このイベントは続く!
第三回イベント2日目。
昨日と同じ10時に、昨日と同じくアイドルライブを行う。
「ねえ、似合ってる?」
「ああ。とっても可愛いよ(妹感覚)」
ライブの用意ができている、エンペラータイムのファニーが聞いてきた。
彼女は、少し顔を赤くしつつ、
「今日の午後からは自由行動なんだよね?」
「昨日は、ほぼ自由時間がなかったからなぁ」
「じゃあ……久しぶりに二人で遊ばない?」
昔は、結構二人(悠馬には秘密)で遊んだりもしていたが、最近は二人きりになることはなかった気がする。
「そうだな。やるか」
「やった!じゃあ、ライブ頑張って来るね」
「おう」
ファニーとデートか。先に、良い感じの店を探しといてやろう。
そう思って、メニュー欄の掲示板のようなところから、デートスポットを幾つかリストアップして……
「ねえ」
「ん、なんだ?」
気づいたら、ラチックが後ろに立っていた。
こいつも完全武装ができていて、非常にエレガントである。
「今日の午後って、暇?」
「あー、ちょっと用事があるわ」
「……暇よね?」
謎の圧力を感じる……。
最初に会ったころは、敬語で下にでている、お嬢様みたいな人だったんだが……まあ、素を出せる様になったってことか。
とりあえず、先約がいるから断って、
「ヒマデス」
「じゃあ、私と一緒に店を回りましょう」
色々弁解しようと思ったが、その頃にはもう居なくなっていた。
……これ、どうすればいいんだ。
割と本気で悩んでいると、
「おーいダーリン。今日の午後は暇だよね」
「暇じゃない!全部の宿題が残ってる夏休みの最終日くらい暇じゃない!」
「え、ダーリンがイベントに参加しないなんてあり得ないし、リアルでも用事ないよね? じゃあ、何で暇じゃないの?もしかして……オンナ?」
同棲してるからって、リアルの用事まで言い当てて来るのはズルだと思うんだ。
そして、逆刃のナイフがきらめいて、
「いや、あれだ。暇……かもしれない」
「じゃあ、午後は私とデートね♡」
終わった。断りにくい順に来るのが悪いと思う。
マジでどうしようかと、絶望のどん底に沈んでいると、
「あーあ。大変なことになってますねー」
シェンラさんが現れた。どうやら、今件の一部始終を見ていたらしい。
……それなら早めに助けて欲しかった。
「……これ、どうすればいいと思います?」
「ふっふっふ。任せて下さい、この熟練恋愛プロフェッショナル、シェンラさんに!」
もうどうにでもなれ!
◇
野球大会優勝もあってか、二日目のライブは、満席どころか通路にもあふれだした状態でやることができた。
昨日頑張ったお陰もあって、一番騒がれたアンペルに感激して(現実逃避)、デートの時間が始まった。
多分デートに地獄なんて読ませるのはここだけだよ。
『まずはファニーとお昼ご飯ですね。まだ10分止まれる【リーフィーシードラゴン】は残すために、いつも通り食べ歩きにして下さい』
「アイアイサー」
シェンラさんからの通話が聞こえてきた。
町中だから、幾らでも電話できるので、めちゃくちゃサポートしてもらおう。
さらに、カメラ魚という、ちょっと怪しいお店から買った物を使って、リアルタイムで見れている。
初めて俺の部屋のパソコンが役に立った瞬間である。
まずは、他の二人に「グッズの店番してるよ」と言っておいて、ファニーと昼飯(腹には溜まらない)をいただく。
集合場所に行くと……鏡を片手に、必死に髪を整えているファニーがいた。
「ごめん、待った?」
「い、今来たところだよ」
とりあえずテンプレ会話をして、予定通り出店を渡り歩くことにした。
「はい、みかん味のジュース」
「ありがと」
「はい、みかん味の綿あめ」
「わーい、初めて見た」
「はい、みかん味の焼きそば」
「やっぱり、みかんは何にでも合うね」
俺も食べてみたんだが、綿あめはともかく、焼きそばはちょっと……ただのゲテモノなんじゃ。
それでもファニーは、とても美味しそうに、タコの代わりにみかんが入ってる、みかん焼きを食べていた。
とにかく、みかん味の物が沢山あって助かるなぁ。
「ほっぺにソース付いてるぞ」
人差し指で、ソースを取って口の中に入れ……スッパ。
これもみかん味かよ。昔はよくこんな感じのこともやったもんだ。
「あ、ありがとね」
『そろそろ次のラチックですよ』
「あー、そろそろ店番だから、一旦戻るね」
「一緒に行こっか?」
「いいよいいよ。次どこ行きたいか決めておいて」
加速して全力で振り切り、次約のラチックの元まで向かう。
そこそこ遠い所で、いつも通り凛と立ち尽くしてるように見えて、どこかソワソワしているラチックに合流する。
「待った?」
「いつもだったら踵落としだけど、今回は許してあげるわ」
う、後頭部が疼く……。早く楽しんでもらおう。
「どこ行きたい?」
「屋台を回りたいわ」
「OK。じゃあ、行こう」
並んで歩きながら、面白そうな屋台を探す。ちょっと混んでるし、手を繋いでおくか。
「……」
「いや、はぐれないように、ね」
「ええ、そうね(ギュッ)」
周りの人たちからの視線が痛いなぁ。見よ、これがリア充だ!
