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悪食  作者: わたっこ
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計画

ーどうして、こんな事になったのだろう。

何で私がこんな目に遭わなければいけないのだろう。

そして、この恐ろしい仕打ちはいつまで続くのだろう。

眼前にいるナメクジは、こちらの気も知らず、

自らの運命さえも知らず不気味に蠢いている。


「やった事には責任を持とうよ」


グループのリーダーらしき男が放った言葉が美姫の脳内に重くのしかかる。



こうなったきっかけは、些細な悪事一つだった。

椅子ごと床に這いつくばる美姫は、目の前のナメクジに懺悔でもするかのように

あの日の計画の事を思い返していた。


※※※


「絶対、こうすれば上手く行くって」


美姫の彼氏である貴仁は一つの作戦を提示し、協力を仰いでいた。

それを聞いている美姫も愉快そうな表情を浮かべ乗り気で言った。


「まあ、やってあげてもいいけど~」


いつものような簡単な計画であったので美姫は軽い感じで了承する。

計画とは言っても、やる事は簡単であったし

何より面白そうだと思っていたからだ。


それに、愛する彼氏である貴仁のためでもあるし成功すれば

本当に儲かるとも思っていた。

もちろんそう危険な事でもない。

リスクは最小限のはずだったのだ。


貴仁の提示する作戦はこうであった。

個人経営のしがないアダルトビデオショップ内をうろつき、

その審美眼を如何なく発揮している中高年の男と少しだけ遊んであげる、

という単純な内容である。

美姫が乗り気である事を確認した貴仁は、調子良く言葉を繋いでいく。


「やり過ぎない程度に露出高めの恰好して行けよ」


「やり過ぎない程度って、どのくらいよ」


「わかんねーけど、明らかにお水系漂わせてたら相手引くじゃん?」


「だからって、清楚系でそんな店入るのおかしくない?」


「清楚とは言わねーけど。派手過ぎるのはやめろって事だよ」


「塩梅が難しいなぁ~。大体そんな上手く行くの~?」


ひとしきり、二人で雑談しながら作戦を練る。

二人でする悪巧みは本当に楽しい時間だ。

いつも悪くて楽しい計画を思い付く貴仁と一緒にいるのは飽きる事がない。

しかも貴仁は暴力団に入っている訳でもないから

本当に危険な人物という訳でもない。


それに、今までも二人で多くの計画を立て、実行し、稼いで来たのだ。

今回の計画も今更怖がるような内容でもなかった。


暴力団に所属せずに自由に悪事を行い、利益を全て自分の物にする。

貴仁は所謂【半グレ】という種類の人間であったが美姫はそんな事まで知らない。

分かっているのは暴力団に所属していないが故に、

危なくなったらいつでも普通に戻れるという事だけだ。

全ては貴仁が言っている事だが。


「貴仁って、いつも面白い事考え付くよね」


「当然だろ~、世の中稼いだモン勝ちなんだぜ。実力主義ってやつだわ」


「だよね~!貯金もチョー貯まったしアタシ、新しい車乗りたくなってきたぁ~」


「稼ぐだけ稼いだら車でも何でも買ってやるって」


「マジ~!やる気出る~!で、その作戦、いつやるのー?」


「今でしょ~っ!」


笑顔で乗ってくる美姫に貴仁は冗談交じりに答え、二人は計画の実行に入った。


※※※


―作戦は、驚く程に上手くいった。


AVショップに入った美姫は棚にあるアダルトビデオを

凝視している壮年の男の隣に立ち、

そっとスマートフォンをかざして見せる。


『援助交際希望です』


そのスマートフォンの画面には、そんなメッセージが映されていた。


程なくして美姫が店を出ると、次に壮年の男が出てくる。

連れ出しに成功した美姫はタクシーを呼び、近場のホテルへ走らせた。


それから後は二人にとって本当に楽しい時間だった。

美姫は男をベッドに誘い、興奮した男が抱きついてきた瞬間に貴仁が乱入する。

ついさっきまで秘め事をする気満々でいたはずの美姫の態度が急変し、

貴仁に泣きつく。

激怒した貴仁が壮年の男に殴る蹴るの暴行を加え、最後には強請りに入る。

古典的な美人局の手法だが、伝統があるだけに未だその効果は高い。


男から有り金を全て巻き上げたら口座番号、キャッシュカードまで奪い、

家にまで上がり込み、AVのコレクションを撮影する。

もちろん本人の顔と名前もセットだ。


「AVマニアが女を襲ったなんて知られたら全国クラスのニュースになるよなぁ」


顔面を腫れ上がらせ涙を流す壮年の男に貴仁が吐き捨てながら続けた。


「そんなニュースが流れたら家族はどう思うのかなぁ」


追い打ちをかけるように言う貴仁に続き、

隣の美姫が底意地の悪い笑みを浮かべて言う。


「フツーに考えて爪弾き者一択じゃん?実家は××村みたいだし村八分かもね」


恐怖と屈辱と暴力に震える哀れな男は言葉も失くす。

そんな男に対して貴仁はトドメの一撃となる言葉を浴びせた。

軽く放ったその言葉が己の運命を悲劇に染める事など、

この時点では想像も出来なかったのだ。


「ちなみに俺、ヤクザだから。天堂組ってトコ知ってる?」


怯える男はヤクザの事など何もわからないが、

自分の人生が崩れ落ちていく感覚だけは瞬時に理解する。

そんな男を前に貴仁は満足そうな笑みを浮かべ、仕上げに入った。


「安心しろよ、慰謝料さえ払うなら組には言わないって。

 けどよ、金が用意出来なかったり警察にタレ込んだりしたら…」


貴仁は男の胸ぐらを掴み、凄む。


「俺らだけの問題じゃあなくなる。つまり、組が出てくる事になるから」



三週間後、財産の全てを奪われた男は自殺した。

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