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悪食  作者: わたっこ
32/45

教室

≪特にきつかったのは、

 裸にされて写真を撮られた上にネット上に放流された事ですねぇ≫


≪私をいじめた奴らは卒業後、謎の変死を遂げてしまいました≫


突然現れた教育学部生の不穏な自己紹介が叡姫の心中にメスを入れる。


ホームルームが終わり多嘉良と勅使河原が教室を出て行った後、

一時限目の授業を受ける叡姫は思案していた。


ーまさか、バレている?


あの怪しげな男、私の顔を見ながら言いやがって。

しかし、どうして。一体どこから知りやがった。


叡姫はちらりと梨夏の方を見る。


あの底辺女、あれ程言ったのにチクりやがったのか。

あいつ、事が落ち着いたらもっと酷い目に遭わせてやる。


よくも裏切りやがってー


そうだ。


この件が済んだら写真はネットにばら蒔いて、

釣り上げたキモいジジイ相手に売りをやらせてやろう。

あの裏切り者に地獄を見せてやるんだ。

そのためにも、まずはここを乗り越えなければならない。


でも、大丈夫。

深く考えるような事でもない。

私たちの遊びが本当にバレていたとしても焦る必要なんて何もない。


だって、確かな証拠となる写真は

ホームルーム終了後にかき集めてゴミ箱の裏底へと隠した。


裏切り女の鞄に詰めてやった写真も

今日、持って来させておいたのは幸運だった。

後はゴミ箱裏底の写真を処分すればいいんだ。


そうすれば確たる証拠はもう梨夏の奴でさえ持っていない。

残っているのはスマホの中のデータだけだが、

まさか生徒が所有するスマホの内部データなんて調べる訳にはいかないだろう。


もしも、そんな事をすれば完全にプライバシーの侵害になる。

そうなればママだって黙っていない。


それよりも、あの写真だ。

いつまでもあんな所に隠してるのはやばい。


一時限目が終わったら休憩の間に処理しておこう。

現物さえ消してしまえば、後はしらばっくれていればいい。


ちっ。あのクソ教師、いつまでも下らない遅れた授業しやがって。

さっさと終わらせろよ。胸くそ悪い。


全部あの裏切り者のせいだ。

絶対に地獄を見せてやる…


授業の声をよそに、叡姫の脳内が呪いの言葉で満たされていく。

止めどない怒りに支配された叡姫は、

余程我慢ならないのかスマホに手をかけ

机の中に隠すようにして操作し始める。


程なくすると長い一時限目の授業終了を告げるチャイムが鳴った。



※※※



「ねぇ、叡姫ぉ。あの教育学部生、何なの?

 なんかさ、ヤバい事になってるの?」


叡姫を中心とするグループに所属する女子生徒の一人が

不安げな顔で問いかける。


「別にヤバくはないでしょ。

 何か知っていようが知っていまいが所詮はその辺の大学生じゃん。

 いざとなれば黙らせられるし、私の敵じゃないから」


叡姫はゴミ箱の裏底へ隠した写真を回収しながら言った。


「ほんとに大丈夫なの?

 バレたらマジ、ウチら退学じゃ済まないよ?」


「……………」


尚も言う女子生徒に叡姫は一瞬黙ると、不機嫌そうに眉を顰めて言った。


「うざっ…」


「えっ…でも、だってさぁー」


「みなっち、私が有象無象の大学生に、してやられるって思ってるんだぁ。

 なんかショック~」


「違っ…私はただ、ちょっと心配だっただけでー」


「えー。みなっち、叡姫の事信じられないの?

 ウチら友達なのに、ちょっと酷くない?」


二人の会話を聞き付けた女子が近付いて来て言った。


佳海(かなみ)。ね、酷いよね。

 普通、友達がそういう事言うかなぁ?

 私はみなっちの事、信じてたのになぁ」


「ご、ごめん。私、ちょっと驚いちゃってさ。

 だって、あの教育学部生とかいうの突然来て、

 まるで全部知ってるかのように言うんだもん」


「何それ~。みなっち、心配性のお母さんみたい。

 てか、叡姫のお母さんPTA会長だし、

 お父さんは学校に寄与金出してるんでしょ。

 例えバレても適当に隠蔽してくれるっしょ。

 うちらは堂々としてればいいんだよ。ね、叡姫」


「佳海の言う通りだよ。

 みなっちさ、言っておくけど私、昔からいじめ遊びやってるけど

 バレた事ないから。

 みなっちは、もっと堂々としててよね。

 あんまりブルブルしてるとバレるどころか、いじめに遭うかもよ?」


叡姫と佳海の言い様に、

みなっちと呼ばれている少女は顔を青くして口を閉じた。


「はい、これ。みなっち、お願いね」


すると、叡姫は回収した何枚かの写真をみなっちの胸元に押し付け言った。


「ちゃんと処分しておいてよね。

 それでさっきの無礼はチャラにしてあげるから」


「あっ…うん。私、処分してくるよ。

 でもさ、これ、どこで処分したらいいかな?

 こんなの見つかったら本当まずいしー」


「そんなの知らないよ」


おろおろして言うみなっちに叡姫は冷たく言い放った。


「ごめん!自分でちゃんと処分して来るから」


焦るみなっちは急ぎ、教室を出て行こうと足を動かした。

そんなクラスメイトに叡姫は思い出したように一言かける。


「あっ。みなっち、ちょっと待って」


教室扉に手をかけるみなっちへ向けて叡姫は続けた。


「どこに処分してもいいけどさ。

 もし誰かに見つかっても友達を売るのはナシだよ。

 ちゃんと自己責任で処理してね?」


刺のある言葉を背中に受けたみなっちは、足早に教室を出て行った。

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