乱戦
勅使河原は、GPS機能付きスマートウォッチで弟分たちの位置を
確認しながらゴーストタウンを走った。
正門で散開した三人の部下ー
雅史、桃也、金二郎の三人も同じスマートウォッチを装着しているため、
居所は逐一把握出来るようになっていた。
ーここからだと金の位置が近いな。
加勢といくか。
戦闘が終わった奴から順次、加勢へ向かえば戦力差は引っくり返せる。
商店街の奥へと走る勅使河原は、
十字路を右に折れた所で無人の四人乗り軽トラを見つける。
あらかじめ忍ばせておいた三つの部隊の内、一つの隊のトラックだ。
この三つの応援部隊には適宜、雅史、桃也、金二郎の三人を追跡し、
助太刀をするよう命じてあった。
つまり、この応援部隊を含めると、現在それぞれが五人態勢で戦っている事になる。
勅使河原はスマートウォッチを確認しながら奥へと駆けていると
喧嘩騒ぎ特有の物騒な喚き声が聞こえてきた。
その目には、広めの街路で戦う金の姿が見える。
「金、てめぇ!ゲリラ戦って言っただろ!」
見つけた金二郎と四人の組員は円陣を組むように立ち、
外側から襲い来る多数の火達磨を迎撃していた。
「勅使河原の兄貴!
でも俺ぇ、入り組んだ町とか地図見ても覚えらんなくってー」
言いながら金二郎は引っ切り無しに襲い来る火達磨の首根っこを掴むと強引な大外刈りを決める。
技は決まったが、金二郎の顔は既に痣だらけであった。
「馬鹿だな、お前!多対戦でそんな大技使うんじゃねぇよ!」
大技を決めたものの、隙だらけになった金二郎へと一斉に火達磨が雪崩れ込む。
金二郎の周りに立つ四人の組員も傷だらけで正面の敵を迎撃するのに手一杯だ。
五人で組む迎撃陣形、方円の陣は崩れようとしていた。
駆け付ける勅使河原は、劣勢を見るや黙って懐に手を入れると
黒光りする鉄の塊を抜き、構えた。
「そこまでだ、てめぇら!」
何人かのならず者が振り返り、勅使河原の握るそれを見ると凍り付いた。
「ピ、ピストルだぁ!?」
「本気かよ…喧嘩だぞ?」
「話が違うぜ…
炉さんは極道が族を相手に拳銃なんて出さねぇってー」
硬直する火達磨へ勅使河原は拳銃を構えながら前へ歩き、続けた。
「必要に迫られれば出すしかねぇわな。
で、誰から撃たれたい?ジャンケンでもして決めるかよ?」
緊迫した空気。
ガラスの破片のように鋭い極道の声音。
そして鈍色に塗れた殺意の塊に火達磨の誰もが冷や汗をかく。
場に流れる緊張の糸。
それを破ったのは、勅使河原の右手から放たれ、
放物線を描きながら飛んでいく一筋の水だった。
「あっ?」
ピストルに怯える男の股間部が濡れると
子供じみた笑顔を浮かべる極道が火達磨へと駆け出す。
それと同時に金二郎と四人の組員は態勢を取り直し、一斉に攻撃へ転じる。
駆ける勅使河原の飛び膝蹴りが呆けた男へと決まると、戦いは乱戦へと切り替わった。
※※※
「締めて13人か。いや~、いい運動したわ」
勅使河原は息を整えつつ、乱れたアルマーニのジャケットを直しながら言う。
そんな兄貴分に対し、金二郎はやや不安げな顔をして言った。
「でも、兄貴。あいつら、二人か三人くらい逃げて行きましたよ。
追わなくていいんですか?」
「いーよ、いーよ。多勢に無勢だ。
こっちから追撃をかます事はねぇ。今は合流優先だ。」
「しかし拳銃には、俺の方がびっくりしましたよぉ。
兄貴、マジで撃つんかと思いました」
「素直か、てめぇは。
極道がクソガキ相手に拳銃なんか使ったらいい笑いもんだ。
あれは水鉄砲だっての」
「ああ…いつものハッタリなんですね。それにしても良く出来た水鉄砲です」
「ハッタリじゃねえ。騙し討ちだ」
「すいません。俺には、どう違うのかわかんねぇです」
乱戦で疲弊した金二郎は大の字になりながら答えていたが、勅使河原は構わずに続ける。
「次だ、俺は桃のトコ行くからお前は雅史のトコへ走れ」
「マジっすか。雅史はともかく、桃は大丈夫じゃないですか?」
「いいから早く行けよ、キンタロー。マサカリ背負わせるぞ」
「金二郎ですよぅ」
合流した二人の極道は再び分かれ、それぞれが加勢へと走る。
ゲリラ戦はまだ終わってはいないのだ。
出来得る限り兵力を失う事なく、敵戦力を崩して行かなければならない。
金二郎を含む五人の組員は雅史の元へ。
頭である勅使河原は、桃也の元へ。
悪食の極道は、再びゴーストタウンを駆け出した。




