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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

手当り次第にナンパするけど相手にされずヤケ酒してたら逆にナンパされていろいろあって最終的に自分からメス堕ちしちゃう元男の子の話。

作者: 湊みらい

Twitterで面白そうなお題が回ってきたので書いちゃいました。対よろです。

とある金曜日の夕方。

そろそろ夜の帳が下りようとするころ。

家路につく人と、これから仕事をする人が丁度交わる時間帯。


僕は繁華街で柄にもなくナンパをしていた。


「君かわいいね!僕と飲まない?」

「は?ウケるんですけどw」


「君かわいいね!僕と飲まない?」

「嫌です」


「君かわいいね!僕と……」

「(無視)」


………………


…………


……







「クソっ、なんでだよっ!」


数時間後。

僕はナンパを諦め、バーでヤケ酒を煽りながら喚いていた。


100人、いやもっとだろうか。

とにかく手当り次第声をかけた。


だけど結果は惨敗。


基本はガン無視。たまに振り向いてくれたとしても、僕を見るなり小馬鹿にしてどこかへと行ってしまった。思い出しただけで怒りが湧いてくる。


あーダメだ。もうかなり酔いが回ってるらしい。


「そんなに僕って魅力ないのかなぁ……」


僕はカウンターに突っ伏して、そう呟く。


「どうしてか教えてやろうか?」


僕が声のした方を向くと、一人の男性が僕を見ていた。飄々としていて、しかも腹立つぐらいめっちゃイケメン。もしこの人がナンパすれば、きっと女の子はすぐに捕まるだろう。

しかし、この人は今なんて言っただろうか。


「ナンパが成功しない理由を教えてやろう、と思ってな」


僕のナンパが成功しない理由、それなんて経験不足に決まってる――――そう言いかけて、僕は目の前のイケメンが妖しい笑みを浮かべているのに気がついた。


「お前かわいいな」

「な、なんだよ」


僕は少しキョドりつつそう唸った。


僕がかわいい?

……まぁたしかに、僕は男にしては身長が低めで華奢だ。最近美容院にも行けてないせいで髪も長い。


僕が動揺して思考している間も、イケメンは更に口角を持ち上げて、正直男の僕でさえゾクゾクするようなその目をしてこちらを見てくる。


「お前は落とされる側なんだよ。雰囲気的に明らかに落とす側じゃないから、女たちは相手にしなかったんだ」


なんとなくわかっちゃいた。

だけど、こうも簡単に言葉にされると……


「くそぉぉぉぉ」


僕はそう叫ぶとグラスに注がれた酒を一気に煽る。


……つまりあれだ。僕は落とす側の人間として、男として見られていなかったってことだ。

ちくせう。



「マスター!おかわり!!」







「でさぁっ!あいつったはらひろいんだお!!」


あれから1時間ほどが経過して、僕は完全に出来上がっていた。


そしてさっきのイケメンくんがニコニコしながら僕の愚痴を横で聞いては相槌を打つ。これがまた実に聞き上手で、気分が良くなるからどんどん話したくなる。

酔いも相まって、普段は言えないようなこともどんどん吐き出せた。

僕は隣のイケメンくんに、かなり気を許していた。



それが後であんなことになるとは、この時の僕は想像すらしていなかっただろう。







……


…………



「……………起きろ」


「……んがっ」


イケメンくんにおこされた。

どうやら僕は寝ちゃってたみたいだ。


「……いま、何時?」


「1時すぎってとこだな。お前、2時間も寝てたんだぞ」


イケメンくんがあきれたように言ってくる。


そろそろ帰りなきゃ……ええと……最終は……たしか……0時7分……!?


「帰れない……!?」


……


どうしよう。


「タクシー!……お金ない……」


最悪な状況に、少しだけ酔いが覚める。

万事休す。絶体絶命?


「そしたら俺のマンション来るか?

ここからすぐだしな」


僕が絶望していると、イケメンくんがナイスな提案をしてくれた。

ここは素直に好意に甘えるとしよう。


「じゃあ行こうか。その、イケメンくんってのやめろよなむず痒いんだよ。

俺の名前は祐二(ゆうじ)だ」


康太(こうた)。よろしく、ゆーじ」







僕たちは2人で店を出た。


その日はゆーじの家に泊まり、そのあとは特に何も無く泥のように眠った。


翌朝は朝ごはんまでご馳走になってから、ゆーじに感謝を伝えて僕は帰路に着いた。


いやね?流石に申し訳ないと思ったんだけど、ゆーじは

「1人で食べるのも寂しいからな」

と言うから断りづらかったんだよ。


それに、ゆーじといるとなんだか妙に心地よい。


願わくはまた……







翌週も同じバーに行くと、やっぱりカウンター席にゆーじが座っていた。

僕は隣に座ると、マスターに注文してゆーじに話しかける。


「久しぶりだな、(こう)

