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悪食  作者: わたっこ
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籠城戦

薄汚れた商店街を軽トラで静かに走る勅使河原は、

外れに連なる小さな二階建てのビルへ向かう。


GPSは、二階建てのビルが狭い間隔で三件連なる内の一つ、中央のビルを示していた。

勅使河原は弟分である桃也とうやの居所を掴むと離れた場所で軽トラを降り、

徒歩で近付いて行くと戦況が掴めた。


廃ビルの周囲を十数人の火達磨メンバーが囲い、

怒声を上げているのが遠目からでも確認出来る。

勅使河原は息を潜め、忍び足で隣の無人ビルへと忍び込むと階段を駆け上がり屋上へ出た。


屋上部分からは、隣の桃也が籠城していると見られるビル外周を囲みながらも、

手をこまねいているならず者たちがよく見えた。


何やら一階部分にある二つの出入り口に群がっては弾き飛ばされている。

どうやら桃は、侵入経路が二つしかない事を利用しての籠城戦を展開しているようだ。


「へえ、上手くやったじゃねぇか。で、お前は何してんの?」


「あ。勅使河原の兄貴。お疲れ様です。

 兄貴の方はもう終わったんですか?流石ですね」


答える弟分、桃也は隣のビルの屋上で座り込んでいた。


「相変わらずマイペースな奴だな。

 下では応援に来た四人が出入り口で屑どもを蹴散らしてんだろ?

 お前は何もしないのか」


「だって、出入り口部分狭いんですよ。

 組員二人ずつ配置して迎撃してたら俺の入るスペースなくって」


「かと言って、ここで座ってるだけってのもどうかと思うがな。

 どっちにしろ、このままじゃジリ貧だ。

 下で応戦中の四人も長くは持たねぇだろう」


「大丈夫です。俺は生き残りますから。

 奴らがここまで来ても、俺は隣のビルへ飛び移って事なきを得る予定なんです」


「それじゃお前は無事でも、火達磨の雑魚どもは一向に減らないだろが!」


勅使河原はため息を付く。

桃也は確かな実力を有しているが、どうも堅実というか自己保身に聡い所があるのだ。

ゲリラ戦のやり方として間違っているとは言えないが、これでは一向にケリが付かない。


勅使河原は、右手で桃也を招き寄せるポーズを取る。

桃也は兄貴分の意図を察すると、包囲されているビルを捨て、

勅使河原の立つ隣接したビル屋上へと飛んだ。


もも、出るぞ。俺たちで片を付ける。

 いいか、俺にちゃんと付いて来いよ」


桃也は勅使河原の言葉に頷くと、二人は無人の廃ビルを静かに降り、

息を忍ばせながら外へ出ていく。


二人がビルから脱出する一方、

籠城戦を敷いている四人の組員たちは数の暴力の前にいよいよ突破されようとしていた。


猛る火達磨たちが群がる暗がりを脱出した勅使河原が抜き足差し足で距離を詰めていく。

そして、一人の男の無防備な背中へと強烈な蹴りを浴びせながら叫んだ。


「有限会社 天堂組 勅使河原見参! 」


背中から蹴りを受け、倒れる男と振り返る不良たち。

数人の視線を一身に浴びた勅使河原は踵を返し、走り去る。


「やべっ!こんなにいたなんて、聞いてねぇよ!」


わざとらしく言う勅使河原と、指示通りに並走して逃げる桃。

火達磨の半分以上は怒り心頭に二人を追い立てる。


30~40メートル程走った所に勅使河原が乗り捨てた軽トラがあった。

追われる二人は全速力で走り、軽トラの荷台へと飛び乗った。


「かっ飛ばして轢き殺した方が早いんじゃないですか」


「お前なぁ。これは抗争じゃないんだよ。

 一方的な制圧だ。ガキのタマなんか取れねぇっての」


「流石は兄貴です。お優しい」


言いながら二人の極道は背中合わせにして荷台の両側へ立ち、臨戦態勢を取る。

既に軽トラの周囲は、追い付いた火達磨メンバーにより囲まれていた。


「二人だけだぞ、全員で突っ込んでぶっ殺せ!」


「ヤクザだからってデカい顔すんじゃねぇぞ!」


火達磨は口々に罵ると一斉攻撃へ転ずる。

軽トラの荷台に群がり、乗り込もうと次々と手をかける彼らへ向かい、

勅使河原は笑みを浮かべると、荷台にかけられた侵入者の手をブーツで踏み砕いていく。


「うおあっ!」


「何か仕込んでやがる!」


踏みつけの痛みに思わず掴んだ手を離す火達磨へ、

勅使河原の流れるような払い蹴りが側頭部めがけて放たれる。

一人が崩れ落ちた刹那、勅使河原は荷台に転がる芝刈り機を握り、満面の笑顔で言った。


「火達磨~、野球やろうぜぇ~っ!」


芝刈り機は、夜風を払うが如く複数の敵の頭部を打っていく。

逆側では桃也が暴れ狂う。

荷台に上がろうと躍起になる火達磨の頭や顔面へ、

上から叩くような素早い拳撃が何度も炸裂していた。


「兄貴、まるで一国一城の主になったみたいですね。

 何なら俺は大臣やりますよ」


「なら俺は殿様だな。

 おし、このまま天下統一と洒落こむぜ」


軽トラの荷台を城にする二人の極道が一通り暴れると、

いつの間にか周囲は静かになり、火達磨の下っ端たちが横たわっていた。

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