部屋紹介コーナー
第三の町、天空都市参テルに辿り着いた。
みんな毒になっていて、ちょっとHPが不安だったが、町に入ると状態異常は治っていた。
先に着いていたメンバーにチャットを送って合流する。
「おーい」
「お疲れー」
「遅いゾ」
《海馬組》の九人が全員集まった。
ちなみに、先に着いた4人は、Rexが油で毒を防いでくれたお陰で、割と楽にクリアできたらしい。
「そうだ。お土産があるんです」
そういえばそんなものあったな。もし下らないモノだったらお仕置きしよ。
シェンラさんがメニュー欄を弄って……一つの小さな旗を取り出した。
[クラン拠点旗]というようだ。
参テルには、クランの拠点になる建物が無数に存在する。それらに、この旗を掲げると、拠点にできる。
「このアイテムをゲットするために、先に着いていたんです」
「ナイス」
「さらに、良い感じの物件も見繕ってあるんだぜ」
「これは有能」
ギコーに連れられて、その良い感じの拠点を見に行くと……
「……なあ、お前らは俺のことを何だと思っているんだ?」
「ファッションセンスが悪い」
「ガンツ、今お前は全国の黒スーツ男性を敵にしたからな」
ギコーに見せられた拠点は……立派な木造の日本屋敷。
築数十年経ってるデザインが、逆に味を醸し出している。
「いや、これはこれでいいんだけど、俺が入ったらマジでヤクザの本拠地になっちゃうじゃん」
「こんな物も用意してあるぞ」
Rexが取り出したのは……海馬組と書かれた古い木の看板。
「……お前字綺麗だったんだな」
「ま、まあな」
「甘いわ」
ラチックがRexから古看板を奪い取り、裏側に習字で海馬組と書いた。
うわー、こいつも字上手だなぁ。
Rexはパソコンみたいな字だったが、ラチックの字は習字らしい字で、余計にヤクザらしさが出てきたというか、なんというか。
俺が絶句していると、他のみんなはワイワイしながら、その日本屋敷に入っていく。
「え、マジでここにすんの!?」
「昔からこういう住居に住むのが夢だったの」
「日本らしくて良いじゃないカ」
「実家みたいで安心するわ」
……とりあえず、中を見てから決めることにした。
門を開けて、塀の内に入り込み、周りの外観から見ていく。
何故か水中に池や鹿威し(水が溜まるとポンってなるやつ。ググろう)があったり、耐水障子があったり……なんか本格的だな。
建物の中に入ると、畳の部屋が10個あり、建物の中心に一つだけ場違いな大きなテーブルと、イスが周りに置いてあった。
さらに、奥の方に銭湯みたいなのもあり……
「よし、ここにするか」
「そうだな」
「銭湯最高!」
普通にいい物件で草なんだ。
「じゃあ、どうぞリーダー」
シェンラさんから[クラン拠点旗]を受け取ると、旗に《海馬組》という文字が浮かび上がった。
そして、旗を刺す用の穴に、旗を掲げた。
あと、門にラチックの習字看板を貼り付けた。
「一人一つ部屋ね」
「兄妹は同じでいいだろ」
「絶対ヤダ。死んどけ」
「私たちは一緒だよね?ダーリン♡」
「……あれだ。俺たちにはもう一緒に住んでる愛の城があるじゃないか」
「……(ジーン)。そうだね、ダーリン♡」
「へー」
シェンラさんが細い目で見て、クスクス笑っていたが、その意味は分からなかった。
◇
旗を掲げてから、1日が経過しました。
拠点のシステムがあるからか、参テルには家具を売っている店が多い。
さらに、ネットから写真を持って来たり、自分の写真をアップロードできたり、まあ色々と自由自在なんだ。
「と、いうことで、突撃、隣のお部屋!」
撮影許可はされてませんが、面白そうだからいいでしょう!
「じゃあ、最初はガンツの部屋でございます」
鍵がかかっていたが、リーダー権限で鍵を開けた。
「突撃ー!」
「なんだイグノ!?鍵はどうした!?」
ガンツの部屋は……一つテレビが付いていること以外は、アニメの女キャラの画像が部屋一面に飾られていた。
……幼いのが多い気がするけど、俺がしっている限りだと全員妹キャラなんだが、気のせいかな?
「な、良い感じの部屋だろ」
いや、長い仲の俺なら分かるぞ、こいつは何かを隠している。
額縁に入れられてるアニメキャラ画像を見て……額縁をひっくり返すと、ファニーの写真だった。
さすがにリアルの統華写真はなかったが、これでも十分ファニーに怒られるだろう。
「うわ……(ドン引き)」
「待ってくれ、ファニーには言わないで!」
「じゃあ、他の部屋も見てくから、付いて来い」
さて、次はファニーさんの部屋です。
女子部屋の鍵を開けるのは躊躇っていたが、幸い鍵は掛けられていなかった。
ファニーは不在だったが、普通の部屋っぽくて、幾つかの可愛い服と、動物(魚化)のぬいぐるみが置かれている。
……一撃必殺イタチ魚には少しトラウマがあるが、見てくれは少し愛嬌があるのか?
