第三十九話 ゴスっと! 異世界懇親会! 略して『イセコン!』②
異世界懇親会!略して『イセコン!』
本日の俺のアルバイトは「異世界転生!」ではなく、異世界からの転生者を招待して懇親会を行う事である。
『この地図と進行予定表をもっていきなさい!』
ダリアさんに地図を渡され天界2番目通りの会場へと向かう。
しばらく歩いた先、案内された会場は10階建てのビジネスビルの7階の大広間の会議室だった。
部屋の中には中心に丸く大きなテーブルが一つ、それを囲うように椅子が設置されている。
ちなみに、何度も説明しているが天界は日本人が住んでいる世界とほとんど大差がない。
空の浮島とかそんなものはないからね! って俺は誰に対して説明をしているんだか……
懇談会会場の椅子の数は8個ある。
「……」
5組がすでに椅子に座っており、緊張しているせいか黙って開始時間を待っているもの、転生者用の進行スケジュール表を読んでいるもの、不安そうにうつむいているもの等様々だった。
俺が司会で1つの席に座るから、今回参加する異世界転生者は7人という事か。
あ! 司会席と書いてある、俺はここに座ればいいんだな。
部屋を入った一番奥の「司会」と書かれている席に腰を掛ける。そして沈黙が続く中、ダリアさんのくれた司会進行表を確認した。
★ ★ ★
異世界懇談会略して「イセコン!」A会場用資料
時間:10時から11時
【注意点】
○イセコンという言葉を可能な限り使用する事
○異世界転生1年目の転生者のやる気を底上げすることが目的
○参加者7名
○女神が異世界転生を行った後、異世界時間換算で1年以上経過したものが参加対象、なお異世界によって時間の進行速度は異なる
○情報漏洩の為、司会者は天界の情報は話してはいけない。
○全てのイセコンが終わり次第、転生者たちは彼らの世界へ帰還する
【タイムスケジュール】
自己紹介(15分)、食事をしながら雑談(40分)、異世界からの伝達事項・まとめ(5分)
★ ★ ★
(イセコン……流行らせたいのか)
俺は小さくつぶやいて、会場の壁に設置してある時計を確認する。
時刻は9時55分を指していた。
(あと、5分……)
円卓テーブルに座っている人は、俺の右側から、男、男、空席、女、女、男、女、そして俺に戻る。
年齢層はみんな10代から20代、服装も異世界転生をした後の各世界で使用している服を身にまとっている。
彼らは異世界転生後1年も数々の苦難を乗り越えて過ごしている。
きりっとしたイケメン、デブっとしたぽっちゃりさん、やる気のあるのかどうかわからないテーブルに突っ伏している男の子、かわいい女の子、悪役令嬢みたいな女の子、犬ミミを付けている女の子……多種多様の人たちが椅子に座っており開始の時間を待っている。
というか俺の左隣の女の子めちゃくちゃかわいいんだけど! この子の隣に俺座っててもいいの?
(落ち着け……俺、あと一人まだかな……まだかな)
俺は司会進行表に目を通して時間を待った。決して隣の女の子が気になるからそれがばれないように進行表を見てごまかしているなんて事はない!
◇ ◇ ◇
10時
ピピ!
時計が10時の音を知らせる。さあ、異世界懇談、会略してイセコンスタートだ!
俺は司会進行表に書かれている台本を読み上げる。
「それでは皆様、定刻になりましたので顔を上げて背筋を正してください。これより異世界懇談会、略してイセコンを始めたいと思います。司会進行は俺、田中将大が担当します。よろしくお願いいたします」
俺は起立して全員に向かって礼をする。
パチパチパチ
拍手が俺の元にやってくる。みんな優しいなーさすが転生者……ってあれ?