「久しぶり……というほど前でもないか。

とにかく、また会えて嬉しいよ」


マスターが持ってきてくれたお酒を数口飲むと、僕はまたゆーじにこの一週間の出来事や、ちょっとした愚痴などを喋っていく。


ゆーじは前回と変わらず聞き役になってくれて、相槌を打ったり、こちらが話しやすいよう時々質問してくれたりと、とても楽しい時間を過ごした。


気がつけば時刻は0時前。


今から走れば終電にギリギリ間に合うぐらいの時間だけど、僕はあえて急がずに支度する。


「あー……終電、行っちゃった。また泊めてくれない?」


僕はゆーじにお願いする。

ゆーじは相変わらず了承してくれて、僕たちはゆーじのマンションに向かった。







気がつけば、金曜日の夜にバーでゆーじと飲んで、そのままゆーじの家に泊まり、土曜日の朝にゆーじの作った朝ごはんを頂いて帰るのがルーティーンとなっていた。


最近では朝ごはんにとどまらず、どうせだからとお昼ご飯、果ては夕飯までご馳走になることもある。


前にお金を払うと言ったけど、腐るほど持ってるからいらないんだそう。


たしかにこんな都心の真ん中にあるマンションの最上階ワンフロアを持ってるなら、僕の出すお金などほんの微々たるものなのだろう。


それでも流石に申し訳なくて、何かできることはないかなって聞いたところ、何故か女性物の服を渡された。

うん。かわいいとは思うんだけどね?


ゆーじ……?僕は男だよ?


たしかに僕は低身長で華奢だ。

だけど、流石にこれは……



そう思っていた時期が僕にもありました。



折角だからと部屋で着替えてみると、これがまぁ大変よくお似合です。


ゆーじに見せたところ、大絶賛。

「似合うとは思ってたが、ここまでとは……!」

なんてめちゃくちゃ褒められた。


調子に乗った僕はそのままの格好で自分の家に帰ると、思わず姿見の前でくるりと1周回ってみる。


そこにいたのはもさくて低身長で華奢な男ではなく、大人かわいい女の子。

我ながらここまで似合うとは思ってなかった。


「僕、かわいいな」



―――思えば、このときから僕は急速に堕ちていったんだ。







かわいいは日常を侵食する。


まず、ゆーじと会うときは女の子の格好をするようになった。そうするとゆーじはあからさまに喜んでくれるから、こっちも遠慮なく話が出来る。


次にゆーじと会わない休みの日、日曜日にも女の子の格好をするようになった。

だけど、その生活を続けていくうちに1つ問題が出てくる。


それは、生身の僕がかわいくないということだ。


実際、服を脱いだ瞬間に男とも女とも言い難い微妙な顔をした男が現れる。それがだんだん嫌になってくる。


最後に、部屋にある小物が変わった。

具体的にはあまり使わなくなったものは捨てたり収納にぶちこんで、そのかわり空いたスペースに化粧品やらファッション雑誌やらが増えた。



そうして僕の日常が徐々に侵食されていったころ


それは起きた。







ゆーじと会い始めてから約半年のある金曜日。

仕事を終えて家に帰る途中。


早く着替えてゆーじに会いに行こうっと。

そんなことを考えてた時だった。


駅に向かって、ゆーじと、僕より少し年下ぐらいの女の子が一緒に歩いてくるのが見えた。

僕は咄嗟に隠れると、その様子を伺う。


2人は改札の前まで来ると、女の子の方がゆーじに抱きついた。


後からわかったんだけど、女の子はゆーじの妹で、今回たまたま遊びに来てただけらしい。


だけどそれを知らない僕は、ゆーじに裏切られたと感じた。


ただ、呆然としながら、家に帰る。


スーツを脱ぎ捨て、今日着ていこうとしていた服を着ると、なんだか惨めな気持ちになって涙がでてきた。



その日僕はバーに行かなかった。







翌日。


一日の大半を茫然と過し、このままではマズいと気分転換にいつものバーに行く。


いつも僕とセットのゆーじがいないからか、マスターがめちゃくちゃ心配してくれて、一杯おごってくれた。



僕はお酒に呑まれながら、今回の件と合わせて普段は言えないゆーじへの想いをぶちまけた。


僕は、ゆーじが好きだ。

優しくて、聞き上手で、案外世話焼きで、そして僕が甘えても許してくれる。

僕はいつの間にか、女の子としてゆーじのことが大好きになっていたのだ。



……だけどゆーじはそうじゃなかったみたい。



他にお客さんがいなかったからか、マスターは僕の話を最後まで聞いてくれた。


そして僕はひと通り話し終えると、なんだか眠くなってきて寝てしまう。

あぁ、はじめてゆーじと出会ったあの日も寝ちゃったんだっけなぁ……。


僕の意識が消える寸前、マスターが誰かに電話してるのが見えた。








……




…………




「……………起きろ」


「……ふえっ」



僕が目を覚ますと、そこにはゆーじの姿。


なんでここにいるの……?


