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悪食  作者: わたっこ
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復讐者

あの後、勅使河原は助け出した亜梨沙の保護を電話で呼び出した若い衆に任せると、

里琴と共に車へ乗り込み、都内を走っていた。


「勅使河原。今回の敵は誰。

 襲って来ているのは何者?亜梨沙は何て言っていたの?」


黙って車を運転する勅使河原に、里琴が助手席から問いかける。

だが、勅使河原の返事は連れないものであった。


「どうでもいいだろう。

 今度の件は俺一人で片を付ける。

 お前はストーカー趣味をやめて本家で漫画でも読んでいればいい」


「ストーカーじゃない。私も極道。

 店へかかって来た電話を横から聞いていれば襲撃の予感くらい察せる。

 今回も私は勅使河原の手となり、足となる事が出来る」


「そりゃ有難い事で。

 だが、今回の相手はよその組でも海外のマフィアでもなければ

 半グレのクソ外道でもない。

 今現在では、裏社会に全く関係の無い個人だ。

 だったら出て行くのは俺一人で十分ってもんだろう」


「今現在では関係ない……

 という事は、元・裏社会の外道とか?」


「それを話せば大人しく本家で漫画読んでるか?」


「それは難しい」


頑なに戦闘へ参加しようとする里琴。

車中に暫しの沈黙が広がる。


「お前、何でそんなに戦いたいの。荒事で名を上げていきたいの?」


「復讐みたいなものだから」


「あの家へのか」


「そう。敵が危険であればあるほど、私の武力を知らしめられる。

 そして勅使河原への恩返しにもなる」


里琴は決意に満ちた表情を浮かべて言うが、勅使河原はそれには何も答えない。

車中は再び静けさに包まれる。

車は、夜の闇をたっぷりと吸った道路をひた走っている。


伊万里(いまり) 誠司(せいじ)ー」


静寂を破るように勅使河原はぽつりと言った。


「かつてはうちの組員だった奴だ。

 話せば長いから簡単に言うが、暴れ方が半端じゃなかったせいで野郎は破門された。

 その時に東京からは出て行ったみたいなんだがな。

 このやり口を見ると、逆恨みを拗らせて今更帰って来たらしい」


「その男が襲撃者?

 破門されるって、よっぽどの事件を起こしたの?」


「ああ。不必要に人をいたぶる趣味がある野郎でな。

 それが高じて組に損害を与えちまったんだよ。

 それでも伊万里は実績があったから破門だけで済んだが、

 野郎にとっては、それが腹に据えかねているんだろう」


「そう。勅使河原がそう言うって事は、余程の嗜虐(しぎゃく)趣味だったんだね」


「そりゃあ中坊の餓鬼の頭かち割って、その動画を送り付けて来る野郎だからな。

 俺が言うのも何だが、伊万里のやる事はいつでも人としての線を越えちまってる」


「そいつ、強いの?」


車は赤信号で止まる。

その間に勅使河原は煙草を取り出すと一服入れてから言った。


「腹の立つ事に喧嘩だけは強いんだ。もちろん俺には及ばないがな」


「当然。勅使河原が負けるなんて、私には想像も出来ない。

 けれど、破門されたその男に今も仲間がいないとは限らない」


里琴が呟くと気分屋な信号が今度は早く進めと言わんばかりに青く灯る。

勅使河原は静かに車を発進させつつ言った。


「一つだけ約束出来るか?」


里琴は黙って頷く。


「伊万里の野郎とは俺が決着(ケリ)を付ける。

 だから、お前の出番は決闘に邪魔が入った時だけだ」


「勅使河原が危険になっても?」


「そういう事になったら、さっさと逃げるんだ。

 それだけ約束しろ」


「わかった。約束する」


「よし。まあ見てろ。お前は決闘の見届け人だからな」


車は都心を抜ける。

すると、勅使河原は話の詳細へと入る。


「亜梨沙から言付かってる。

 あのクソ野郎、これ以上、舎弟をやられたくなけりゃ指定の場所へ来いってよ。

 どうやら単騎決戦タイマンがご希望らしい」


「勅使河原と決闘だなんて、命知らずだね。それで、どこまで行くの?」


阿摩区(あまく)にある遊園地だ。

 ただ、遊園地といっても、今ではアトラクションもなく、

 客はタヌキと幽霊の類だけっていう何とも風情のある遊べない遊園地だがな」


「そう。つまり、廃墟ね」


「面白みのない言い方をするとそうなる」


「どっちにしても面白くはない。

 それで勅使河原、武器は持って来てるの?」


「お前は俺のお母さんかよ。ちゃんと持ってるっての」


「奥さんでも言う。銃の匂いがしないから気になった」


「そんな物いるかよ。伊万里の奴に使う弾丸(タマ)が勿体ねぇ。

 銃器は極道の取っておきなんだからな。

 そう言うお前こそ、あの短刀は持ってるのか?」


黒百合之小太刀(くろゆりのこだち)の事なら肌身離さず持ち歩いている。

 曲者が出てもいいように、寝る時だって一緒」


「お前は侍か忍者かよ」


勅使河原が若干呆れたようにして笑う。


遠くなったネオンの光を背に受け、

車は闇に溶けていくかのように阿摩区へと走っていった。

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