決戦②
ズシャズシャ
海底の砂を掻き分け、できるだけ地下深くに潜る。
「このまま二人、地下で仲良く暮らさない?」
「……(何言ってんだコイツ)」
俺とミワ(分身の一体)は、シェンラさんに言われて地面に潜っていた。
アンペルの電気も地面には通らなかったので、一縷の望みに賭けて潜ってみたのだが……どうやら、上手くいったみたいだ。
バチバチッという音が聞こえたけど、俺たちはダメージを食らっていない。
「……地上に残してきた分身は、全員消えたみたい」
「そうか……出るぞ」
「うん」
進行方向を上に変え、海中に飛び出した。
地上では、珊瑚の表面が焼け焦げていて、アンペル、シェンラさん、ギコーは居なくなっていた。
あの電撃で死んだのだろう。
シェンラさんも地面に潜れたハズだけど、俺たちを守るために地面の穴を塞いでくれていたのだ。
「お姉ちゃん……R.I.P」
「多分、『死んでませんからね!?』って元気にツッコんでるよ」
「おい手伝え!〈捧命矢〉四千万」
凄まじい電気の中で、唯一生き残ったガンツ君が弓を射て、煙を上げている宇宙ステーションを撃ち落とした。
残っているのは、こっちがイグノ、ガンツ、ミワで、相手がシロン(大将)、刀使い、モンスター撃ち出し少女か。
「……ガンツ、あとライフ幾つだ?」
「二億弱くらいだ。まだ余裕ある」
……もう3対3だし、そろそろ俺も動き出すか。
「ガンツはモンスターを撃ち落として、ミワは刀の娘に対応してくれ」
「あっちの大将はどうするんだ?」
「俺がやる」
「……仕方ないか」
「ダーリン……カッコいい」
「――なんでだよ」
ガンツを残して、ミワと共に相手との距離を詰める。
相手も覚悟を決めたのか、遠距離型の魑魅魍魎少女を置いて、シロンと刀の娘が前に出てきた。
「あっちの大将はめちゃくちゃ速いから、気を付けろよ。何かあったらすぐ分身しろ」
「はーい」
少しずつ二つの勢力が接近し、緊張感が高まる。
俺は、シロンとまともに打ち合うのは嫌なので、前から作ってあった木刀を取り出した。
そして……二人は、ほぼ同時に動き出す。
「【終焉まで続く加速】」
「〈ゴーストジェット〉」
超スピードの両大将が加速し、一足速く接触した。
前と変わらず、スピードは俺の方が速い。
「〈霊爪〉」
シロンは、指を伸ばして腕を振るった。
やはり見えない力があり、ヒュンっと細長い物が通る音がする。
しかし……その技はもう見切っている。
[緩熱摩 リベア]を使って速度を調整し、俺の眼前で細長い物が通り過ぎた。
そのまま回転して、木刀を振るうも、左腕で防がれる。
止まれないので、通り抜け……先に後衛であるモンスター少女を狙って、前に進んだ。
こっちのガンツは、攻撃されたとしてもかなり持つから、守る必要はない。
俺が後衛を狙っていることを察したのか、刀少女は、
「【巣構築・美燕嶺徹】〈燕刀一文字〉」
自分を強化する領域を展開し、俺に向かって横薙ぎに刀を振るったが……遅い。
木刀で刀の鍔を抑え、小さな力で刀を止めた。
刀少女を倒すのは、少し時間が掛かりそうなので、先に後衛を潰しに
「ダーリン危ない!」
「ッツ!?」
ミワの声に振り向くと……すぐそこにシロンがいた。
俺の方が速いハズなのに、追いつかれている。
……刀少女の領域は、味方を強化する効果もあったのか、領域内ではシロンの方が速くなっていた。
「〈爆霊覇〉」
「っと!」
触れられたらヤバそうなので、木刀で掌拳を抑えた。
とにかく、強化領域から脱出しなければ。あいつにスピードで負けるのは不味い。
「〈霊界の招き手〉」
シロンが宣言したスキルは、前に俺がワンパンされたやつ。
見えない何かが迫って来る様な感覚を感じ、背筋に悪寒が走る。
「食らえ!」
「うわ!」
スピードを緩めずに振り返って、手に持っていた木刀をシロンの顔に向かって投げつけた。
反射的に手で防いだのを確認し、強化領域の果てまで、蛇行運転で見えない何かを振り切る。
ついでに、アイテム欄から新しい木刀を取り出しておく。
……もう領域の中には入りたくない。
「ガンツ、ミワ、そっちは任せていいか?」
「……逆に任せられなかったら何するんだよ」
「出来ればダーリンと共闘したかったけど……3億歩譲ってガンツで我慢するよ」
「え、そんなに?」
「良かったなガンツ、普通の人なら7億歩はいるぞ」
「そんなんでよく生きて行けるな」
