表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/111

37話 繋いだ縁を大切に


 ここは北通りの紳士クラブ。金と金がぶつかり合う音が鳴り響く、悪い男共の聖地。賭博場だ。


「今日は、どれくらい金を持ってきたんだ?」

「いっひひ、今日はたんまりあるぜ。ここだけの話、ちょっとニルヴァンに貸しがあってさ」

「借りたのか?」

「そうそう、ここで一儲け! 今日は絶対に勝つ!」

「うわ……負けそうな雰囲気しか感じない。やめとけよ」

「うるせぇ!」


 北通りの紳士クラブでこんなことを話していては、すぐに詐欺師がやってくる。忍び寄る足音に全く気付かない二人の紳士は、和気あいあいと賭けの話をしていた。


 ―― 見つけた見つけた、濃紺色の髪の騎士


「そこのお二人さん、ここでそんな話をしていると悪い人間に金を盗られますよ?」


 二人はビクッと肩を震わせて、少し警戒したように振り向いてくれた。


「先日はどうも」


 レッド・ハンドレッドがそう言って会釈をすると、濃紺色の騎士は(いぶか)しげに少し首を傾げた。隣の()()()()の紳士風の男も、記憶を探っている様子だ。二人は目配せでお互いに『知り合いじゃない』と伝え合っていた。


「申し訳ない、どこかでお会いしましたか?」


 淡い黄色の瞳をした騎士は、眉を下げて申し訳無さそうにする。ハンドレッドは少し笑ってしまった。自分の顔がいかに印象に残りにくいか、いつもこうやってまざまざと見せ付けられるのだ。


「先日、引ったくりから鞄を取り返してくれた騎士殿では?」


 濃紺の騎士は左上に視線をやっていた。眉をひそめる表情でさえ絵になる容姿に、ハンドレッドは少しだけ苛立った。


「あぁ、思い出しました! 非番の日の? そうでしたそうでした。これは失礼を」

「いや、夜の暗がりでしたからね」

「なんだ、()()()の知り合いだったのか。初めまして、()()()()と申します」

「こんばんは、レッド・レドルドです。レッドと呼んでくれ」

「あぁそういえば、まだ名乗っていませんでした。これは失敬。ワングと申します」

「よろしく」


 ハンドレッドは親愛を込めて、手袋を外して握手を求めた。礼儀正しい二人も、それぞれ手袋を外してにこやかに握手に応じてくれる。


 ―― 剣ダコがある。やはり本物の騎士か。眼鏡の方は剣ダコが薄いが……


 レッドは善良な人間の顔で、ワングに近寄る。


「こういう場所で金の話をするのは良くない。ほら、周りが君を獲物にしようと狙っているよ?」


 脅すように言ってやると、ワングは青い顔をする。目を左右にそろーっと動かしながら周りを確認していた。素直なやつだ。反応は上々だろうと思い、にこやかに話を切り出す。


「もし良かったら、私が相手になろうか? ここで会ったのも縁だしね」

「え~? もしかして、貴方も僕から金を巻き上げようと近付いてきたとか……だったりしません? なんか怖いなぁ」

「ははは! そうだったら良いけど、生憎、私はそんなに強い方じゃないんだ。下手の横好きでね」


 人好きのする苦笑いをして、どうしようもなさそうに肩をすくめてみせた。それを真に受けたのだろう。ワングは目をキラキラさせながら、一歩近付いてきた。


「弱いんですか!? それなら……まぁ、せっかくの縁ですしね! ファイザはどうする?」

「俺はいつも見てるだけ。賭けはしないって言ってるだろ」

「ったく、堅実だよなぁ」

「いや、本当に金がないだけだ」


 そんな軽口を叩きながら、賭博室へ移動。ハンドレッドとワングは、ブラックジャックで勝負をし、多く勝った方が儲けを全て頂くというルールで楽しむことにした。

 イカサマを使いやすいポーカーと迷ったが、それは次に取っておこう。まずは親睦を深めるために、純粋に賭けを楽しもうとブラックジャックを選んだのだ。


「よーし、やるぞ!」


 ワングはわくわくとした様子で席に座っていた。楽しそうなやつだ。一方、ファイザは、その後ろで腕組みで眺めているだけ。


 ―― ファイザの方が何かと怪しいな……


 ファイザとワングの関係がイマイチ掴めない。賭けはしないと決めているファイザが、何故こんなところにいるのか。ワングのお目付役といったところだろうか。邪魔になりそうなファイザが少し目障りだった。



 そうして、ゲームスタート。始めのうちは、勝負はトントンといったところだった。しかし、勝負が四回を過ぎたところから、驚くことにワングは負け無しになった。結局、蓋を開けてみたらワングの圧勝。


「よっしゃー! レッド、わりぃな、ははは!」


 ワングは大きくガッツポーズをしながら、儲けを全て取っていった。


 ―― こいつ……! 運がいいだけか? イカサマか?


 しかし、ここのブラックジャックはイカサマができない。プレイヤーはカードに触らないのだ。カードをすり替えることは難しい。ディーラーは古株の人間だったし、買収した素振りもない。ただ運が強いだけなのか。


「ワング、強いじゃないか。よし、次はポーカーで勝負しよう」

「乗った! いや~、レッドとは気が合いそうだなぁ! 結婚しよう!」


 ワングがテンション高く騒ぐと、ファイザは少し呆れたように苦笑いをしていた。ハンドレッドは、それを観察する。


 ―― 次のポーカーで、詳しく聞いてみるか


 そうして、二人は向かい合い、賭けポーカーのテーブルに付いた。




 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシュマロ

↑メッセージやご質問等ありましたら活用下さいませ。匿名で送れます。お返事はTwitterで!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