楽しい山登り
人の身長と同じくらいまで巨大化したアリが、少しゆるキャラ化されつつも、大量にいる。
「確かに二人では無理そう」
「でしょう!」
「私なら一人でいけそうだガ?」
……群れているということは、単体ではあんまり強くはないということだ。
こいつの電域なら引き殺すことが可能だろう。
「いや、無理だ。イグノとの試合を見てたが、地中には攻撃できないんだろ?
蟻地獄が潜んでいる」
ガンツが忌々し気に言った。あ、さっきやられたんですね。
「あと、フレンドリーファイアありだから、一瞬で俺が死ぬ」
それは自分でなんとかしろ。
でも、ずっといたら俺とファニーも普通に危ない。
「一人で行くなら蟻地獄に気を付けながら電域を張ればいけるけど、チームプレイがしたいなら、協調していくしかないぞ」
「それくらい分かってル」
「で、これ陣形どうする?」
色々話した結果、俺とアンペルで道を切り開いて、ガンツとファニーが左右背後警戒兼、ファニーがガンツ介護。
「第二の町行くぞー」
「「「おー」」」
最初は……アリ魚か。
加速を使って、さっさと歯を砕いき、二発目で頭を破壊する。
加速が終わる前にあと2匹ほど処理して……
「あとは任せた」
「〈600ボルト〉」
アンペルの魔法が飛び、アリたちを倒して、俺は前衛として他のアリを食い止めておく。
そして、加速のCTが終わったところで、次は4匹片づけた。
こいつら、頭を思い切りむき出しにしてるから戦いやすいな。
この陣形は後ろが弱いから、さっさと前に道を切り開かないとそのうち圧し潰されてしまう。
「ペース上げるぞ」
「分かっタ」
まあ、俺は加速なければただの割と硬い魚だから、アンペルさんにしっかり頑張って貰わないと無理だ。
アリの大群を抜けた次は……イモムシ魚。
「この辺りから蟻地獄でてくるから気を付けろよ」
ガンツからの注意が飛んで来た。
アリと同じようにイモムシも殴ってみたが……
「硬!」
加速を一回使い切っても一匹のHPの半分くらいしか削れていない。
だが……アンペルは問題なく討伐できてるようだ。
……巨大カエルと同じ、物理攻撃には強いけど魔法攻撃には弱いタイプだろう。
「ファニー、交代」
「OK」
ファニーとアンペルの魔法コンビで道を開き、俺がガンツの護衛役。
護衛役が必要って……お前は大統領か?
変わった前衛二人は、上手く連携して敵を倒せているようで、アンペルの足元に蟻地獄が出現したが、すぐにファニーが対処した。
後衛の方は処理能力が全然足りていないけど、ガンツの牽制で足止めをし、加速中に倒すというより投げ飛ばして、時間を稼ぐ。
「おあ!」
ガンツが声を上げて……地面に蟻地獄。
加速のCTが上がるまでに少し時間があったから、蟻地獄にガンツが何回か殺された。
この蟻地獄、遠距離型を優先して攻撃するように設定されているらしい。
「あとストックいくつだ?」
「26だ」
このペースならなんとかなる……か?
あと火口まで半分くらいだ。
アンペルが、イモムシに電撃を浴びせながら、振り返らずに言ってきた。
「ヤクザァ」
「イグノだっつってんだろ。なんだ?」
「……今、楽しイ」
「……そうか」
今、多分こいつは笑ってる。
◇
「えー、ディアちゃんってワトソン家の跡取りなの~?」
「本当?凄い!」
「ま、まあね」
私は名家の跡取りで、対等に話せる人が少なかった。
両親は、家のことは気にしないで生きていいと言われてるし、積極的に家を継ぎたそうにしている妹もいて、一般人になることもできる。
けど、国内ではどうしても気を使われてしまって、本当に仲良くできる人がいない。
中学生の時、VRMMOに出会った。
ゲームの中では、現実の身分なんて関係ない。
最初は初めての友達作りに手間取って、ソロでプレイしていたけれど、大会で上位に入ったら話しかけてくれる人が増えて、いつしか10人ほどのグループで遊ぶようになった。
あの頃は、楽しかったなぁ。
中二の春休み、メンバーの一人が切り出した。
「オフ会しない?」
その子は丁度大学受験が終わった所で、ストレス発散に提案したようだ。
他のメンバーも肯定的で、すぐに日時が決められた。
でも、私が行ったら、ワトソン家だと言うことがバレてしまう。
去年マスコミに捕まって写真が公開されており、よく雑誌を読むような人なら、普通に分かってしまう。
私は、オフ会を断った。
どうやら、私以外のメンバーは全員参加したみたいで、とても盛り上がったらしい。
それから、みんなのログイン率がだんだんと減っていった。
結構住居が近かったことも相まって、リアルで会って遊ぶことが増えた。
何か月か経って……私は耐えられなくなり、ついにオフ会に参加することにした。
マスコミに捕まってから大分経っていたし、大胆に容姿を変えれば分からないと、淡い希望を抱いたけど、
「……もしかして、ディア・ワトソンさん?」
「え……?」
一瞬でバレた。
それからはもうログインするのもやめた。
国内に私と仲良くなれる人はいないのかもしれない。
その時、一つのアイディアが頭に浮かんだ。
なら、海外ならいいんじゃない?
けど、うちの国は独自の言語を採用していたため、道は険しかった。
初めに、習得する言語を決める。
ゲームの中なら友達が作れたんだ。ゲームの本場である日本語にしよう。
必死に勉強して、半年で日本語をマスターした。
すぐに日本に直行し、最新のVRMMOを購入。流石本場というクオリティだ。
前は、大会で好成績を残したお陰で友達ができた。
幸い、私の能力はチートとも言えるものだったし、最初の大会でも順調に相手を倒して、最終盤。
一人の男が仕掛けてきた。
電域を突破されること自体はそこまで珍しくもない。
そうゆう相手は素早さが低いから、単体攻撃の電撃で倒してきたけど、そいつは中々倒れなかった。
「おこちゃまはもう寝てろパンチ!」
思いっきり煽られた。先に煽ったのはこっちだけど、身長のことはタブーだ!
本気で殺しにかかるが……結局負けてしまった。
結果は一位だったけれど、釈然としない。
だから、丁度同じ表彰台にいたその男に宣戦布告したら、また煽られた。
けど……何故か少し楽しかった。
そこで、運営を買収して、実家の力を借り、まだ決めていなかった学校をあいつと同じ所にした。
上手く話せなかったが、同じパーティの女の子(身長は負けてる)がなんとか話を通してくれた。
久しぶりのパーティプレイだったけど……やっぱり楽しい。
蟻地獄
本来は地面にくぼみを作って、迷い込んだ生物に土を当てて引きずり込む。
クワガタみたいな顎を持っている。
……語彙力が足りないから気になる人はググってくれ。
高さ制限は4メートルくらいだけど、上の方を泳いでいても蟻地獄は体を伸ばして食らいついてくる。