ちなみに、ミワの引き様ではガンツのライフはほとんど減らなかった。
やっぱお前もっと妹耐性付けろ。
「っと、そろそろ行くわ」
「頑張れダーリン!」
「俺らもやるぞ」
というか、もうガンツが必殺技を発動している都合上、時間が経てば経つ程こっちが不利になる。
仕掛けるなら速めにだ。
「刀と打ち合うから、モンスターは全部撃ち落としてね。【偽りの魚群】」
ミワの必殺技は、分身がゼロになったら、再発動できるようになる。
まあ、必殺技が飛び交う環境では、ミワの同時撃破なんて難しくないので、バランスは取れてる。
実体がある分身20と、実体がない分身80になった。
先に実体が無いのを先行させ、揺さぶっていく。
「〈燕刀一文字〉……え?」
前にいる数体の分身は消え去ったが、大きな空振りで隙ができた。
そこに実体アリを乗り込ませ……謎の力で、長刀の射程内に入ったミワが真っ二つになった。
「一筋縄では行かなそうだね」
「そっちこそ」
ミワは、相手を睨みつつ、分身で囲い込む。
そして、在庫処理の如く実体無しを前に出し、その他は小銃を構えた。
それを見た相手の刀少女は、長刀の半ばを手に取ると……それは二つに分かれ、一組の双刀になった。
「[透双刀 シンテゑα]」
双刀は両手で使うハズだが、刀少女は親指と人差し指の間、薬指と小指の間に双刀を握っている。
……いや、さっきから右腕は全く動いておらず、宙ぶらりんになっている。
動かしたいのに、動かせない?
「……ラチックか」
さっきラチックが突っ込んだ時に、彼女の槍が刀少女の右腕を使えなくしたのだろう。
実は、ラチックに助けられていたという事実に……彼女は憤慨した。
「〈スターシックスショット〉!」×沢山
鬱憤を晴らすように、構えていた銃をパなした。
「〈ツバメ返し・乱〉」
相手は、二本の刀を振り回し、撃たれた銃弾のほぼ全てを切り落とす。
……数発は当たっているし、このまま銃を撃っていれば優位に立てるのだが……
「〈葬流漸〉!」
「〈玖洙流漸〉!」
さっきまでの知性はどこにいったのか、力押し戦術に切り替えた。
前後から同時に実体アリで刀を振るう。
「〈燕刀二紋次〉」
それを回転斬りでいなしたが……上には攻撃できていない。
「〈流墜漸〉」
分身の一体が上から逆刃刀を振り降ろし……少し狙いは外れたが、右肩に当たり、刀少女にダメージを与えた。
あと6割といった所か。
「ッツ、やるね」
「あなたなんてすぐ押し切る」
「冷た!まあいいや」
刀少女は、そう言って……双刀の片方を投げた。
人数差で誤魔化しているが、ステータスでは相手の方が断然高く、刀は避けられない。
そして、今やられたミワは――本体だった。
ミワは、必殺技で分身しても意識は一つしかない。
実体がある分身の一体にミワの意識が宿り、他の分身はその命令に従って動く。
その意識を宿したミワがやられたとしても、他の実体分身に意識が移り、全滅するまで死なない。それがミワ。
なので、意識がある本体は、他の分身に紛れて出来るだけ観測と指示に徹するのが仕事。
その本体が、狙ってやられた。
すぐに意識が移るが……どれに行くか分からないので、状況把握に少し時間がかかる。
辺りを見回した瞬間、また本体のミワに刀が刺さった。
……リスキルってやつだ。
「ヤb(死)」
◇
「〈捧命矢〉三千万」
「〈魍魎〉」
ガンツ君は、雑に三千万捧げて、初撃からモンスター少女を倒そうとしたが……妖怪を壁にして防がれた。
もっと捧げればアレも貫けるだろうが、これ以上ライフが削れると、継戦能力に支障が出るので、出来れば使いたくない。
「〈魑魅〉」
「〈マグネッターΩ〉」
少女から、蛇、カラス、多種多様な妖怪が撃ち出された。
ガンツ君は迎撃に弓を射るが、スズメの涙程度にしかなっていない。
一瞬で処理落ちし、妖怪集団に取り囲まれた。
「フッ、これで終わりだ!行け魑魅魍魎ども!」
「……粉砕・玉砕・大喝采!」
チ ドカーン
ガンツ君の十八番、自爆。
持っていた爆弾に火を付け、自分ごと爆発で吹っ飛ばす。
水中に煙が立ち上り、視界が悪くなった隙に、多くの命を捧げた必殺の一撃を放つ。
「〈捧命矢〉四千万」
当たりを付けて撃った矢は、防御されることはなかったが、視界が悪い分こっちの狙いも悪く、右足を飛ばすだけになった。
「ッチ、外した」
「ッチ、痛いな」
