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63話 「俺はいつでも本音だよ」【これまでの復習】



「さーて、五日後の国庫輸送の説明をする。二人とも用意はいいか?」


「「もぐもぐもぐもぐ」」  


「……食べ終わってからにするか?」

「ちゃんと聞いてるから大丈夫大丈夫~」

「ねぇ、ファイブル。なんで人のお金で食べる食事ってこんな美味しいのかしら、不思議ね」

「ミスリー、分かるぞ。ワンスの金だって思うとさ、食欲が二倍になるんだよ」

「わかるぅ! 太っちゃうぅ~」

「俺が払うなんて一言も言ってねぇけどな」

「何言ってんだよ、ここお前の店だろ~」


 というわけで、ニルドと別れたワンスは、ミスリーとファイブルに会っていた。計画の説明をするだけのつもりだったのに、大量に注文をされているのが現状だ。



「まあいいや。じゃあ続けるぞ。お前ら二人には全体像を話すから、当日はフォローよろしくな」

「「おっけ~♪」」


 この二人、割と馬が合っているのだが、恋愛には発展しない雰囲気が堅い。逆に信頼できるとも言える。


「まずは、これまでやってきたことの復習だ。ニルヴァンの協力で騎士団に潜入。そして国庫輸送の資料を全てゲットした」

「ニルドには内緒のやつね」

「そう。次に、ならず者をけしかけて、北通りでハンドレッドの鞄を強奪させた。それを俺が非番の騎士と偽って捕縛」

「で、ハンドレッドの鞄の中に入っていた鍵束を盗み見て複製したのが、この偽の鍵束。注文通り二セットな」

「ファイブル、さんきゅー」

「そのとき、ハンドレッドの鞄の鍵部分に、深い傷をつけておいたのよね。あれって何だったの?」


 ワンスはニヤリと笑って「鞄を開けられたかもしれないって思わせる為だよ」と言いながら、ガレットを一口食べた。


「で、俺が『騎士のワング』として、ファイブル演じる『騎士のファイザ』と一緒に、北通りの紳士クラブでハンドレッドと友人になった」

「ファイザをやるのも楽しかったなぁ」

「俺もワングは結構好きだったなぁ、五日後に千秋楽だと思うと寂しいもんだな」

「あー、ワングのモデルはフォーリアだもんなぁ。そりゃ大好きだよなぁ」

「だーかーら、違うっつーの! ファイブル、ロッシーニ没収」

「あぁ、俺の好物がぁ!!」


 ファイブルからロッシーニの皿を取り上げると、そのまま大きな口を開けてもぐもぐと食べてやった。ランチから豪勢なことで。


 すると、ミスリーが身を乗り出してくる。嫌な予感がして、ロッシーニの皿を抱えたままミスリーからちょっと距離を取る。


「ねぇねぇ、本当のところどうなの? フォーリアのことどう思ってるの?」

「どうもこうも、何とも思ってない」

「ぇえ~? やることやってんのに、その態度!?」

「お前らに言われたくねぇな、ははは」

「ねぇ、なんで手出したの?」


 空になったロッシーニの皿をテーブルの隅に寄せながら「んー?」と冗談っぽく笑う。


「ミスリーの『盛りの時期は今だけだ、盛者必衰』って拳を掲げた姿に感動したからかな~? 名言だよな」

「人のせいにしないでよ。フォーリアは伯爵令嬢よ? ヤリ捨ては出来ないでしょー!?」

「そうかぁ? ノーブルマッチでもたくさんの独身令嬢が会員になってるけど、みんな『処女のふり』して結婚してんぞ? 世の中こえーよなぁ」

「おい、ワンス! 男の夢を砕くようなこと言うんじゃねぇよ! やめろぉー!」


 ファイブルは涙目で耳を塞ぎ、防御体勢を取っている。彼の過去に何があったというのだろうか。そっとしておこう。


「ふーん、そういうことならフォーリアに処女のふりするコツを伝授しておくわ。他の男と結婚してもいいってことよね?」

「おー、それは有り難い。よろしく頼むな~」

「くっ! 全然暴かれないわね、あんた……」

「俺はいつでも本音だよ」


 ワンスはペリエを一口飲んで「話を続けるぞ」と言った。ミスリーは不服そうだったが、一応黙って頷く。どうせ何を言ったところで、本音など聞けないと分かっているからだろう。