1人まだ来ていないみたいで、空席の状態が続いている。
(確か、予定では7人だったよな。もしかして、遅刻か? と、とりあえず進めていこう)
「一人、まだ来られていない方がいらっしゃいますが始めていきたいと思います」
俺は着座し、司会進行用資料の2枚目に書いてある挨拶文を読み上げる。
「それではイセコンのタイムスケジュールを確認します。まず、お集まりしていただいた7名の方……えっと今は6名ですが、皆様の自己紹介をしていただきます。その後、質疑応答、その後は食事を用意しておりますので皆様でぜひご歓談ください。時間は短いですが皆様、良いイセコンにしましょう!」
俺は文章を人数の部分を修正し、読み上げ全体を見回す。
「それでは私の右隣の男性から、自己紹介をよろしくお願いいたします」
「はい!」
返事をしたのは俺の隣に座っている元気のよい青年だった。円滑に進める為、参加者には事前に自分の名前、転生前の名前、今の世界で何をしているか等自己紹介用のフォーマットシートを配布している。
「俺の名前はアダン・ユウナギと申します。年齢は18歳、転生前の名前は竹中ユウナギと言います! 死因は交通事故です! 今は王都の酒場で知り合ったメイリーと共に魔王討伐のために奮起しております。最近だと、ドラゴンの住んでいる洞窟の場所を発見することが出来ました。今日この場所に呼ばれたことを有意義に思います。皆様、短い時間ですがよろしくお願いいたします」
そういって、好青年は全員にお辞儀をした。好青年だなぁ……しかも非常にまじめな性格である。超絶イケメンだしさぞモテモテライフを過ごしているのだろう……羨ましい。
ん? なんか今、俺の心がもやもやする感じがした。なんか、このシチュエーションはどこかで聞いたことがある。ずっと昔の俺の生前の記憶かなぁ。おっと、司会を進めていかねば。
「ありがとうございます。それでは次の隣の男性の方よろしくお願いします」
「ふぁい!」
(こ、声がでかい)
ガ彼がしゃべるととテーブルが少し揺れた。彼は見た目がちょっと……いや、かなりおデブな転生者だった。
「ぼっくの名前は、アデルでうぇす。アデル・フォン・シャドーでぇす。転生前の名前は山田一郎でぇー、死因はぁー不慮の事故でしたぁ。あ、ぼっくは……あの! 伝説の勇者です。ぼぉくは既に魔王を倒したんでぅえす!」
え! 既に魔王を倒した! こ、こいつが? このおデブさんが? 参加者がこのおデブさんに注目する。アデルという伝説の勇者は自己紹介を続ける。
「しかもぉ、俺が転生したときは赤ちゃんだったんだけどぉ、倒しちゃったんだよねー。ハイハイで魔王のぉ弱点を攻撃したんだぁ。魔王を無事にぃ倒して、それからぁぼぉくはー伝説の勇者としてぇ、皆僕になんでもしてくれるんだぁ。みんなぁよろしくねぇー! 何かわからなかったら伝説の勇者のぼっくに聞いてねぇ。それより早くご飯にしようよぉ、司会さん? おなかがすいちゃうよぉ」
アデルと名の付くおデブさんは何となく偉そうだ。彼の話からするに幼いときに魔王を倒した時の栄光を何年も引きずっているようなイメージだ。
伝説の勇者という風格は完全に消え、どこかの富裕層のいじわる坊ちゃんみたいだった。
(伝説の勇者って……お前、それ何年前だよ)
そう言ってやりたいが、ここはぐっと我慢だ。
しかし、なんだろう。イケメン勇者くんの時もそうだが、なんかもやもやするなぁ。
「あ、ありがとうございます。料理はただいま準備中ですので、自己紹介をまずは終わらせちゃいましょう。それでは隣の……空席は飛ばして金髪のお嬢様」
「えぇ! わかりまして!」
先ほどのおデブさんとは異なり、すらっとした女性が立ちあがる。
「私の名前はクロエ・ブリリアントですの! 生前の名前は花織ことね、病死ですわ!」
金色の絹を織ったような綺麗で伸びた髪、すこしきつい眼……も、もしかして、こ、これは悪役令嬢だぁあああ!




