと……これで何すんの?」
「ダースケ、あれを見ろ!」
「ええええェぇぇぇ!」
ダースケって誰やねん。
とにかく、ゴーカートの看板を見ると……そこに書かれていたのは、
『♡~愛情レース、開催中~♡』
……どうやら、なんかイベントをやっているらしい。
伊織が休日とかではなく、今日行きたいとか言い出したのはこれか。
辺りを見回すと、俺たちの他にも11組のカップルがいた(3人はうちだけ)。
『ルールは簡単、この愛情計測器が搭載されている特殊カートで、できるだけ速くコースを走れ!もちろん、互いの愛が深いほどカートの速度も上がります。
そして、一位のカップルには……』
説明していた係員さんが、何かを掲げて、
『このカート型ペアルックストラップをプレゼント!現在メルカリでは50万円で取引されています』
なんだこれ。
今は2050年、そういう機械も徐々に浸透しつつあるのだが、
「……これ、前テレビで見た時は、抽選で出場者を決めるって言ってなかった?」
「ちょっと違うよ。ここの運営に、恋人への愛情作文を送って、そこから選定されるの」
ああ、思い出してきた。前に東間が、統華に作文書かせたがってたな。
「……俺書いた記憶ないんだけど」
「安心して、私がダーリンの思いを文字化しておいたから♡」
そ、そっか。つまり、周囲の連中も選りすぐりの恋愛猛者ということか。
職員さんに、伊織がカッターを見せびらかし、会長が睨みつけるという、勝海舟もビックリの交渉術を発揮し、4席ある特殊カートを用意してくれた(愛情を計れるのは前の二人だけ)。
「ちょっとハンデか?」
「大丈夫、私マ〇カのレートカンストしてるから」
いや、それとこれとは話が違うというか。
「私は私有地で、時速300キロを乗り回したことがあるわ」
こっちの方が頼りになりそう。
でも、会長との愛情って……無くね?
あったとしても、主従の関係くらいだよ。
てか、どうして会長乗ってんの?
とりあえず、伊織の愛情パワーと、マ〇カカンストテクニックで押し切る感じになるのかな?
『では始めます。よーいドン!』
係員の人がスピーカーで宣言し、12台の特殊カートが走り出した。
スピードは、どれも大差ない印象。
……いや、俺から伊織への感情なんて、ほとんどが親愛と友情だから……ほぼ一人で食らいついてるお前は何者なんだ?
「うーん、思ったよりスピード出ないね」
「愛が足りないんじゃない?」
「ほ、他のカップルも凄いだけだろ」
本当にマ〇カで培った技術で、ドリフトを完璧にこなして、現在5位。
そして、見えてきたのは。
「アイテムボックスだ!」
「これ怒られないよね!?」
?のマークが書かれている、大きな段ボール。
1位の車がその段ボールに突っ込んでいったので、俺たちもそれを真似して突っ込む。
「取ってダーリン!」
「え、どゆこと?」
あのアイテムボックスモドキには、本当に役立つアイテムが入ってたらしい。
他の車は、少し減速してでもアイテムを取りに行っているが、うちは全く減速してくれないから、もちろん取れる訳がなく、
「取っておいたわ」
「うっそだろおい」
「チッ。じゃあ交代ね」
こいつらは、アイテムを取ったら運転を交代するらしい。
けど、会長と俺で、スピードでるかな?
「……なんか速くなってない?」
「どうかしら」
「……嘘だよね、ダーリン」
何の効果か分からないが、俺たちはさっきよりも速くなっていた、
「これバグじゃない?」
「そんなことないわ。それよりも、アイテムを使ってみて」
会長が取ったアイテムは……パフェ。
かなり豪華なやつだ。
「これどうやって使うの?」
「私の番まで待っておいてね」
「隣の車を見ておきなさい」
会長の言う通りに、隣の車の運転席を見ていると……助手席の女性が持っていたのは、お高そうな香水。
それを使って、運転手である男魅了し、
ブーン
凄い加速をした。
なるほど、愛情を上げて、スピードを上げられるってことか。
「……やらなきゃだめ?」
「私、勝負事には常に全力を出すの」
溜息をついて覚悟を決め、ついていたスプーンでパフェのクリームをすくい、運転している会長の口元に、
「あ、あーん?」
「……(パク)」
ギューン
モーターが唸りを上げて、凄いスピードで加速していく。
そのまま、二口目、三口目。
最後のイチゴを食べさせて、
「……ごめんなさい、手が離せないから、口元のクリームを取ってくれない?」
「……このアイテム強いな」
「うううぅぅぅ(死にかけ)」
ブオー
もうよく分からない音を上げ始めたカートは、イカれたスピードを出して、3位まで上昇した。
ここで、次のアイテムボックス。
まだ運転していたいのか、伊織にアイテムを取らせないように、蛇行して抵抗していたが、
「交代!」
「しょうがないわね」
再び伊織の運転に戻って、少しスピードが下がった気がしたが、そこまで大きな影響はないだろう。
そして、今回のアイテムは……某アイドルの写真集。
どう使うのか分からずに混乱していると、二位のカップルが少し下がってきて……伊織に俺が他の女と並歩している写真画像を見せつけてきた。
「だ、ダーリン?」
「よく見ろ、合成だ」
すぐに持ち直せたが、それでも少し遅れを取ってしまった。
なるほど、妨害アイテムか。
「貸しなさい」
「ああ、任せた」
後ろにいる会長に、アイドルの写真集を渡した。
渡された会長は、そこそこ速い車の上にも関わらず、大きく身を乗り出して、前にいる2位のチームの運転席に投げ込んだ。
そして、パートナーにアイドルに鼻の下を伸ばしていると思われ、一気に減速。
遂に2位になった。
行ける!
最後のアイテムが近づいてきて……1位の車が、急に減速した。
俺は何がやりたいのか分からなかったが、レートカンスト勢の伊織は当然気づいたようで、
「ッチ」
振り払おうと蛇行するが、キッチリと前に張り付かれて、前のアイテムボックスを割られた。
そして、すぐ後ろを走っていた俺たちは、もちろんアイテム無し。
「……終わった」
諦めムードの中、
「諦めたら、そこでレース終了ですよ」
伊織が何か言い出した。
「アイテムに頼る必要なんてない、一言あれば本気をだせる」
……マジか。
けど、ここまでやって、負けるのもアレだよな……。
「フー、よし」
深呼吸して、
「伊織」
運転しながらも、彼女は振り向き、
「愛してる」
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カートが、言葉にならない音を鳴らして、音を置き去りにした。
次の日、伊織と会長のバックには、半分にされた片割れストラップがついていて、
「なんだそのストラップ」
「50万の半分で25万のストラップだ」
悠馬のバックには、割れていないストラップが付いていた。
勝海舟は「交渉が上手い歴史人物」の検索で、一番上にでてきた人です。