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悪食  作者: わたっこ
11/45

泣きじゃくる未来のギタリスト、ケンジを帰してから2日が経ったその日、

勅使河原はパソコンを食い入るように見つめ、思考を巡らせていた。


そもそもの発端は、若頭・九鬼幸四郎からの密命であった。

数日前のある日、勅使河原は九鬼に呼び出され暴走族、火達磨の殲滅を言い渡された。


近頃、巷で暴れているつまらない悪童たちだが、

ここ最近になって頭が変わったようで目に余る程の残虐行為を働き、

判明しているだけで三件の放火行為が確認されている。

勅使河原は退屈そうに事件の記事に目を滑らせた。


民家放火、個人経営店放火、アニメーション学院放火。

死傷者は累計十五名。


犯人は三件共に別人であり、いずれも首筋に炎の刺青があり、三者共に犯行を認めている。

火達磨の頭、いろりが実行した放火行為を庇っているのか

命令された三人が放火を実行しているのかはわからないが、

いずれにしても頭を潰せば見境のない放火行為は治まるはず。


問題はいろりの居所の把握だ。

火達磨の拠点は警察も調査したが、頭らしき者を確認が出来ていない。

捕らえた幹部のケンジも重要な情報を持っていなかった。


余程の臆病者なのだろうが、聞く所によると喧嘩だけは得意で負け無しらしい。

タイマン好きというタレコミもある。

火達磨の下っ端がクラブで天堂組主催の地下格闘技大会の詳細を

バーテンダーに聞いていたという情報もある。

いっそ出場でもしてくれたら面倒がないのだが。


何はともあれ、まずは居所の把握だ。

透明人間は殴れないのだから。


もう種は蒔いてあるー

後は食いつくのを待つだけだ。


※※※


廃墟と化したアミューズメントセンター。

かつて幾多の子供たちを笑顔にさせてきた車型の筐体は錆びて埃まみれ。

筐体の破れた座席部分には一人の男が座り、機嫌良さそうに言った。


「クロムハーツかい。最近の不良ってのは良い物を持っているんだね。

 出来損ないと言えども優勝候補と言われるだけの事はある訳だ」


高級ブランドの時計を擦りながら言う男の周りには

九人の男たちが足を棒のようにして立っている。

そのいずれもが、首筋に炎の刺青を施していた。


「しかし流石ですね、いろりさん。

 あのシンって野郎、ヤクザがバックにいる地下格闘技の大物みたいでしたよ」


「余裕ぶってやがったけど、いろりさん相手に手も足も出なかったんでしょう?」


「今回の戦利品、すげぇっすね。それ、普通に買ったら幾らするんすか」


口々に言う男たちにいろりは少し困ったような顔をして言った。


「戦利品?それは違うね。これは君たちのプレゼントだろう?

 俺は優勝候補って奴を倒しただけで強盗行為までは働いていない。

 この場合、盗みを働いたのは君らであって俺は犯罪行為には関わってすらいないでしょ」


いろりはいつものように屁理屈を並べ立てると

幹部たちの表情は陰るが、文句など言う者はいない。


「でも、ヤクザと繋がりがあるってのは流石にヤバいんじゃないですか。

 ここら一帯の顔って言うと天堂組ですよ。

 奴ら、東京全体に強い影響力を持ってるって話です」


「ヤクザね。知ってるよ。でもそれは大丈夫だ。

 面子が全ての筋モンが僕たちみたいな族に(チャカ)だの日本刀だの

 出してくる訳ないし、そうでなけりゃ負ける訳もないから」


いろりは軽く言うが、実際の所は引き際だと考えていた。


ーそもそも自分は喧嘩と放火が出来ればいいのだ。

この土地に、こだわりなど無いしいざとなれば県外へ出て、そこで放火をすればいいだけだ。

今までもヤバくなる度に、新しい土地で趣味の放火を行ってきた。

ヤクザは自分のシマの事しか眼中にない。

カネの問題でもあるまいし、縄張りを出れば大した脅威になりはしない。

こいつらを生け贄にして、この東京からは脱出すればいい。


「出てくるかなぁ。ヤクザ。

 とりあえずヤクザ出てきたら一匹、燃やしとく?

 ああいう奴らはいくら殺しても問題にならないから、ある意味では便利なんだよね」


軽々しく口にする男に、幹部たちの顔は青ざめていく。

相変わらず群れて息巻いているだけの半端者たちはいろりにとって都合が良かった。


だが、腰が引けたままヤクザとやらせるには心許ない。

自分が逃げる際には、コイツらには目眩ましになって貰わなければ困るのだ。

少しばかり、この半端者たちの尻に火を付けてやる必要がある。


「ギタリストのケンジくん連れてきて。

 久しぶりにケジメのお仕置きショーやるからね」


いろりが手元のジッポを揺らしながら言った。


「今、探してます。

 家にはいませんけど、あいつの行くような場所は見当が付きますんで。」


「早くしろよ。俺は別に誰を焼いてもいいんだからな。

 事によってはお前たちだっていいんだ」


息を飲む幹部たちを一瞥すると、いろりは笑いながら続けた。


「そんなビビる事ないって。幾らなんでも殺しはしないから。

 これでも俺は面積、深度から熱傷指数を計算して仕置きしてるんだ。

 まあショック死の可能性はあるけど、今の所は誰も死んでないだろう。

 そもそも人間っていうのは、体表の30%以上を焼かれなければ

 基本的には死なないものなんだ。これには計算式もあってー」


薄暗いアミューズメントセンターには、いろりの喜びと興奮交じりの声だけが木霊し続けた。

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