「あのなぁ、お前が一人で来て散々愚痴って爆睡したってマスターから連絡来たんだよ。あと、あらぬ誤解してるみたいだけどさ、昨日のあれは妹だから」


「へっ……?いもうと……?」


あくまでも家族として親愛の抱擁。


つまりは、僕の早とちりだった訳だ。


「よっ、よかったぁ……」


「誤解がとけたようでなによりだ。ところで、コウ。お前の俺に対する想いもマスターから聞いたんだが……」


そこまで言ったところで、ゆーじは出会った日のそれと同じ、いや、それ以上の妖しい目と口の口角を吊り上げる。


「そうかそうか。まさかお前がそこまで俺の事を想ってくれてたなんてなぁ!」


うっわ、恥ずかしっ!?

えっ、もしかして全部聞かれた!?


僕が顔を赤くしている間に、ゆーじはマスターに札束を叩きつけるとこっちに向かってきて……



うにゃぁっ!?



僕をお姫様抱っこすると、そのまま店を後にする。


マンションのゆーじの部屋に着くと、僕はいつもの部屋のベッドに着地する。


ゆーじはどうするのかと思いきや、ゆーじもそのままベッドの上に乗っかってきて、こう言った。


「お前の気持ちはわかったが、ちゃんとこの耳で直接聞きたい。今から俺が言う言葉を繰り返すんだ」

『私は、ゆーじが大好き。ゆーじの彼女になります』


「僕は、ゆーじが……」


「「私」だろ?」


「私は、ゆーじが、大好き。ゆーじの、彼女に、なります」


「もう一回だ」


「私は、ゆーじが大好き。ゆーじの、彼女になりますっ」


言葉は言霊であり呪いだ。

1度口にしてしまえば強力に縛られる。

それを何度も言わせるってことは、ゆーじも僕……私を離すつもりはないみたい。嬉しいなぁ。


「もう1回」


「私は、ゆーじが大好き♡ゆーじの、彼女になります♡」


「これでコウ、お前は俺の彼女だっ」


ゆーじはそう言うと、私をぎゅっ♡と抱きしめた。


胸がドキドキして、

ゆーじの体温が直接伝わってくる。


私がもっと擦り寄ると、ゆーじは左手で頭をなでなでしてくれる。


あっ……これしゅきぃ……♡

もっとぉ……♡


ハグあたまなでなでを堪能し終えると私を抱き寄せ、顔を近づけると……


ちゅ……♡


「!!!?!」


ゆーじは私の唇を奪ってキスをする。


「ふえぇっ……」


そして、幸せで溶けそうな私の耳元で、こう囁いた。



「大好きだぞ、コウ」









これはあとで聞いた話なんだけど、実は最初に好きになったのはゆーじの方らしい。


私がナンパして失敗するのを見て一目惚れだったそうだ。


それで私が知り合いのバーに入っていったのを見て、相談に乗ることで親交を深め、徐々に堕としていこうと思ってたらしいんだけど、ゆーじの予定よりもかなり早く私が堕ちちゃったみたい。


まぁだってゆーじ優しいもんね!

そりゃー好きになっちゃうよ。


たとえ「性別」という壁があろうとも。


たった1年前は普通の男だったのに、どうしてそこまでって思うかもだけど、それはたぶん私のゆーじへの想いが大きすぎたから、らしい。


つまり私は、「好きになった人のために自分の自認と性別を変えちゃうような生粋のメス堕ち体質」だったということだろう。


そう聞くと変だと思うし、理解できないかもだけど、好きになった人のために自分を変えるってのは意外とよくあることなんじゃないかな。


ガチャッ…バタン


扉が開いて、また閉じる音がする。

少し間を置いて、廊下を歩く音が聞こえる。


私のゆーじが、大好きな人が帰ってきた。

そんなほんの些細なことですごく嬉しくなっちゃう。


「ゆーじおかえりっ!

ご飯にする?お風呂にする?

それともぉ〜」


「お前だ……と言いたいが、生憎この暑さで汗をかいていてな。

シャワーは浴びさせてくれ。その後、な」


ゆーじは私に準備しておく様に言うと、お風呂場へと向かった。


私は準備に取り掛かる。それでもやることは少ない。

……実を言うと、さっきゆーじが帰ってくる前に済ませちゃったんだけどね!


今日は金曜日だ。

きっと深夜まで鳴かされるんだろう。

でも、それが酷く心地いい。



大好きな人に、大好きって言ってもらえるのだから。



今、私はすごく幸せだ。




[完]

えちシーンは作者がそういう経験ないので書けませんでした。

評価、感想、ブクマ登録、いいねをして頂けますと、執筆のモチベーションとなりますので、よければ。

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