 

「ワングとファイザとしてハンドレッドと賭け仲間になった俺らは、ハンドレッドから借金を重ねることで、奴の駒になることに成功」

「そういや、借金ってどうしたんだ?」

「返してない」

「可哀想~」

「その後、国庫輸送の資料をワングからハンドレッドに流した。その際に『騎士団に一度見たものを寸分の狂いもなく複製する事が出来る人間複製機がいる』という話をハンドレッドにしておいた」

「……? その情報って何か意味あるの?」


 首を傾げるミスリー。ワンスはまたもやニヤリと笑って「鍵を複製されたかもと思わせるため」と言って、鴨のコンフィをパクリと食べた。相変わらずよく食べる。


「で、次に夜会だ。騎士団を管轄しているオーランド侯爵主催の夜会に、ニルヴァンとフォーリアの二人で参加。国庫輸送を狙うライバルだと、ハンドレッドに勘違いさせた」

「ここでハンドレッドがぶち切れしたんだよなぁ」

「あれはミスったなー」

「そのおかげで愛しのフォーリアと想いを通わせることに……」

「ファイブル? 少し黙ろうか」

「うわ、こえーよ! ごめんごめんって」


 ファイブルを冷たい目で一睨み。さすがのファイブルでも少し恐怖している様子で、お口を閉じてくれた。なにせ犯罪者なんでね、くぐり抜けた修羅場の数が違うのだ。


「あとは、ミスリーの単独任務な。ハンドレッドとマッチしてもらって、その間に俺がハンドレッドを調査して、資産の場所と国庫輸送詐取の計画をゲット。ミスリー、本当にありがとな」

「いえ~い♪」

「いや~、でも、このハニトラは苦渋の選択だったよなぁ。仕掛けたのはこっちだけど、ちょっとだけハンドレッドが可哀想になった。ミリーのこと、結構気に入ってたみたいだからさぁ」

「私もハンドレッド、結構好きだったよ~? 優しいし、話も面白いし。でも、私にはニルド(本命)がいるもん。それに今まで騙してきたんだから、騙されても仕方ないでしょ? 私だって、次は騙される側かもしれないし。弱肉強食よね」

「まあそうだよな。肝に銘じておく」

「……フォーリアに、騙されてないといいわねぇ?」

「ははは」


 少し背筋がヒンヤリとする。それはないだろうけど、もし万が一そんなことがあったらと思うと……ヒンヤリである。ハンドレッドがそうであるように、ワンスが騙される側に立たされることもあるかもしれない。弱肉強食、無情なり。


「仕上げに、ハンドレッドのお抱え鍵屋をフォーリアに落としてもらった。可愛らしい手紙で、国庫輸送の当日に呼び出しをしておいたから、当日は鍵屋とデートだ。ミスリーはフォーリアと一緒に行動してくれ」

「はーい。鍵屋さんとフォーリアのデートにお邪魔するのね?」

「そういうこと。仕掛けとしては以上だな」


 果たして、ハンドレッドは騙されるのか。国庫輸送はどうなるのか。総仕上げは、五日後のお楽しみ。

 