……舌打ちが飛び交う、治安が悪い戦いになった。
さて、ガンツ君のライフはあと1億強しかない。
あのモンスター少女を倒すためには、ある程度捧げた矢が必要で……次にしくじったら、最終手段を使う必要が出て来るだろう。
そう考えて、慎重に策を練っていると……動き出したのは相手の方だった。
「〈魅魍〉」
「うお!?」
彼女の袖から、いきなり一匹の速い蛇が飛び出した。
どす黒い口を空けて向かってくる蛇に、ガンツ君は弓を突き出し、咥えさせて防いだ。
しかし、それは彼のメインウェポンが使えなくなったことを意味する。
「クッソ!〈捧命矢〉千万」
弓を使わずに、矢をダイレクトに刺して蛇を退治した。
しかし、その頃には既に他の妖怪に囲まれていた。
一瞬でガンツが怪物の塊になる。
「ッチ!」
慣れた手付きで爆弾を取り出し、着火したが……蛇の一体が爆弾の導火線に食らいつき……火が消えた。
もちろん爆発しない。
「あ、そーゆー(察し)」
◇
不動。
全てのミワは、動きを止めた。
あれから、分身のフリをしてみたり、偽物の一体に本体っぽい動きをさせてみたり、全員で変顔をしてみたりしたが、全部見破られたので、いっそのこと全部止めた。
ミワの演技が下手だったという訳ではない。
むしろ、ゲーマーミワの演技は中々上手だった。
それを許さなかった相手の少女を褒めるべきだろう。
(さ、ここからどうするか)
この相手なら、下手に分身を動かしてしまうと、そこからバレてしまう気がする。
しかし……動かないというのは、案外神経を使うのだ。
イグノが視界に入っても表情を崩せず、瞳で追うこともできないのは、彼女にとっては何にも代えがたい屈辱。
……こんなことになるなら、ニヤけた表情で止まっとけばよかった。
長くは持たない。
(ここは……アレだね)
ミワは、一つの策に賭け……動いた。
瞬間、双刀の片方が投げつけられるが、
「〈葬流漸〉」
最速の抜刀術で弾いた。
これは何回か成功している。
問題は次からだ。
刀少女は弾かれた刀をキャッチしつつ、本体に迫り、刀を振ったが……ほんの少しの感触の後、すり抜けた。
今回使ったのは、実体化デコイ。
攻撃されそうになった瞬間に、分離したのだ。
「〈天翔流漸〉」
コイツの空振りが信用ならないのは知っているが、刀はこっちの方が少し長い。
間合いギリギリで、ミワの最強の一撃を食らわせる。
脇腹から肩口にかけて、浅い傷が入る。
い だが……
「〈燕刀一文字〉」
倒しきれず、またミワはやられてしまった。
しかし……一流のゲーマーは、策を二重に講じるもの。
「〈流墜漸〉」
新たに本体となったミワは、上から刀を打ち下ろした。
さっきまではどの分身に本体が行くか分からなかったので、動きにくかったが……これは最後の一体。
次はどこに行くかは確定している。
「〈燕刀一文字〉」
直ぐに上に刀を回すが、一歩遅い。
ミワの逆刃刀はしっかりと首に直撃し、頸動脈を断ち切った。
しかし……頸動脈が切れても、人はすぐには死なない。
ミワにもしっかり刀が入り……最後の実体分身が死んだ。
◇
妖怪ドームの中央。
ガンツは、減りゆくライフの中……弓を引いた。
狙いは一つ、相手の本体のみ。
八千万、七千五百万、七千万……
ライフを示す数字が減っても、彼は焦らない。
心を落ち着け、目を瞑り、気配を感じる。
(……うん、ダメだこれ)
相手の位置が全く分からない。
こういう時は、大体音を聞けば良かったのだが、妖怪がうるさ過ぎて、何の情報も得られない。
……流石にこの状況でパなすのは、運ゲーが過ぎる。
「〈捧命矢〉四千万」
相手がいるかと思われる方向に向かって、残り少ないライフを支払い、妖怪ドームに穴を空けた。
案の定相手には当たらなかったが……姿は見えた。
千万、九百万、八百万
もうライフも時間もないが、ガンツは焦らず、もう一本矢を引いた。
妖怪ドームのある一点。
先に相手がいる方に矢を向け、最後の一撃を放つ。
「〈ステラ〉!」
矢の先が、黄色く、強く輝き……閃。
アンペルのレールガンの様な黄色いラインが、相手のモンスター少女を貫き、倒した。
それを確認したガンツ君は……ライフがゼロになり、死んだ。
イグノとシロンの一騎打ち。
ステラの元ネタは、調べたら分かるよ。
知ってる人も多そうだけど。
流石に、最終決戦まで相打ちにすることはないので、楽しみにしといて下さい。