野球回の続き
次は普通回なので許して。
現在、2回裏1対2で、1点負けている。
今回は3回までの短期試合だから、次の回でもう終わりだ。
次のバッターは、6番のラチック。
「ぶっ飛ばせー!」
「ホームラン!ホームラン!」
「燃え上がれー!」
「黙っていなさい」
「「「すみませんでした」」」
「……イグノはいいのよ」
熱烈な応援を受けて、ラチックがバッターボックスに立った。
綺麗なフォームで、ひときわ濃いオーラを纏いながら、バットを振りかぶって……相手のピッチャーが投げた。
投石スキルだけあって、やっぱりかなり速い。
だが、こっちのラチックは技巧派。
カン
3塁方向に流して、余裕で1塁までたどり着いた。
次は、7番のRexなんだが……こいつはピッチングに〈身体強化〉のMPを使って欲しいので、軽く流してもら、
「灼熱バットォ!」
こいつに手抜きなんて期待したのがバカでした。
意味もなく燃え上がったバットが、ボールを穿つ。
その時、
「〈クロック・ノック〉」
相手の一塁の人が、何かのスキル宣言をして……〈殺戮魚の声〉の黒いオーラが消えた。
明らかにラチックとRexのスピードが下がって、相手のボールが二塁から一塁へ回され、ツーアウト。
戻って来たラチックに状況を聞いてみる。
「どうなってる?」
「スキルが使えなくなってる。多分、相手一塁のスキル」
「次はいつから使えそうだ?」
「分からない。でも、時間が経てば治るとは思う」
……できるだけ時間を伸ばして、ラチックのバフを取り戻さないと、勝ち目はかなり薄いぞ。
8番バッターは、スピードもパワーもないシェンラさんなので……できるだけ時間を稼いで、最後の攻撃で巻き返すしかないか。
3回表、相手の2番から。
最初からギコーのいるレフトに、ミワのデコイを置いてもらう。
1回の時は、ビックリ火の玉ストレートで打ち取ったが、今回はラチックのバフがない。
カン
案の定打たれて、センターへボールがいった。
センターなら、元から結構パワーもスピードもあるミワだから、どうにでもなるだろう。
ミワが、グローブにボールを収めて……すり抜けた。
「は!?」
「ごめん、それデコイ!」
ミワは、デコイだと思っていた、レフトにいた。
必死にミワが泳いで投げて、俺が加速して後押したが、既に相手のバッターは三塁まで進んでいた。
「ごめんダーリン……」
「しょ、しょうがないから。ほら、さっさと戻れ」
さて、ノーアウト3塁、相手のピッチャー3番。
まだラチックのスキルは戻らず、キツイ時間が続く。
カン
また、センターにボールが飛んでいき……また、ミワの体をすり抜けた。
「それもデコイ!」
「あああああああああ!」
今度は一応カバーできるように動いていたお陰で、2塁までで済んだが……元から3塁にいた人は、ホームまで帰り、また点差が開いた。
「タイム!タイム! お前何やってんの!?」
「ごめんなさい(泣き)。今度は、今度こそレフトに飛ばされると思ってたの!」
「結果論だけど、全然だめじゃねーか!」
「……体で払います」
「いらない。あと、俺以外のメンバーにも謝れ」
「すみませんでした!」
限界までデコイを出して、完全に同じ姿の人が5人土下座しているのは、総鑑だった。
他のメンバーも、次々とミワを叱っていく。
長かったのか、相手の一塁(スキル封印の人)が、
「あのー、そろそろ再開してもいいですか?」
「もうちょっとだけお願いします。おい、デコイで5段土下座してみろ」
「私を上げるから許して~」
「いらない!」
数分後、相手と審判のNPCに謝って、試合を再開した。
しっかりと、全員が前向きな顔をして。
次は、さっきホームランを打たれた、相手の4番バッターだ。
だが、
「〈殺戮魚の声〉」
ラチックのスキルが戻っていた。
打たれたら終わりだからか、Rexに集中してバフを掛けている。
もちろん、さっきの罵倒大会は、時間を稼いで、ラチックのスキル封印を解除するためだ。
そう、あれはワザとだったんだ。誰も本心で言ってないよ(真顔)。
ミワのミスだって、ワザとだったんだ。
けど、どっちにしろ、相手の4番にはさっきホームランを打たれている。
もう、Rexに任せるしかない。
彼女は、
「なあ、みんな。盛り上げてくれ」
そう言って、笑った。
ご注文通り、頭の上で手を叩く。
チーム全員に連鎖して、相手のチームまで叩き始めた。
「ほら、画面の前のみんなも」
中継先に呼びかけつつ、楽しそうに一定のリズムで、手を叩いた。
【クジラ】とか【イルカ】とかの、音波を伝えるスキルがあるのか、沢山の声援と拍手が送られてきた。
