33話 最高の遊びを一緒に
ミスリーとニルドがキス……コホン、二人で話し合いをしていた最中、廊下ではワンスとファイブルが話をしていた。
「そういや、いつまでへえブルを続けるんだ?」
てっきりファイブルでフォースタ邸にやってくるかと思いきや、来たのはへえブルだった。先日、ワイングラスをフォークで叩いて黙祷していたのは何だったんだ。
ファイブルは拳を掲げて「行けるとこまで!」と意味のない『へえブルチャレンジ』を始めてしまった。遊び上手な男である。
「どこまで行けるか賭けようぜ!」
「不毛な賭けすぎるだろ……」
ファイブルが楽しそうだったので、ワンスは本人に全て任せることにした。よって、彼らが親友である事は大した意味もなく皆に伏せられた。
「なあなあ、それよりもさー、俺さー、ちょっと気になることが気になっちゃって気になってるんだけどさ~」
気になりすぎてるファイブルは、ニヤニヤしはじめる。ワンスは、だいぶ嫌な予感がした。いつも楽しそうにニヤニヤしているファイブルであるが、ここまでニヤニヤしているのは初めて見たからだ。敵襲の香りがした。防空壕があったら入りたい……!
「フォーリア嬢って、金髪でエメラルドグリーンの瞳だったんだな?」
「あぁ、そうだな」
「ワンスさぁ、金とか緑とか、やたらと毛嫌いしてた時期あったよな~」
「そうだったかな」
「毛嫌いっていうか、気にしてたっていうのかなー?」
「そうだったかな」
ワンスは『無になる』という防空壕に入り込んだ。無。
「なるほどね~、だからかぁ、ふーん? へ~? フォーリア嬢から手紙が来たとか言ってた時期から、なーんか変だと思ってたんだよなぁ」
「そうだったかな」
「なあ、聞いちゃってもいい? いい? あー! どうしよ! 聞いちゃおうかな? かな?」
「そうだったかな」
「会話が噛み合ってない! だが、それがいい!」
そのとき、キッチンから「あれ? ミスリー?」というフォーリアの声が聞こえてきた。
「黙秘」
一言そう告げて、ミスリー不在の理由をテキトーに説明するためにキッチンに逃げたのだった。ファイブルは「ぶはっ!」と笑っていた。
そんなこんなで不毛な色恋沙汰が一旦は収まった?ところで、五人は集まった。
フォーリアとミスリーが作った料理を食べながら、初めましての人は自己紹介。改めましての人はよろしくね。そんな挨拶をする。
初めましての人は ファイブルとフォーリア。後は改めましての人だ。……が、しかし。
ミスリーは二つ、ニルドに隠し事をしたままだった。まずは八年間ガチのストーカーをしていること。これは現役バリバリであるし、墓場まで持って行く所存だ。
そして、没落貴族であること。ノーブルマッチは貴族のみと定められているため、平民であることがバレるのはワンス的にも若干よろしくない。そのうちミスリーは貴族に戻るだろうし、言わなくてもいいだろう。ミスリーとの目配せで同意も得られた。
となると、酒場の仕事で出会ったミスリーとファイブルには、初めましての挨拶をして欲しい。貴族令嬢が酒場で働くわけもないからだ。
ダイニングで向かい合ったワンス、ミスリー、ファイブルは、三人で目配せで会話をする。なんというハイコンテクスト……。ファイブルは小さく頷いて、ミスリーとは『初めまして』の挨拶で済ますことを察した様子だった。全く出来る男である。
「初めまして、ファイブル・ファイザックです、へえ」
「初めまして、ミスリー・ミスラです」
「フォーリア・フォースタです、初めまして。よろしくお願いします」
こんな感じでミスリーとファイブルは固い握手を交わし、初めましての友人となった。
元々ファイブルと知り合いであったミスリーは、へえブルを見て少し驚いていたが、二面性は彼女の方がお得意科目。初めましてのミスリーとして、盛大にスルーをしていた。フォーリアは二面性にすら気付いてなかった。
「さて、ハンドレッドを討ち取る為に集まってもらったわけだが」
ワンスはダイニングに座る四人を見下ろすように、スッと立ち上がった。
「作戦の全貌を全員に話すつもりはない」
ワンスの突然の宣言に、ニルドやミスリーは眉をひそめた。協力を仰いでおいて、それは無いのではと不満に思うだろう。
「どういうことだ?」
「必要なときに必要なことだけ、俺が指示出しをするってこと」
「なんでよ? 全部、話してくれてもいいんじゃないの?」
「いーや、それをやると……特に、ニルヴァンが一番困るんじゃないか? 割とスレスレのことも計画に含まれるからな」
ワンスが挑発するように言うと、ニルドはフォーリアをチラリと見てから視線を戻し、無言で睨んできた。『ここで口を出すとやぶ蛇になる。そうすると、騎士として計画を止めなければならない。誰が困るか……詐欺被害者のフォーリアだ』ということなのだろう。ニルドが黙認したことで、結局ミスリーも黙った。
それを見たファイブルから『さっすが!』とウインクが飛んでくる。命令の伝達ルートが既に確立されていることに感心しているのだろう。
ワンス→フォーリア→ニルド→ミスリー。複雑な恋愛感情で繋がれた、この四人。伝達ルート及び力関係がハッキリとしている。なるほど、これは扱い易い。唯一、無関係のファイブルは、それを初見で見抜いている様子。眼鏡をクイッと上げて満足そうにしていた。
ちなみにファイブルだけは、すでに計画の全貌を聞いているわけだが、そんなことはお首にも出さない銀縁眼鏡男であった。
ワンスはニコリと笑う。そして、それぞれの目をじっと見て、信じ込ませるように続けた。
「決まりは三つだけ。一つ、途中で抜けたくなったやつは、すぐに俺に言うこと。勝手に抜けるなよ?」
「二つ、危なくなったら逃げの一手だ。リカバリーは俺がやる。失敗してもどうにでもなる。無理はするな」
「三つ、レッド・ハンドレッドを討ち取った後は、速やかに、このチームは解散する。二度三度はない。よって、全力を出し切る」
「最後に。こちらは騙す側だ。騙される側であるハンドレッドよりも大きく優位だということを忘れずに」
五人は目配せで頷き合った。
「さて、五人で遊び倒すぞ」
ワンス・ワンディングはそう言って、ウインク一つ。不敵な笑みを浮かべた。
【一】ワンス・ワンディング。スーパー犯罪者・詐欺師であるが、正体を隠している。賢い頭脳と異常な記憶能力を持つ。金が好き。
【二】ニルド・ニルヴァン。第一騎士団所属の現役エリート騎士。女たらしのクズ男。フォーリアに片思いをしているが、ミスリーと関係を持つ。
【三】ミスリー・ミスラ。ニルドの熱烈ストーカー。没落貴族の小悪魔系奔放娘。ハニトラはお手の物。フォーリアの親友。
【四】フォーリア・フォースタ。美貌は一級品だが、頭が残念。料理上手の貧乏伯爵令嬢。ワンスに夢中。
【五】ファイブル・ファイザック。大商家の跡取り息子。ワンスの悪友大親友。面白い事楽しい事に目がない。情報戦なら負け無し。
愛憎渦巻く五人 VS 詐欺師レッド・ハンドレッド。
詐欺師と詐欺師の騙し合いが、口火を切ったのだった。
【第一章 五人】終
お読み頂き、ありがとうございます!
これにて第一章完了です。次から第二章に入ります。
恋模様と詐欺事件がサンドイッチで進んでいくことになりますが、どちらも楽しんで頂けると幸いです。