そのまま、手をつないだまま、屋台が並んでいる道を歩いていると……急にラチックの足が止まった。
視線の先には、ダーツの景品として、カッコいい扇子があった。
「あれが欲しいのか?」
「まあ……」
「俺に任せておけ」
挑戦料を払って、扇子が貰える内側から2番目を狙って……とう!
当たったのは、内側から7番だった。
「……思ったより難しい」
「はぁ。自分でやるわ」
ラチックが、黒いオーラを付けて……綺麗に放物線を描きつつ、お目当ての内側から2番目に当たった。
俺も器用さには結構自信があったんだがなぁ。
嬉しそうに、景品群から例の扇子を選び取ったラチック……。
い、いや、7番目も良いものがあるはず。
安価アイテム、文房具、その他もろもろ、参加料よりも低い値段のアイテムが置いてあって……どうしよ。
その中に、ラチックに似合いそうな、黒いリボンが……これでいいか。
「はい、これあげる」
「あ、ありがとう。結んでくれない?」
「んー。ちょっと横向いて」
ラチックの左髪に、黒リボンを結んで……うん、良い感じのチャームポイントになってるんじゃないかな。
「似合ってる?」
「うん。綺麗だよ」
『そろそろ交代です。次のミワちゃんの所に行って下さい』
「ちょっと短くないですか?妹忖度してません?(小声)」
「何か言った?」
「い、いやー。ちょっとお腹が空いてきて。一旦ログアウトしてくるね」
「分かったわ」
ちょっとしょんぼりしている彼女に、心の中で謝りつつ、ミワの方へと向かった。
一番面倒な奴だ。
集合場所に着いて、見当たらない彼女に、チャットを打とうとしていると……後ろから抱きついてくる人がいた。
「イエーイ、ダーリーン♡」
「はいはい。とりあえず離れて」
『可愛い~』
満面の笑顔のミワを見てか、シェンラさんの甘い声が聞こえてきた。
ちょっとこの人、シスコン入ってない?
「じゃあ、行こう!」
「どこ行くんだ?」
そう言うと、ミワは一つの建物を指さして、
「劇を見に行こう。映画がデートの定番らしいけど……映画はなかったから、劇にしたんだ」
「……あの、劇の途中でどうやって脱出すればいいんでしょう?(小声)」
『もうずっとミワちゃんと一緒にいればいいと思うよ』
「ちょっと、しっかりして下さい(涙目)」
『……冗談です。なんとか言い訳を考えておくから、とりあえず劇場に入って、ミワちゃんを楽しませて下さい」
「頼みましたよ……」
シェンラさんに祈祷を捧げつつ、ミワの見に行きたがっていた、恋愛劇場を見に行くことにした。
やっている劇は……なんかシンデレラとか、白雪姫、美女と野獣やおむすびころりんなど、恋愛昔話を繋ぎ合わせたものだった。
「昔々、ある所にシンユキルという、可愛らしい少女と、おばあさんが仲良く暮らしていました。ある日、シンユキルにおむすびを持たせて、城のパーティに行かせることに……」
結構面白くて草。
やばい、先が気になるんだけど。
その時、ファニーから鬼のようにメールが送られてきた。
気づいたら、ファニーと別れて、もう1時間以上過ぎている。
「シェンラさん、言い訳思いつきました?」
『あ、ごめんなさい、劇に見入ってました。……とりあえず、飲み物を買いに行くと言って、抜け出しましょう』
「それ、嫌なことを後回しにしてるだけじゃ……」
「どうしたの、ダーリン?」
「あー、映画っぽく、飲み物でも買ってこようかなって」
「分かったよ」
……もーやだー。
今年の夏の最後はやばかった。
シンユキル=シンデレラ+白雪姫+ベル
映画途中は、足をバタバタして止まってる判定を防いでいた。
2回くらい、動かすのを忘れて、ダメージ受けてた。