(ノ・ω・)ノ「オ~、オ~、オオオォォォ」×無数
ちょっとうるさい気もするが、なんとなく楽しいからいいや。
Rexが目を閉じて振りかぶり、
「いくぞォ!」
「来い!」
「〈炎上の油道〉」
火の道がキャッチャーのシェンラさんまで延びて、そこを燃えるボールが駆け抜けていく。
バッターのはさみが振られて……ボールに当たった。
だが、
「いっけー!」
Rexが叫ぶと、さらに火が強くなって、はさみの一部が溶けた。
そんな状態で、まともに打てる訳がなく、キャッチャーゴロでアウト。
「やったあ」
と言って、Rexはへたり込んでしまった。
MPを完全に使い切ってしまったみたいだ。
俺は、Rexを抱っこして、
「ありがとう。後は任せておけ」
「ああ」
彼女とポジションを交代して、俺がピッチャー、Rexがショートになった。
「頼む」
「ええ、〈殺戮魚の純愛〉」
ラチックからバフを貰って、加速しながら、全力のストレート。
コントロールの精度が悪く、ちょっとストライクゾーンを外れていたが、相手が空振りしてくれて助かった。
その後も、デッドボールとか、フォアボールとかあったが、なんとか残りの2アウトをもぎ取れた。
「シャア。あと3点取るぞ!」
「おー」×8
3回裏1対3で、2点負けている状況。
勝って宣伝するのと、負けて宣伝するのでは、効果が全然違う気がする。
次は……9番のガンツからか。
「よし、ワンアウトゲットー!」
「あと二人! あと二人!」
「ちょっと、油断しない!」
もう、ガンツがすぐ死ぬのは、周知の事実だったようだ。
一球目にバットが掠ると……普通にガンツは死んだ。
ファールになったから、セーフなんだが……完全に舐められている。
けどさぁ。あまり奴を舐めるなよ。
二球目、舐め腐ったボールが投げられて……ガンツが打った。
元々、遠距離型で、耐久をほぼ無視してるあいつは、攻撃力もスピードも両方高い。
死ななければ、ステータス上での攻撃力は、《海馬組》でもトップだ。
そして、ここは町だから、ガンツのストックは20以下にはならない。
ホームランギリギリまで飛んでいき、一気に三塁まで進んだ。
そして、次はさっきホームランを打った俺。
「ッシャ来いやァ!」
「やっちまえー」
「ピッチャービビってるぞー」
熱い声援を受けて、俺は、
「フォアボール」
「クソが!」
ボール四回で流されました。
いや、ちょっと遠いくらいだったら無理やり打つけど、下に叩きつけられたら無理だわ。
しかも、
「〈クロック・ノック〉お疲れさまです」
一塁の女に、スキルを封印された。
加速がなかったら、ただの鈍足耐久型だから、余程いい球が行かない限りは、次でアウトになってしまう。
そして、次のバッターは……ミワかぁ。
「ちょっと、なんでみんな微妙な顔してるの!?」
「だって……お前今日散々じゃん」
「大丈夫。本気出すから」
……本気なんだよな?
彼女が今持っているのは、いつもの逆刃ナイフ。
ルール的には問題ないのだが、さすがに短すぎてやりにくいだろ。
「次頑張れよ、ファニー」
「うん」
「んー。見ててよダーリン!」
ミワの一球目、ナイフでは届かない所に投げられてワンアウト。
やっぱりダメなんじゃ……。
二球目。相手のピッチャーがボールを投げて……ミワが逆サイドのバッターボックスに立っていた。
〈ステルス〉で透明になって、デコイで立ち位置を誤魔化していたのだ。
短いバットを避ける様に固定されたコースのボールが、ストレートにミワの正面に飛んでいき……彼女は、鞘に収めたナイフに手をかけ、左足を前に出し、
「天翔竜閃」
抜刀して、下から突き上げられたナイフが、ボールをコートの外まで飛ばした。
初手の俺より飛んで行ったんだけど。
とにかく、ホームランでガンツ、俺、ミワがホームベースを踏み、3点入れて勝利した。
「私、やったよ、ダーリン♡」
「ああ……よくやったよ。みんな、胴上げしようぜ」
ミワを胴上げし、相手チームにお礼したて終わった。
優勝商品も貰って拠点の日本屋敷に帰って来たのだが……なにかを忘れてる気がする。
「……あれ、宣伝したっケ?」
「……あ」×8
【クロノサウルス】
能力:数分間相手のスキル封印
あの神、クロノスの名前を元にされた凄い古代魚。
スキル封印は射程距離が短く、使うには少し工夫がいる。
天翔竜閃
スキルではない。竜の字が違うけど、わざとです。
意味が分からない人はる〇剣を読もう!
〈ステルス〉 一瞬透明になれる
意外と、急所を隠してガン逃げしたらなんとかなる。
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