いいわけ
物語を、書く。
かつて、自分が下した判断を、思い出しながら。
物語を、書く。
かつて、自分が口ごもった言葉を、思い出しながら。
物語を、書く。
かつて、自分が言ってしまった台詞を、思い出しながら。
物語を、書く。
かつて、自分が望んだ展開を、思い出しながら。
物語を、書く。
かつて、自分が何もできずに流されていたことを、思い出しながら。
物語を、書いてみた。
私は、あの時、こうするしかなかった。
物語を、書いてみた。
私が、あの時、こうしていたら、きっと。
物語を、書いてみた。
私は、あの時、こうしたかった。
物語を、書いてみた。
私が、あの時、こう考えることができていたら、きっと。
私が知っている過去が、物語になる。
私が知らない過去として、物語になる。
私が、書いた、物語。
私の知らない、私が過ごした私の過去。
私の知らない、私が願った私の生き様。
私の知らない、私が逃げ出した私の生きる場所。
私の知っている、私が選べなかった、望むもの。
私の知っている、私が逃げ出せなかった、場所。
私が知っている、私が口にできなかった、言葉。
言い訳をしながら、物語を書いた。
―――だって、仕方なかった
―――だって、知らなかった
―――だって、どうしようもなかった
言い訳をしながら、物語を書けるようになった。
―――だって、仕方ないから、私は受け入れるしかできなかった。
―――だって、知らなかったから、私は何もできなかった。
―――だって、どうしようもなかったから、流されるしかできなかった。
言い訳をしながら、物語を書いて、少しずつ自分を取り戻す。
―――こうすれば、良かったんだね。
―――こうしていたら、良かったんだね。
―――こうなっていたら、良かったんだね。
言い訳をしながら、物語を、書いている。
自分の人生に、言い訳をしながら、生きている。
自分の人生なのに、自分に言い訳をしながら生きている。
今、自分の人生を歩んでいるはずなのに、意識はいつも過去にある。
私は、いつまで言い訳をするのだろう。
私は、いつまで言い訳をしていくのだろう。
私は、いつまで言い訳をし続ければいいんだろう。
今、生きているはずなのに。
今、生きている、はずなのに。
私は、今日も、言い訳をしている。
過去に囚われ、過ぎたことの言い訳ばかりしている、今。
過去を今に持ちだして、言い訳ばかりしている、私。
いつか、言い訳が、今に追いつくことを願って、物語を綴る。
いつか、言い訳を、思い浮かべない日が来ると信じて、物語を綴る。
いつか、自由な物語を書けるようになるはずだと。
……私は、今日も。
文字を、……つなぐ。