 粗方、打ち合わせを終えたワンスたちは、最後にデザートを食べた。


「あ、このシャーベット絶品だな」

「クレープシュゼットも美味しい~! ワンスのお店ってどれも美味しいよねぇ」

「まあな、俺が食べたいものしか置いてねぇもん」


 そこで、お口にチャックに飽きちゃったファイブルが、にやにやしながら「でも最近は~」と口を開き始める。


「家で食べることが多いんだってぇ?」


 違う家に住んでおきながら、よくご存じで。ファイブルの情報収集力、ちょっとキモチワルイ。


「ニヤニヤすんなよ、普通にフォーリアの料理が口に合うだけ」

「フォーリアって料理だけは上手いのよね。教えたのは私だけど、今では私よりはるかに上手だもん」


 ここに関しては、ワンスも納得だった。深くうんうんと頷いて同意を示す。


「胃袋も掴まれちゃってんのな~? ひゅーひゅー!」

「もーさっさと結婚しちゃえばいいのにぃ!」

「だーかーらー、結婚なんてしねぇって。この話、やめやめ」

「それって伯爵家の嫡男と、一人娘の組み合わせだからってこと?」


 ワンスは「あー」と言いながら少し上を見る。頭の中の書庫から資料を取り出すのだ。


「ニルヴァンは一人息子と一人娘が結婚した場合に、どっちかの家は取り潰しになるって思ってるみたいだけど、実は抜け道はいくらでもある」

「え! そうなの!?」


 ミスリーが食い付いた。この情報がニルドに伝わると、フォーリアに求婚してしまう可能性があるからだろう。


「有名な手としては、どちらかの家が養子を取ることだよな。ニルヴァンもそれくらいは思い付いてるはずだ。でも、実はそんな面倒なことをしなくてもいい」

「と、言うと?」


「貴族法26条の3項、7年以内に限り1人につき2つ以上の爵位を保有することが可能である。貴族法26条の4項、同爵位以下の爵位を1人が2つ以上有する場合には貴族税を2.5倍とする。貴族法13条の1項、爵位を継承する場合、被継承者は5歳以上とする。尚、被継承者が15歳未満の場合は血縁関係のある後見人が最低1人必要である。ここらへんの法律を使う。あとは~、法律上は爵位継承者に女性を除外するとは明記されていない点。爵位を持った者同士の婚姻を認めないとも記載がない点。これを使う」


 わからん、何を言っているのだろうか。


「……と言うと?」


 ミスリーがわけわかんないという顔をしながら翻訳を促してきたので、ワンスは「まぁ要するに」と言いながらペリエを一口飲んで、要約で返した。


「王城文官とやり合えば、ニルヴァンとフォーリアは結婚できるってこと。っつーか、ミスリーにも関わることだろ」

「と言うと?」

「ミスリーが男爵位に復活したとしても、男兄弟がいないだろ」

「そうなのよね~。というわけで、ワンス様! お世話になります!」


 ミスリーが頭を下げると、ワンスは小さく笑って「報酬だからな、任せろ」と言った。それを聞いて顔を上げたミスリーは、ニヤニヤしながら、また一つ身を乗り出してくる。また嫌な予感がする。


