デートデュオ
『誰かデートしない?』
《海馬組》のチャットに、イグノからこんなメッセージが送られた。
『は?』
『私以外いないよね?』
『やりたいやりたい』
チャットは荒れに荒れ、遂に暴言が飛び交う。
送った本人はこの状況にドン引きしつつ、追撃を行った。
『一番先にア肆ネルにいる俺を見つけた人とするわ』
その瞬間、荒れていたチャットは一気に静まり返り、『えぇ……』とガンツの困惑したメッセージのみが残った。
現在地はSKY版第四の町、ア肆ネルの闘技場。
ここに一番早く来た人とデートすることになる。
町を眺めていると、上空にミワが現れた。
そして、彼女の必殺技を発動させ、100人の分身を作り出す。
やっぱり、能力的にミワが一番かもな。
ポン
チャットを送ってから数分後、背後から肩に手が置かれた。
誰かな? と振り返ってみると、そこにいたのはミワではなくファニーだった。
「……おめでとう、君が一番だ。よく100人で探すミワより早く見つけたな」
「何年の付き合いだと思ってるの?どういう場所にいるかなんて、なんとなく分かるよ」
「いや、俺は分かんないと思うけど。まあいいや、行こう」
ファニーの手を取って、闘技場の中に向かっていく。
「え、何するの?」
「デュオ大会だよ」
UAOでは、夏休みキャンペーンのおまけに幾つか小イベントが開催されている。
この闘技場では、2対2で戦うデュオ大会が行われており、優勝したら虹色鳥肉が贈呈される。
「絶対勝つぞー!」
「……終わったら二人で町を回らない?」
「別にいいけど」
「頑張ろー!」
◇
ファニーと共に、大会が行われる闘技場に降り立った。
SKY側の町なので水がなく、慣れない空中戦になるのが嫌だが、まあなんとかなるだろう。
何せ俺はSKYタイマン大会のチャンピオンだからな。
「そういえば、ファニーの必殺技ってどんなのだっけ?」
何故かファニーとは絡みが少ないせいで、対大仏の時以来見ていない。
なんか新鮮な姿になったのは覚えてるけど、それ以外忘れた。
「【不老不死海月ノ異名】っていって、再生力が上がるの。腕とかなら、2秒くらいあれば新しく生えてくるよ」
「なにそれ無敵じゃん」
「一瞬でHPを削りきられたら流石に無理。Rexとかマドカの大型化するのは苦手かな」
「……俺もそういうの苦手なんだけど」
「……来ないことを祈ろう」
大型タイプは来ない事を祈って対策することになった。
ちなみに、必殺技の相性は強化系(イグノ、ラチック)は一撃必殺系(アンペル、ギコー)に強く、一撃必殺系は大型系に強く、大型系は強化系に強いというジャンケンの構造になっている。
その後、俺の必殺技の内容を話していると、相手が入場してきた。
両方ともSKYの住人らしく、背中に翼がついている。
二人とも戦国時代の様な鎧を着こんでおり、コスプレイヤーみたいだった。
「俺が黒色の方を殺るから、ファニーは赤色の方を殺ってくれ」
「連携して戦わないの?」
「……まあ、能力が割れてから考えよう。始まるぞ」
作戦を話し合っていると、フィールドの中央にザ・フィッシュ……ではなく、彼と双璧を成すマスコットキャラクター、ザ・フィッシュのホログラムが出現した。
ここはSKYの町内なので、開始の宣言は彼がするのだろう。
『では、始めますよ。デュエル開始ィィィ!』
「【終焉まで続く加速】」
「【不老不死海月ノ異名】
スタートと同時に俺とファニーが必殺技を発動させ、俺は先に決めていた通り黒い武将に突撃した。
それに対して、相手は焦る様子もなく腕で目を隠し、
「【天災を予知する者】」
次に見えた目は、真っ赤になっていた。
だが、目の作用するタイプなら、俺の加速ナックルは避けられないだろう。
そう思って突撃を継続しようとすると、目の前に土の壁が現れた。
「〈土壁〉」
「〈紅蓮拳〉」
とりあえず殴ってみたが、土の壁は壊れない。
もっと熱が溜まっていたらやれたかもしれないが、そうするにはスピードを落とさなければならない。
舌打ちしつつ、壁に激突して停止しないように、殴った反動を利用して壁を迂回しようとした瞬間。
「〈岩弾〉」
「うお!?」
壁から飛び出した肩に、岩が着弾した。
こいつ、純正魔法型か。
それなら、近づかれたらキツイだろうと、再び突撃しようとしたが、
「〈土壁〉」
「っと!」
「〈岩弾〉」
「ウゼえ!」
俺の行く先々に土の壁が現れ、壁を迂回しようとすると確実に岩に被弾する。
そこまで威力はないが、じりじりと追い詰められている感じがある。
この壁を避けて岩を当てられるループを五回繰り返した時、ある違和感に気が付いた。
あっちからしても、土の壁のどこから俺が迂回してくるか分からないはず。
上から飛び越えた時も、左から抜けた時もジャストで俺よりも遅い岩弾を当てられる道理がない。
しかも、壁の作り方には作為的な何かを感じる。
それらの情報から導き出される結論は、
「予知か」
「当たり。〈岩ロック〉」
やっぱり。
DAOでも予知能力はあったので、そういう技術が確立しているのは知っている。
脳波を読み取るシステムも統合することで、ゲーム内でほぼ完璧な予知ができるようになったのだ。
停止できず、選択肢が少ない俺とは相性が悪い。
とりあえず一旦距離をとり、ファニーに声をかけた。
「こいつ、予知能力だ。ちょっと相性悪い。スイッチできるか?」
「うん、こっちも相性悪いから交代したい」
スピードが高い分、交代権はこっちにある。
俺とファニーは入れ替わって、赤い人の相手を俺が、黒い人の相手をファニーがすることにした。
「待たせたな」
「へッ、どっちが来ても同じだ。変形!」
黒い人は持っていた盾を頭上に掲げ……その盾は変形し、銃身が長い火縄銃になった。
それを正眼で構え、凄まじい威圧感を放つ。
「やばそ」
「【鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス】」
パァン!
