第四十話 ゴスっと! 異世界懇親会! 略して『イセコン!』③
「私の名前はクロエ・ブリリアントですの! 生前の名前は花織ことね、病死ですわ! 昔はこんな喋り方ではなかったのですが、異世界転生してからというもの、身分相応の喋り方にしなさいと教育を受けまして、このような高貴な喋り方をマスターしたのですわ。でも目つきが悪くて皆さん仲良くしてくださらないの。私はただ皆さんと仲良くなりたいだけなのに、ひどいでしょう? だから異世界転生者の皆様は私と仲良くしてくださいまし!」
クロエはひらりと軽く挨拶をして着席した。
金色の絹を織ったような綺麗で伸びた髪、すこしきつい眼……悪役令嬢さんも頑張っているんだなぁ。
「ありがとうございます、それでは次の方!」
「はい!」
元気が良く返事した女性、頭に獣耳をした女の子……獣人か。彼女の背中から伸びる長い尻尾がゆらゆらと揺れている。
「私の名前はハルと言います! 生前の名前は……わからないです! 死因は突然死だったと思います! 異世界では私は獣の村を国に発展させるために頑張ってます! 異世界転生の時にもらった【農作】のスキルで村の飢餓はなくなり、人口も増え、大きな町になりました! 他国との交易も最近行えるようになって、とても楽しいスローライフを送れています! 今日はよろしくお願いします!」
獣人の女の子、初めて見たけれどかわいいなぁ……。尻尾もふりふりしている!
あ、この前のアルバイトであったときのオークは魔物だからね! 獣人じゃないからね!
「ありがとうございます! ぜひ、異世界転生を楽しんでくださいね」
「はい!」
ああ、皆異世界転生して楽しそうだなぁ。羨ましい事、山の如しだよ。
「それでは次の方、よろしくお願いします」
「……」
「あ、あの! 次の方!」
獣人の子の隣の男はイセコン開始前から机に突っ伏していた。いかにも態度が悪いなぁ。
「あの! 起きてください! 自己紹介してください!」
男は「ああ?」と小さくつぶやいた後、自分の順番だと認識し口を開く。
「はぁ……ついに俺の番か。みんな、聞いてほしいんだ。俺の愚痴を」
これまでの転生者とは異なり、彼は全てをあきらめたような声で説明を始める。
「俺の名前はグース、配達員だ。生前は足立俊也という名前で生活していたが、修学旅行前に……好きな子に告白前……うぅ、転んで意識を失ってしまったんだ。今は病院で寝たきり状態らしいんだ。だから俺は転生したこの世界から早く抜け出したいんだ。細かい説明は省くが、俺は転生前伝説のレーサーだったらしくて、もう一度俺の記録を超えるのが生き返る条件なんだ。もちろん俺は初心者だから、追い抜かせるはずもないんだ。このままだといつまで経っても俺は優勝できねえ。はぁ……今日はみんなに愚痴をこぼせただけでもよかったよ……どうやって2回目の優勝を狙えばいいんだぁ……」
そういって彼はイセコン前の時のように机に突っ伏してしまう。彼はどうやら前世である現実世界ではまだ死んでいないらしく、生き返るために今の世界で頑張っているらしい。
(か、かわいそうに……転生して絶望するケースもあるんだなぁ)
俺は心の底から彼に同情をする……
「大丈夫ですよ。グースさん。あなたは今大変かもしれませんが、きっとこの世界で良かったと思えることが出来ると思いますよ」
その時、グースの右隣(俺の左隣)の美少女が彼の背中をさすり優しくつぶやいた。
「私も、最初は転生したときに死を覚悟したんです。でも、奇跡が起こって今の暮らしをしているんです。あなたが努力する限り、きっとあなた自身を超えられますよ」
「うぅ……そうかなぁ。俺、頑張れるかなぁ?」
「大丈夫です、勇気を出してください! きっとその世界で使えるチートスキルやアイテムなんかがあるはずです!」
「あ、ありがとう。俺……頑張ってみるよ」
そういって彼は「よし」っと呟き背筋を伸ばし、髪をかき上げた。そうすると、前髪で隠れていた顔が現れる。こ、こいつもイケメンだったか! 俺は脱イケメン君と心の中で呼ぶことにした。
やはり、転生者同士の会話は無意味ではなかった。彼のやる気に火をつけることが出来たぞ。さすが美少女ちゃん、天使のような女の子だ。
「えっと、将大さん。急に口を割ってしまいごめんなさい。さて、ちょうど私の番ですので自己紹介させていただきます。私の名前はミカ・ファルです。生前の事は言いたくないので伏せてきます。私は先ほども言いました通り、転生後は処刑される寸前でした。でも、小さな奇跡が起こって私は今の私になることが出来たんです。小さな島国ですが、綺麗なビーチがあっておいしい料理を食べられて、仕事も楽しくて! 今凄く幸せなんです! 今日はよろしくお願いします!」
な、なんて聖女様なんだろう。とても美少女で隣に座っているだけでもドキドキする。いい匂いがふんふんと俺の鼻孔をくすぐる……正直に言って好きだ。
(あれ?)
しかし、また心の底から出てくるもやもや感、令嬢と獣人の子の時には思わなかったあの不思議な感覚が俺の頭をぐるぐるさせた。
(いやいやいや、今は司会をするのが仕事だぞ。もやもやなんて後で解消すればよいじゃん! 頑張ろう)
「それでは、これから料理とお飲み物をご用意しました。ぜひ食べながら会食を楽しんでくださいませ! 異世界情報を共有するもよし! 現世の記憶を喋るもよし! 好きな話をしてください! 時間は今から約40分ほどありますので楽しんでください! それではどうぞ!」
俺が会食の開始を告げると、皆立ち上がって料理を取りに行った。
異世界で食べている料理もおいしいが、天界の食べ物も気になっていたようだ。まあ、天界の食べ物は基本君たちが生前に食べていたものとほぼ同じなんだけどね。
俺は席を離れ隅っこで全員の様子をうかがう、社交的に話している令嬢と獣人の子、むしゃむしゃ食べている伝説の勇者、こそこそと前世の恋愛話をしているダブルイケメン、皆それぞれ楽しそうに話していてよかったな……
あれ? 先ほどの美少女ちゃんは?
つんつん
「うぁ!」
俺は背中を指でさされる。びっくりして後ろを振り向く。
すると先ほどの美少女ちゃん、ミカがそこにはいた。
「将大……やっと見つけた!」
ぎゅううう
「えええ!」
なななな! なんと! 突然超絶美少女ちゃんのミカに抱きしめられた。ああ、頭がフワフワする。体つきも柔らかいしむ、胸も大きい。
「あわあわあわ」
パーフェクトボディの女の子にいきなり抱き着かれたらそりゃあくらくらしちゃうよね。
「ふふっ」
彼女は満面の笑みで笑う。まるで満開の花束さえ譲ってしまうほどの綺麗だった。
ひとめぼれだ。いっそもう彼女に告白して……って気が早ーい!
「どどど、どうしたの? ミカさん」
「あなたが……私を助けてくれました! 大好きです!」
えええええええええええ! 俺! 告白された!?




