生じる綻び
「店番、長かったね」
「いやー、ちょっと交代の人が遅くてね。これ上げるから許してくれ」
そう言って、買ってあった可愛い魚のぬいぐるみを渡した。
ちょっと機嫌が悪い気がしていたが、統華の趣向にジャストミートしてるからか、笑顔に戻って、
「まあ、それなら許してあげる。じゃあ、デートの続きしよう!」
「そうだな。やりたいこと決まったか?」
「うん、あっちに行きたい」
ファニーが指さした方向は……射的とか、ヨーヨー釣りとかの、ゲームゾーンだった。
さっき沢山食べたから、当然といえる。
「悠馬、こういうの得意だったよね」
「ああ、沢山取ってやるよ」
さっきダーツを外して、自信喪失していたが、射的でお目当てのものを当てられた時点で自信を取り戻した(お調子者)。
次は、金魚すくいなんだが……
「これって、金魚すくいなのか?」
「すくってはいないよね」
その金魚は……速かった。
凄いスピードで水中を駆け回り、すくうのではなく手づかみ。
「なんだこれ」
「そりゃあ水中なんだから、それを活かした屋台を出すのは当たり前でしょう。
一回500円10秒ね」
店員さんが説明してくれた。
確かに、俺たちも水中を活かしたライブをしたわ。
一回分のお金を払って、
「やっちまな!」
「……加速!」
飴を口に入れて加速し、2秒後には、全ての指の間に高速金魚が捕えられていた。
よし、部屋の中にでも放し飼いしよ。
「私の分も取って」
「任せろ、天上まで捕まえてやる」
3分後、出禁になりました。
さて、次はどうしようか。
その時、シェンラさんのからの通話がきて……
『危険です。進行方向にラチックがいます』
「マジか!」
「どうしたの?」
確かに、ラチックと分かれたのもダーツがあった、ゲームの屋台だったから、この辺にいてもおかしくない。
「あ、あのー、が、ガンツ!ガンツがいたんだ」
「あいつ……戻ろう」
「そうだな。うん、引き返そう」
……ごめん、そして、ありがとう、ガンツ(敬礼)。
さて、そろそろ交代しなきゃいけない訳だが……なんて言い訳しよう。
「なんかアイディアありません?」
『うーん、家が燃えたとか?』
「近所に住んでるから、余裕でバレます。好きなアニメが始まるとかはどうでしょう?」
『「私はその程度だったのね」ってなるだけですよ。急に電波が悪くなったとかはどうでしょう?」
シェンラさんのかなり似ている声真似に苦笑しつつ、
「あ、ちょっと電波が悪いみたい。ごめんけど、待っていてくれる?」
「えー。早くして」
「ごめんな」
背中でボタンを押して、一旦ログアウトし、参テルのリス地からラチックの元へと向かった。
「ごめん、食べるのに時間かかっちゃった」
「あなた、食べるの早い方よね?」
「な、何故か冷蔵庫の中が空っぽだったから、買いに行くのに時間が必要だったんだよ」
「ふーん」
今日だけで、言い訳のレベルが5くらい上がった気がするわ。
まだ少し疑われてる気はするが、許容範囲だろ。
「じゃあ、行こうか」
「待たされていた分、私の行きたい所に行かせて貰うわ」
そう言って、ラチックが向かった店は……服屋。
「正直、自分でも服のセンスがおかしいのは自覚してるわ。だから、似合っているか見て欲しいのよ」
「いや、俺も中々センスイカれてるぞ」
「いいのよ。あなただけで」
確かに、今ラチックが着ている服は、高校の制服みたいなやつ。
おそらく、彼女も俺と同じように、制服=万人が似合うという認識でこの服を着ていたのだろう。
「俺のセンスが火を噴くぜ!」
服屋に入ると、ありとあらゆる服が置かれていた。
これ、自作か?
……ちょっと職人としての血が騒ぐな(ない)。
あと、これを見られたら残業量が酷くなる気がするから、絶対に会長には見せたくないな。
さて、ラチックに似合う服装かぁ。
やっぱり、紫の髪を活かす感じにしたいから……黒か白っぽいやつにしたい。
「これはどう?」
そう言って、俺がピックアップした服は……結局セーラー服だった。
いや、マジでラチックには制服的なのが似合うと思うんだよなぁ。
何故か、頭の深い所に刻み込まれている気がする。
「うーん、美しい」
「そ、そう。もう一着くらい選んでくれない?」
「じゃあ、ラチックは俺の服を選んでみてくれよ。まだUAOで、初期装備とスーツしか着たこと無いし」
「面白そうね」
二着目は、黒い服がいいなー。
視線を流して行くと……一つの前で、目が止まった。
これ、着てくれるかなぁ?
「決まった?」
「ええ」
「じゃあ、せーので見せあおうぜ」
「「せーの!」」
俺が出した服は、メイド服。絶対に似合うぞ。
そして、ラチックが出した服は……黒の甚平。
黒い服からは逃れられないようです。やっぱり、日本的な服装が好きなのかな?
「……これ着たら、さらにヤクザ感増加しない?スーツだったら、まだマフィアかもしれないってなるけど、甚平はもうアウトじゃん」
「それを言ったら、メイド服って……何?」
「……ちょっと、着てみようぜ」
服を渡しあって、メニューを弄り、着てみると、
「「やっぱ似合う」」
結局、両方買いました。ライブとグッズ販売で、かなり稼いでいるから、金銭的には余裕がある。
今度メイド服でお茶入れて貰おう。
『あ、あー。こちらシェンラ、こちらシェンラ等司令官。イグノ三等雑用官、応答せよ、応答せよ』
この人も、楽しそうにしているなぁ。
「こちらイグノ上等官、指令を求む」
『今すぐミワちゃんの方へ行きなさい』
時間を見ると、もうそろそろ劇も終わる時間だった。
「もう言い訳のネタ残ってません」
『考えないで、感じるのよ』
「いや意味わからん」
コソコソ通話していると……誰かが、俺の背中を押した。
「行ってきなさい。どうせ、ミワ辺りでしょう?」
「……すまん」
「埋め合わせは、して貰うからね」
「わーった」
加速を繰り返して、ミワの元へ向かいつつ、
「どうしてバレたんでしょう?」
『1時間も放置してたらバレるのでは?』
「そうなのかな」
『……そういえば、昨日誰がイグノと過ごすかで、言い争ってました』
「十割それじゃん」
昨日言い争ってたのって、それかよ。
「なんで俺と過ごそうとするんですかね。ミワは分かるんですけど……」
『……そっかぁ(諦め)』
っと、ミワがいる劇場に着いた。
一応適当に飲み物を買って、元の席まで残ったんだが……もう俺の言い訳ボキャブラリーは、とっくにリミットブレイクを迎えている。
「……ほら、飲み物買ってきたよ」
「わー、ダーリンがいるー」
よかった、もう壊れてるから、言い訳なんていらなそうだ。
「で、どこ行ってたの?」
だめでした。
「飲み物で迷ってたんだ」
「そんなに私のことが分かってないの?(スチャ)」
……やばい、選択肢ミスった。