その圧力から回避運動を取っていた俺に、閃光が降り注いだ。
鱗器でブレーキをかけてフェイントを入れたお陰で躱せたが、当たったらヤバかっただろう。
なるほど、被弾したら即死するあれは、ファニーとは相性が悪いか。
しかし、一撃必殺系ならファニーでも勝てるはず。
何か他にギミックがあるのか?
とりあえず、あの攻撃の後なので、隙ができても良いハズだと攻撃を仕掛けようとして……
「【鳴かぬなら 鳴かしてみせよう ホトトギス】」
もう一度謎の宣言をし、今度は銃が槍に変わる。
「〈紅蓮拳〉!」
「〈足軽斬り〉!」
先ほどのブレーキで溜まっていた熱を使った拳と、相手の刀がぶつかり合い……俺の拳が打ち勝った。
押し負けて怯んだ隙に、フリーの左手で殴りつける。
割と耐久はペライのか、一気に数割削れた。
熱が溜まっている状態なら十分勝てる。
もう一度即死攻撃をされても面倒なので、さっさと片づけよう。
止まった判定を受けないために、一旦通り抜けてからすぐに相手の背後を取り、拳を振りかぶる。
だが、相手は刀を掲げ……最初の盾に変形した。
「〈紅蓮拳〉」
「【鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス】」
拳は盾に受け止められた。
即死判定を受けない様に数回ヒットアウェイを続けるが、全然削れない。
そして、俺の行動パターンを見切ったのか、一撃加えて通り抜けた瞬間、
「【鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス】」
「ゴミゴミゴミ!」
一巡したのか盾が銃に変形し、正眼で構えた。
また必殺の一撃が降り注ぐ。
だが……俺の仕込みはもう終わっている。
パァン
「解除!」
さっきから半永久的に掛けていたブレーキを解放して、今度は加速した。
遅いスピードに相手の目を慣らして、ここぞというタイミングで速くしたのだ。
そして、次の順番は刀。
「【鳴かぬなら 鳴かしてみよう ホトトギス】」
「やっぱり!」
後は……見切るのみ。
真向から相手に突撃していき、上段に構えられた相手の刀を捉える。
……これ、昔もやったなぁ。
「〈足軽斬り〉」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
左腕を犠牲にして刀を止め、今度は熱が溜まっている右手を突き出す!
「〈紅蓮拳・フルバースト〉!」
「うああああああああ!」
◇
「クソ、〈岩ロック〉」
「〈立体起動〉」
ファニーの伸びる魚ぬいぐるみが土の壁にかぶりつき、縮めさせて高速移動した。
そこに向かって岩が撃たれるが、すぐに進行方向を変えて回避した。
「予知を見た行動を見て行動すればいいんでしょう?」
岩の壁を作っても、ぬいぐるみで攻めの起点にしかならないので、迂闊に作ることができない。
あとは岩を打つことしかできないのだが、それはあっさり躱されてしまう。
「そろそろ終わりにしよっか。〈喰縫〉」
「うわ!」
相手の一番近くにある土壁に飛び移り、相手にぬいぐるみが噛みついた。
予知で見ていても、距離が近いのもあって、避けきれない。
そして、噛みついたぬいぐるみで相手を引き寄せ、
「〈紅撃〉」
相手の腹に穴を空けた。
【キジ】
予知 地面魔法
地震を予知すると、鳴き声が特殊なものになる。
これは科学的にも実証されていて、東日本大震災の時にはけたたましく鳴いていた。
【ホトトギス】
三武将
織田信長の攻撃的思考と鉄砲。
豊臣秀吉の墨俣一夜城や本能寺の変のとんぼ返りなどのスピード。
徳川家康の我慢と耐久。