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悪食  作者: わたっこ
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少女

「エターナルフォース・ブリザード!」


ヤクザ者が集う事務所に元気の良いっ声が響き渡った。

それは、小さな女の子特有の甲高く、よく通る絶叫にも似た声であった。


「ぐああぁ~!」


堪り兼ねた勅使河原<てしがわら>が叫ぶ。

勅使河原の所属する天堂組の事務所では、

小さな女の子が玩具のステッキを持ち、したり顔で勝鬨を上げていた。


「お兄ちゃんの悪意の全ては今、天に還したわ!」


「マジでか!じゃあ今の俺は何者なんだ!?

 もしかしてキレイな人間になれたのかい!

 キレイな勅使河原になれたのかい!」


「そうだよ。お兄ちゃんは私の魔法の力で生まれ変わったの。

 ほんとはもっと凄い効果もあるけど、それは出さないであげたからね。

 これからはキレイなてし…テッシーになるんだよ」


「そうか…俺はキレイな男、テッシーになったんだな。

 何だか凄く気分がいいぜ。

 今ならコンビニで買い物した時のお釣りを募金箱に入れる事さえ出来そうだ」


屈託なく笑う少女に勅使河原の顔も綻んだ。

事務所には数人のヤクザ者がいたが、同じように表情を緩めている。

ただ一人、困惑している雅史を除いては。


「あ、兄貴…何なんです? この子は」


事態を飲み込めない雅史が勅使河原に問う。


「何って―子供だよ、子供。あのろくでなし女のな」


「はぁ!?あの女って―あいつ、ガキがいやがったんすか!」


「そういやお前は若衆のタコ部屋の方から合流して来たんだったな。

 説明するの忘れてたわ」


少女は勅使河原と雅史が話し始めるとステッキを握りしめ、

奇声を上げながら明後日の方向へ走り出していた。

二人の話を邪魔する訳にはいかないと考えたのかもしれない。

子供らしからぬ賢しさに勅使河原は若干の寂しさを孕んだ顔をして続ける。


「美姫とか言ったっけな。

 何日か前、あの女取っ捕まえるのに

 住み込んでるアパートへ忍び込んだんだけどよ。

 ターゲットがいねぇ代わりに、あの子が一人で床に這いつくばってたんだよ」


「あの子が…?まさかそれ、拾ってきたんすか?」


「おうよ。死にそうになってたから拾って来た」


「死にそうに…まさか、虐待でもされてたんすか?」


雅史は青ざめた顔で言う。

見れば少女はまだ5歳かそこらといった所だ。

こんな小さな子がアパートの一室で死にそうになっていたなんて、

とても許されていい事じゃあない。

一体、何があったというのか。


沸々とした怒りと泥のように湧いてくる疑問を滲ませる雅史を見ると、

そんな気持ちを察してか勅使河原は続ける。


「ネグレクトだよ。

 育児放棄―今回の件に関しちゃ、あの子は欠食児童だ」


「欠食っすか? まさかあの子、まともに食事も取れてなかったんすか」


「その通りさ。見た所、暴力は振るわれていなかったようだが、

 重度の栄養失調でな。本当に危険な状態だったんだぜ」


「あのクソアマ!

 自分のガキ放り出して好き放題に遊んでやがったって事っすか!」


みるみる雅史の顔が怒り一色に染まっていき、その表情が険しくなっていく。

しかし、勅使河原はお構いなしに話を続ける。


「あの子なぁ…何日もの間、何も口に入れる事が出来ねぇで―

 最後には部屋に転がる虫の死骸を食ってたらしいんだよ」


―虫の死骸


年端もいかない子供が、空腹に耐えかねて部屋を徘徊する虫を食べていたのか。

あまりの非道な現実に雅史は言葉も出ない。


「放置されたあの子は、暴れて、泣いて、虫を食って。

 それでも頑なに母親が帰るのを待ってた。

 だから組で拾って保護したって訳さ。

 まあご覧の通り、今は目に余る程の元気っぷりだが。」


事務所の奥の方にいる組員の元でステッキを振り回す少女を見て、

勅使河原は軽く微笑む。

しかし続く言葉は、その微笑みとは裏腹に残酷なものであった。


「笠原美姫、24歳。

 奴にはこれから組で運営する風呂で一年働いてもらうが―

 態度と稼ぎ次第じゃあ一年なんかで勘弁しねぇ。

 慰謝料、口止め料、強請りのネタなら山ほどあるからな。

 時間をかけて、たっぷりと搾り取ってやる」


「あの子はどうするんっすか?」


「児童養護施設に預けるさ。伝手はある。」


二人の会話の最中に勅使河原の胸元から音が響いた。

着信の音だ。

勅使河原は携帯電話を取ると、二言三言だけ呟くと電話を切って言った。


「半グレの彼氏くんの方も片付いたってよ。

 ほれ、画像も来たぜ」


勅使河原の持つ携帯電話には、顔面全体を腫れ上がらせ、

歯まで全て折られている一人の男が映っていた。

画像を確認した雅史は気分良さそうに軽口を叩く。


「はははっ。ボコられてむしろイケメンになったんじゃないすか。

 整形代でも貰いたいくらいだ。

 こいつはこれからどうするんです?」


「そうさな。

 北の方の国にでも売るかねぇ…

 若い男ってのは労働力としては使えるし。

 ただ、人身売買もリスクが高いし、もしも売れないようなら―」


勅使河原が続きを言いかけた所で事務所内に再度の絶叫が響く。

気のせいか少女の叫びは、まるで雷でも落とすかのようだった。


「エターナルフォース・ブリザード!

 この技の真の効果はね…【相手は死ぬ】だよ!」


勅使河原は、それっきり何も言わなかった。

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