ちょっとガンツの息が荒くなってる気がしたから、さっさと終わらせた。
「(写真立てにイグノの写真があったが、あとで壊しておこう)」
「どうしたガンツ?」
「何でもない。次は……アンペルか」
アンペルの部屋には鍵が掛かっていたが……あいつならいいか。
彼女の部屋は、いつかの生徒会選挙で見たように、金ピカに光り輝いていた。
「なんの用ダ?」
「今、皆の部屋を巡ろうっていう企画してんの」
「意外と楽しいぞ」
こいつ本当に金好きなんだな。
昨日『日本らしくて良いじゃないカ』とか言っていたのに、ここに日本らしさがどこにあるんだろうか?
さて、次はシェンラさんなんだが……鍵がかかっていたし、絶対怒らせたら怖いタイプだからやめておこう。
その次も……ミワなんだよ。
興味もあるが、正直見たくない。
「兄貴の部屋を見に……」
「おじゃましまーす」
おいガンツ、パンドラの箱を開けるな。連れてきたことは間違いだったかもしれない。
「何ガン……ダーリン♡」
必死にドアを閉めたが、あんまり攻撃力に振っていないため、すぐに押し負けてしまった。
「どうしたのダーリン、お腹すいた?何か伝言?それとも、ワ・タ・シ?」
「何でもないです、間違えて扉を開けちゃっただけです」
「部屋を見に来たんだ」
「黙ってろガンツ!」
「いいんだよ。ダーリンなら♡」
ガンツを置いて、俺だけ部屋に連れ込まれた。
彼女の部屋は……案外まともで、移動式コンロや、冷蔵庫などの料理道具が置かれていた。
「想像の1億倍まともだった」
「だって……ダーリンに美味しい料理を作ってあげたくて……」
一瞬可愛いと思ってしまった。
疑ってごめんな。今度こそ次の部屋に行こうとすると……壁の端が、少し剝がれてるのが分かった。
壁紙を剥がすと……ガンツの部屋のファニーを俺に変えたみたいな感じになってしまっている。
いつもファニーはこんな気持ちなのかな……。
さ、さて、次はアニキの部屋だ。
鍵も掛かっていなかったので、乱雑に扉を開け放った。
「なんだお前ら?」
「みんなの部屋に突撃してみようのコーナーです」
アニキの部屋は、無骨で、あんまりものが置かれていない。
茶色のソファやクッションしかない、リアルの部屋をそのまま再現したような感じになっていた。
「面白くない」
「分かってねえな。ほとんどリアルを再現したということは」
ガンツが布団を持ち上げて……やっぱり、男らしい部屋だわ。
「さすがに定番過ぎません?布団のジッパーを開けて、その中に詰め込むんだよ」
「お前の部屋にはなかったけど」
「……お前、そんな所まで探したの?」
部屋の中でギャーギャー言ってたら、ちょっと赤くなっていたギコーに追い出された。
さて……次はラチックか。こいつも絶対怒ったら怖いから、鍵が閉まっていたら諦めよう。
「開いてる……」
「……行くぞ」
意を決して、彼女の部屋の扉を開けた。
日本刀、弓、槍などが飾られている、武器庫みたいな部屋の中央に、ラチックが正座していた。
……目を瞑って、何かに集中しているみたいなので、俺たちは無言でそっと扉を閉じた。
あとは……Rexか。
そろそろ面倒になってきたから、適当に扉を開けた。
瞬間、熱水が流れてきて、後ろに控えていたガンツが死んだ。
「俺にはこれ以上進めない。後は頼んだ(バタッ)」
「ああ、俺に任せておけ」
Rexの部屋は、もうサウナだった。ゲーム内でサウナって意味あるの?
座る所に、タオル一枚のRexが座っていて……一瞬で扉を閉めた。
「おうブラザー、一緒に入るか?」
「いや、やめておく」
みんな面白い部屋だったなぁー。
自分の部屋に戻ろうとすると……クランメンバー全員が俺の部屋の前に立っていた。
「……なにやってるの?」
「部屋を見ていいのは、見られる覚悟があるやつだけだ」
「気になル」
あ、鍵かけてなかった。
俺の部屋の扉が開いて……一面のパソコンが迎え入れた。
早くもガンツが呆れてる。
「……なんだこれ?」
「アニキなら分かるだろ?一面のパソコン画面って憧れない?」
「キーボードが10こくらいあるのだけれど」
「今は最高で6つまでしか使えないけど、ゆくゆくは10個平行で使いたい」
6つ平行でテ〇リスしたら、みんな帰っていった。
悠馬君の唯一の特技、平行6つPC使用