番外編 新米女神シシディア
女神見習い最終試験官の大女神アレス様はおっしゃりました。
「見習い女神卒業試験は99年間あります、その間に課題の人間を1人、異世界へ転生させなさい。ただし、課題では自分自身で解決しなさい。女神にアドバイス等はもらっても良いけれど、直接的な援助は一切できないわ」
「はい! アレス様! 私は必ず見習い女神試験に合格してます!」
とミミはやる気満々で最終試験に向かう。しかし、まさかあんなことになるなんて……
なんと異世界転生待ちの将大のせいでイセパットが壊れてしまったのだ。ミミはイセパットの修理代120万エリカを稼ぐために、日々将大と共にアルバイトで修理代を貯金している。
ここであなたは覚えているだろうか?
ミミが最初にアレス様のところへ報告したときのあの言葉……
◆ ◆ ◆回想◆ ◆ ◆
「120万エリカ!? アレス様、そ、それはかなり高額です。今すぐに用意できるわけありません!」
「女神たるもの、仕事器材に遠慮はしていてはいけません」
「そ、そんなあ。今10万エリカしか持ち合わせてなくて……つけといてもらえませんか?」
「だめです」
「分割は?」
「だめです」
「クレカで」
「天界にクレカ……そういうのはありません!」
「じゃあどうすれば?」
「決まっているでしょう? アルバイトして稼ぎなさい! 幸いこの試験の期限は99年もあるんですから」
「あの……確かにそうなんですけれど……みんなどれくらいの期間で女神見習い卒業試験を合格しているの?」
「基本的には一週間から1年前後の子が多いですね。今年の受験者は15人だけど、もうすでに一人終わった人もいるわ。あなたも早く卒業できるように、まずはイセパットの交換費用を集めてきてくださいね!」
「わ、わかりました……アレス様……」
◆ ◆ ◆回想おわり◆ ◆ ◆
このお話は女神試練を1位で乗り越えたシシディアのお話である。
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「私はついに、女神になることが出来た。しかも見習いの中では1番目だ」
左手にはイセパット、右手にはタッチペンを持つこの女神はシシディア、女神学校でも優秀な成績を収めている。
彼女は今日から女神事務所で転生職として、迷える魂を救うのだ。自分事務所の事務所を持つことが出来るようになった彼女はデスクに座り、ふぅっとコーヒーを飲む。今日のコーヒーはキリマンジャロだ。
「どういうわけか、私はとりわけ運が良い」
クールにつぶやく彼女は眼鏡をくぃっと調整する。
シシディアの見習い試験でのことをすぅっと思い出す。
★ ★ ★
私が出会ったのは小さな女の子だった。肩まで伸びた黒い髪、大きな瞳、ワンピースを着ている。お人形さんみたいに可愛い女の子だった。
私はイセパットの情報を的確に読み取りながら、目の前の少女に語り掛ける。
「花織ことねさんですね」
「はい! 10歳です! お姉ちゃん、ここはどこ?」
ことねはキラキラとした目であたりを見渡した。ここは天界と異世界の中心の部屋、白い世界が延々と続いている。
「あなたは死にました、残念ながら……病死ですわ」
「? 何言っているのお姉ちゃん。私はここにいるよ、だから死んでいないよ!」
死を理解していない彼女は、今の自分が生きていると信じ切っているようだ。
「私ね! 手術が終わったらね! ひまわり畑を走り回るのが夢だったんだ! 私が今歩けるようになったという言うことは、手術は成功したんだ!」
にぱーっと無垢な表情で彼女は笑う。
私はイセパットの情報を再び確認する。
彼女は生前歩くことが出来ず、車いすでの生活をしていたようだ。手術も本来であれば成功するはずだったが、急に薬が体と拒絶反応を起こし死んでしまったのだ。
彼女はまだ理解できていない……。死んでしまい、現世から離れたから歩けるようになったんだって。
「ことねさん……」
私は小さくつぶやく。なんだろう、まだ死を感じていないキラキラとした瞳は私の胸をジンジンと痛めつけた。
「あのね! 私のおばあちゃんがね! 言っていたの! ことねなら大丈夫って! ねえ! おばあちゃんのところに行きたい! おばあちゃんはどこ? 私が歩けるようになったところを見せてあげたい!」
幼い彼女は夢を持っていた。
それが夢半ばで終わってしまった、そして死を知らない彼女に私は伝えなければならない。
私は少し深呼吸を行いもう一度告げる。
「あなたは王女になりたいですか?」
「え?」
彼女は尋ねた。そりゃあそうだ、私は今から小さな嘘をつくのだ。イセパットの転生先情報を確認しながら彼女に口を開いた。
「ことねさん、あなたに招待状が届いております。あなたには王女の資質、いえ王女に成れる力を持っていると」
「本当に!?」
「ええ、少しの努力は必要ですが、あなたがもし王女になった時には、最愛のものがあなたを祝福してくれることでしょう」
「おばあちゃんにも会える?」
「……おばあちゃんに会うのはもう少し先ですが、王女になったあなたをきっとほめてくれるでしょう」
私は小さな嘘をつく。彼女はまだ若い。
次の世界で死んだとき、天国でおばあちゃんに合わせてあげるという意味だ。
「わかりました! 私王女になる!」
幼い彼女は答える、まだ幼いことだけあって回答までの時間が早い。
「それでは、あなたに魔法をかけてあげましょう。次にあなたが目覚めた時、あなたは14歳になっています。髪も金色のきれいな髪、身長も高くなっています。」
私は次の世界の容姿が書かれている資料をみせる」
「わぁ! 本当に私、お姫様になっちゃうの?」
「ええ、見た目はもうお姫様です。しかし、王女たるもの、見た目だけではだめです。心も王女でなくてはなりません」
私はイセパットに書かれた重用説明事項を説明する。これが終われば彼女は異世界に転生される。
「わかりました! 私! 頑張る!」
彼女が承諾すると彼女の頭上に小さな魔方陣が広がる。そして彼女の体が宙に浮く。
「頑張ってくださいね!」
こうして、私はイセパットの「転生」ボタンを押した。
◆ ◆ ◆
「ふぅ……」
私はコーヒーを口の中に含み、そっと深呼吸をする。
イセパット書かれたおすすめの世界を、転生者が満足する世界を選んで見せます!
こうして女神事務所「ひまわり」は本日も営業を始めるのだった。




