カエルだけに帰る!
「ダンジョン行きたい!」
ある日、ログインした瞬間にファニーが何か言い出した。
唐突な言葉に東間が解説をつけた。
「ダンジョンの最奥に綺麗な景色があるらしい。もとからそういうのを見るためにこのゲームをやったから」
まあ、そういうことだろうね。
昔はよく一緒に綺麗な山とか回ったなぁ。
「よし、行こう」
「やったあ!大好き!」
おい、腕に抱きつくな。東間が凄い目で見ている。
おい、弓を引くな、爆弾に火ぃつけんな。あ、死んだ。
低いステータスをMPで補ってまで張り付いてくるファニーを振り払って、マップでダンジョンの位置を調べた。
「レッツゴー!」
「あ、わたしほぼ魔力ブッパだから、背負って行ってー」
「お、俺が」
「兄貴は黙ってて」
……あんまりガンツのストックを削らないでくれ。
こうなった統華、もといファニーは梃子でも動かない。
しょうがないからおぶっていった。ガンツが三回くらい死んだ。
◇
ダンジョン洞窟に着いた。
ここの最奥に花畑的な絶景があるらしい。
「基本は俺が前張って、ガンツが狙撃、魔力使うファニーは温存で」
「「は~い」」
クマ魚の洞窟よりかなり広い洞窟に、三人で入っていく。
最初のエンカウントは……クマ魚だった。
初手からこれかよ、難易度高くね?
レベルが上がった俺なら単独撃破もできるが、相性によっては廃人でもやられるくらいの強キャラ。
今回は噛みつきから入って来たが、まわりこんで一回目の加速で、やっぱり六割の体力を奪った。
そこに飛ぶガンツの矢。
最初は思いっ切り刺さらせて痛みを刷り込み、あとは動きを抑制するようにばら撒いていく。
システムの補助があるとはいえ、結構上手いな。
ああ、お別れの時間が来たようだ。
「よかったらヒレをドロップしていってね!」
そう言って……二回目の加速。
残り三割になったクマ魚のHPを完全に削りきった。
うん、ガンツとなら簡単討伐できそうだ。
俺とガンツは、無言でハイタッチして……ほっぺを膨らませていたファニーともしてあげた(その時ガンツは以下略)。
ちなみにドロップ品はなかった。
「あ、宝箱がある!」
「え~、何が入ってるかなぁ?」
「……ミミックじゃないよな?」
無理もない、終盤のDAOの宝箱はミミックが九割を超えていたからな。
しかもこのミミックが中々強い。
『宝箱は全部ミミックだと思え』はDAO廃人の共通認識。
その上、ミミックガチャが成功しても、手に入るのは大して強くない装備ばかりなので、マジで誰も開けようとしなかった。
「流石にこんな序盤でそんなことしないさ。DAOだって最初はミミックなんているとも思わなかっただろ?」
「そ、そうだな」
「フラグじゃないよね?」
念のため、加速をつけて俺が殴るが、何も反応はなかった。
「い、一応俺は構えておこう。ファニーも魔法の準備をしておいてくれ」
「兄貴……ダサ」
どうせガンツは死んでると思うが、無視して宝箱を開けた。
入っていたのは、一つのネックレス。
どうやら、継続的にMPを回復できる装備らしい。
「ファニー、これいる?」
「いいの?」
「うちのメンツでMP使うのお前くらいだろ」
ファニーが、顔を赤くしながら近づいて来て、
「か、かけて」
「俺が……」
「(ギロ!)」
「……(死)」
本当に死に過ぎだから君。
面倒なのが復活する前に、さっさとファニーの首にネックレスをかけてやった。
「似合うな」
「あ、ありがとう」
「似合ってるぞ~」
「(ギロ!)」
「……(死)」
もういいから。
絶対ファニーがガンツ殺害ランキング一位だよ。
あれから、モンスターに絡まれたり、他のプレイヤーとすれ違ったりもしたが、順調にダンジョンを進んだ。
そろそろボス戦だ。
「ガンツ、命のストックは?」
「20ちょいだな。お前は体力あるのか?」
「8割ある……今6割になった」
油断していて止まった判定を受けてしまった。
こ、これくらいハンデでくれてやる(震え声)。
ファニーはまだ一回も死んでなかったはずだし、準備万端といっても差し支えないだろう。
「行くぞー!」
「「おー」」
「ラストヒットした人にドロップアイテムね」
「どうせ相性がいい人に渡すことになるだろ」
「盛り下がることいわないの!」
そんなことを話しながら、ボス部屋に入る。
すると、入口は塞がれ、部屋の真ん中に魔法陣がでてきて……巨大カエルが出てきた。
やばい……危惧していた通り、ファニーが泣き出した。
「やだ! 私帰る!」
「カエルだけに?」
「死ね」
「……(死)」