踊レ 歌エ 一心不乱に回レ
現実バトル回
「踊りましょう」
「は?」
「なに言ってんダ?」
今日も生徒会室はにぎやかです。
まだ5月のイベントはやれていない。
5月5日(子どもの日)あたりに鯉のぼりを上げて終わりだったら楽だったんだが、4月のイベントが最後の最後だったから、流石にスパンが短すぎるので無理だった。
「で、なんで踊るんだ?」
「ただの踊りではないわ。これを見なさい」
会長が、某動画サイトを起動して、検索欄に『剣舞』と打ち込んだ。
一番上にでてきた動画をクリックすると、女の人が刀を振りながら踊り始めた。
「これをやるわ」
「ほんの一週間程度でできると思うか?」
「この人プロだロ?」
ん?そういえば、会長の今日の荷物は大きかった気がする。
「……重要な用事を思い出した」
「逃がさないわよ」
俺の首元に、綺麗な日本刀が押しつけられました。
さらに……会長のバッグから、侍の服みたいなのが出てきた。
「そんなのどっから持ってきた?」
「私の実家」
「日本って刀を持ち歩けるのカ?」
「銃刀法違反だけど、バレなければ問題ないわ。とりあえず着替えるから出ていきなさい。あと、この服あげるから、あなたも着替えてきなさい」
数分後、侍服を着た会長に、モノホン刀を渡された。
なお、じゃまだからと言って、髪を束ねた会長は綺麗だった。
「とりあえず私が見本を見せるから、ジックリ見ておきなさい」
「「「はーい(イ)」」」
珍しく書記さんが喋ったかと思うと、帯刀した会長が、刀を抜いた。
「これを二倍速くらいでやるのよ」
「……いや、普通に無理です」
いや、気になるひとはYouTbeで検索してみてくれ。無理だから。一朝一夕でできることじゃないから。
「とりあえずやってみなさい」
「まあ、やってはみますけど……」
「頑張レー」
「ダーリーン♡」
なんか窓の外から聞こえてきた気がするが無視して、会長に一つ一つ動作を教わっていく。
「……上手ね」
「いや、教え方がよかったから」
意外と何とかなる気がしてきた。
五月下旬のある夜。
自由参加でイベントを行ったが、ほとんどの生徒が学校に残っている。
完全に暗くなった頃、校庭の中央に一つの影が降りてきた。
校舎のベランダから興味津々に校庭を見ている生徒たちから、一気に歓声が上がっている。
屋上から、一筋のスポットライトが当てられた。
影の主は、生徒会長、越湖シャロ。
侍服を着て、腰には立派な刀が収まっていた。
『人間50年~』
放送から、彼の織田信長が出陣の時に舞ったと言われる、『敦盛』が流れてきて、
バッ
会長が扇子を広げて、優雅に舞い出した。
揺れるポニーテールがいい味を醸し出している。
途中から、刀を抜いて、アレンジまでしだした会長のソロ『敦盛』が終わって、学校中から拍手が巻き起こった。
だが、本番はこれからだ。
もう一筋の光が屋上から差し込んで、校庭に入って来た者を照らした。
そいつの名前は辰海悠馬、つまり俺だ。
なんかムードをぶち壊して、「キャー、ダーリーン」とか言い始めるヤバい奴がいたが、無視。
会長のいる、校庭の中心へとゆっくり歩いて向かいつつ、鬼のお面を被って、帯刀している刀に手をかけた。
会長も、刀を振り上げて静止させ、沈黙がはしる。
長いようで短い数秒間が過ぎ、
放送で、某鬼を倒す大人気アニメのOPが沈黙を打ち破り、 盛り上がる所で、俺と会長が同時に動き出した。
俺が付け焼刃の抜刀術で刀を振るい、会長が上段から刀を振り降ろす。
キンッ
甲高い音が鳴り響き、顔を近づけてつばぜり合いになった。
力が強い会長が俺を突き飛ばし、俺は飛ばされながらも反撃し、それを受け止められる。
そこからはゆっくりと打ち合って、たまに刀を回しやバク宙(会長のみ)などの、見せプをして……
曲のサビが始まってから、
キン!
刀の応酬が一気に激しくなった。一気に金属音が5倍くらいに増える。
少し火花も見えてきた。
俺が横向きに刀を振り、下からそれを受け止めた会長が、一瞬俺の刀を止めて、彼女の体を射程外にどかしてから、振り上げた刀を振り降ろし、俺が間一髪で横転する。
一泊置いて、俺は全力で刀を振り上げて……会長の刀が真上に飛ばされ、一瞬彼女は素手になった。
だが、刀がなくても、彼女は俺の刀を全て避けきり、たまに刀の側面を殴って軌道を捻じ曲げる。
そして、刀が落ちて来る時に飛び上がり、真剣なのにも関わらずピッタリ柄を握って、そのまま俺に振り降ろし……ギリギリ斜めに流した刀が、お面の片角を切り落とした。
サビも終わり、クライマックス。
両方一歩引いて、俺は刀を振り上げ、会長は一旦刀を鞘に収めて、抜刀術の準備をする。
最初の状態とは逆になっている。
「ハッ!」
「ヤア!」
最後に最初の声を出して……会長の刀が視聴者側には見えない角度から、俺の首のほんの数ミリ手前を通り過ぎ、俺は演技で倒れた。
校舎から、今日一番の拍手が巻き起こった。
◇
「イッツ!」
「黙っていなさい。まだまだキズがあるんだから」
保健室で、背中のキズ(剣士の恥)に消毒液を塗ってもらっていた、
あの刀には、他の人の血が付いていたとしてもおかしくないので、消毒しとかなければマジで病気になる。
「というか、全く傷ついていない会長の方がおかしいと思います」
「あなたが下手だから……」
「そりゃ始めて一週間だし、そもそも会長がアドリブし始めるのが悪いと思い痛い痛い痛い!」
最初は二人で踊るつもりだったが、「斬りあった方が迫力があル」とのことです。
本当は、劇みたいに完全に決められた演技をするはずだったのに、何故か会長がアドリブをし始めたのだ。
たまに斬られた時も、すぐに引いてくれたお陰で、ちょっとした切り傷くらいしかないが、刀を上に投げた時は、マジで驚いた。
「あと、あなた勝手に真剣から模造刀に替えたでしょう」
あ、バレてた。
「会長の綺麗な肌にキズをつけたくなかったんですよ」
「……そういうのは、傷つけられるようになってからやりなさい」
「……はい」
「おーい、生徒会の人いる?」
担当の原田先生が保健室にやってきた。
後ろには、ディアと書記さんを連れている。
「いますよ。なんの用ですか?」
「今、近所の方々からクレーム電話が殺到していてな。明日、学校の周りの住居に謝罪してこい」
「え、どうして?」
「あれだけアニソンを爆音で流していたら当然だロ」
「流そうって言ったのお前だからな?」
マジでYouTbeで剣舞って調べてみてくれ。結構面白いから。
一応イグノ君剣道経験者(後付け)。それでも素手で抗います。
ちなみに「敦盛」は刀使わないし、扇子バッもしない。