「さっきからニルドとフォーリアの話をしてるけどぉ、それってワンスとフォーリアでも同じことが言えるってことよねぇ?」

「またその話に戻るのかよ……。どんだけフォーリアを結婚させたいんだよ」

「だって! ニルドって油断ならないのよねぇ。フォーリアを目の前にするとフラフラしちゃうんだもん。あれはフォーリア中毒患者よ」


 末期だ。


「ね? 助けると思って結婚してあげて! フォーリアも喜ぶし」

「無理。フォーリアとは結婚しない」


 その冷たい一言に、ミスリーはガクッと頭を下げてテーブルに突っ伏した。しかし、すぐに「え!?」と声をあげたかと思ったら、ものすごい形相で詰め寄ってくる。


「……待って。なに今の言い回し!? フォーリアとは結婚しないってことは、他の女となら結婚してもいいってこと!?」


 ミスリーのこの問いに、ワンスは「ぇえ?」と眉を(ひそ)めながら腕を組んで考えを巡らせる。


「うーん……全く考えたこともねぇけど、まあ必要に迫られたらそういうこともあるかもなぁ。一応、俺も伯爵家嫡男だしな。別に女の(こだわ)りないし~」

「じゃあ、フォーリアでいいじゃない!」

「フォーリアだけは無理」


 ワンスのとんでも発言に、ミスリーの顔が歪んだ。まるでムンクの叫びのような顔だった。


「え……あんた最低すぎじゃない? いやいや、ちょっとフォーリアが可哀想すぎるわ……。私、決めた! フォーリアには幸せな結婚をしてもらう! 絶対!」

「おー、がんばれー」

「応援してんじゃないわよ! あー、やっぱり他の男を斡旋するしかないかしら……。でも無理よねぇ」


 ミスリーの一言に、もくもくと食べていたファイブルが「無理ってなんで?」と会話に参加する。


「今まで色んな男を送り込んだんだけど、フォーリアって全然(なび)かないのよー!」

「へぇ~、ワンスからは究極に容易いって聞いてたけど」

「ワンスにだけチョロいのよ。ねぇ、ファイブルも何か知恵ない?」

「えー、フォーリアを結婚させる方法かぁ」

「ワンスもダメ。フォーリアに男をあてがってもダメ。フォーリアの幸せのためにも、私の幸せのためにも、どうにか結婚させてあげたい!」

「私利私欲がすげぇな」


 呆れるワンスの横で、ファイブルはもぐもぐと食べながらチラリと視線をよこす。


「フォーリアを攻めてもダメなら、他を攻めるしかないな」

「ファイブル、なになに? 何かアイディアがあるのね!?」

「一番手っ取り早いのはフォースタ伯――」

「あ、これ旨い」


 口に入れたラムレーズンのトリュフをペリエで流し込んで、ファイブルの言葉を遮った。


「このトリュフ、今月だけの新メニューなんだけど、ファイブルもラムレーズン好きだろ? 食べてみろよ」


 ニッコリと笑ってトリュフを差し出すワンスと、必死の形相で考えを巡らせているミスリーを交互に見て、ファイブルは「うーん」と唸る。ワンスに怒られたくない。でも、焦るワンスを見たい。怒るワンス、焦るワンス。どっちだ、どっちだ。


「ワンス、俺はいつでも面白そうな方を取る! フォースタ伯爵と馬が合いそうな男を用意して、フォーリアと結婚させるように伯爵を(そそのか)すのが一番の近道だぁああ!」


 ファイブルが拳を握って言い切ると、ミスリーの目がキラキラと輝いた。ワンスは何でもなさそうにトリュフをまた一つ食べて「うまっ」と言っただけだった。


「ファイブル天才! なるほど、その手があったわね、全然気付かなかったわ」

(あが)めてくれ。俺の掴んだ情報によると、伯爵(パパ)は領地に引っ込んでいて、領地が大層お気に召したらしい。このままずっと領地で暮らしたいと思っているはずだ。ということは……?」

「領地の男をあてがうのね! フォーリアだっておじさまの言うことを無碍(むげ)には出来ない。ましてやワンスにフラれまくってるという現状! 諦めて全てを忘れて領地の男と結婚……ふふふ……はーはっはっ!」


 ミスリーの極悪な笑いにワンスは若干ひいた。詐欺師もびっくり。見たこともないくらい極悪な顔をしているんですけど。この顔をニルドに見せてやりたいな……と思ったり。


「ふーん、まあいい作戦なんじゃねぇの? 俺には関係ねぇもん、ご自由にどーぞ」


 ラムレーズンのトリュフを口に入れながら、余裕たっぷりに咀嚼する。 


 ファイブルは焦るワンスが見れなくて残念そうにしながらも「今後に期待か」と小さく呟く。そっとトリュフに手を伸ばしてきたが、思いっきり叩いておいた。







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マシュマロ

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