第三十六話 『修羅場回』俺、死んで天界にいるけれど死ぬかもしれない①
天界
ミミの自宅
「将大さんまだかなー」
ふふーん!
今日はアルバイトが早く終わって家に帰ってきました!
折角早く帰れたんだから、手間をかけて将大さんが好きなビーフシチューを作りました!
さらにお皿に残ったシチューを私が作ったパンで絡めて食べれば……
きっと喜んでくれるはずです!
「キャー! 将大さん! 私はパンを絡めてって言ったんです! パンツを絡めて食べてどうするんですかー! きゃははは、なんてね!」
天界1位パンコンクール本選も近いことですし頑張らないと!
それにしても遅いなー!
ま、まさか!
「将大さん! もしかして、天界の女の子をたぶらかしているんじゃないでしょうね。あの人の事だからあり得るかもしれません! もし、もしそうだとしたら……」
ゴス! ゴス!
「許しませんからねぇ! ふっふふ」
なーんて、ちなみにこのゴス! は私の脳内妄想です、私みたいな可憐な乙女はグロテスクな事はやりません! 冗談です!
さて、将大さんがそろそろ帰ってくると思うのでそれまでテレビでも見ていましょう! 最近はどんなテレビをやっているのでしょうか?
◇ ◇ ◇
時、同じくして……
ファミレスファミリア(天界にあるチェーン店のファミリーレストランです)
「ここが天界のファミレスか……なんか普通だ」
天界のファミリーレストラン入った俺たちは奥側にあるテーブル席に案内され着席する。
「そうよ! ここはチェーン店でね、安くて様々な料理を取り扱っているの! それこそ異世界の料理も扱っているわ。だから老若男女! 100歳のお子様から800歳のおじいちゃんまでたくさんのお客さんがくるのよ」
(100歳のお子様……)
そうか天界人の寿命は人間の寿命とは異なるのか……。ダリアさんの話だと人間の10倍は生きるみたいだな。100歳でお子様なら目の前にいるダリアさんは……一体いくつなんだろうか……200歳? 300歳?
そう考えているとダリアが「じー」と俺を睨めつける。やばい、俺の脳内が伝わってしまったか?
「将大の後ろにメニューが書いているから読んで、好きなものを選びなさい」
な、なんだ。俺を睨めつけているんじゃなくて、俺の後ろのメニューをみていたのか。脳内で考えていることが見透かされたわけではなくてよかった。俺も壁の方へ振り向きメニューを選ぶ……
「ハンバーグ、スパゲッティ、ピザ……すごい。天界のファミリーレストラン初めて来たけど、メニューの安心感やばいよ! ダリアさん!」
どれも俺が知っているメニューだ。異世界だとよくわからないメニュー、特に虫系の料理が出てきて「おえー」ってなる展開だが、ここのメニューは安心できる!
「当たり前じゃない。ここは天界よ! 習読率100% 就職率100% 医者いらず、税金いらずの世界よ! さすがに変なものを提供するお店はないわ」
「安心しました。ありがとうございます」
「ふん! それより、メニューを選びなさい! 好きなだけ選んでいいからね。だって今日はドラゴンレースの優勝記念であんたのおごりなんだからね!」
「わーい……って! そこはダリアさんのおごりじゃないんですか?」
「だから今日はあんたに多めに給料を渡したでしょうが! あ! 私はオムライスにするわ、将大は?」
ダリアさんのお目当てのメニューがあったらしく、俺をなぶるのをやめて急にメニューの話になる。
「俺は……えっと……あ! このビーフチューにしてくれ!」
「……」
ん? おーい、ダリアさん、ポカーンってしてるし、また顔が真っ赤になっているように見えるぞ。今日は一体どうしたんだ。
「ダリアさんー? 聞いてますか? 俺、ビーフシチューを注文したいんだけど」
「あ……ああ! ああ! そうね、ビーフシチューね!」
ダリアさんは「ほっ」と一息ついた様子で店員さんにオムライスとビーフシチューを注文する。
(ちゅうしてくれ……って聞こえてしまったわ。どうして今日はこんなに将大に対してもやもやするのかしら?)
「ダリアさん!」
「ふぇ? な、なんなの?」
「お、お水……俺、持ってきますね」
「あ、当たり前じゃない! 私はあんたの上司なんだからね! 早く持ってきなさい」
「ダリアさん!」
「え……?」
「お水、お代わり持ってきましょうか?」
「えと……あ……うん。お願いするわ」
「……」
ダリアさん、そうとうのどが渇いているんだなぁ……
俺はダリアさんのためにお水を何回か持ってきてあげた。
◇ ◇ ◇
「おまたせしました」
しばらくするとダリアさんのオムライスが先に到着する。
「オムライス! オムライスよ将大! ここのオムライスは絶品なの! 半熟オムライスがライスを包み込み特製ソースがじゅわぁわって! 欲しい? ねえ? 欲しい? あげません―! あれ? 将大のビーフシチューはまだ来ていないみたいだけれど、冷めたらいけないから先にいただくわ」
むしゃむしゃ
むしゃむしゃ
「……」
誰だ、誰なんだこの人は。
目の前にいるのは普段きつめな目で俺をさげすむように見るダリアさんではない。
どうやらダリアさんはオムライスに目がないらしい。
俺の眼も気にせずに一生懸命にオムライスをほおばっている。
一応俺より200歳は年上なんだから、そんなにがっつかなくても……
◇ ◇ ◇
ダリア視点
(あー、なんか今日は将大の顔を見ていられないわ。心臓がすごく痛い。本当なら私はあんたに説教するために呼んだのに! 私を惑わすような言葉を言わないでって言おうとしたのにどうして声が詰まっちゃうの? どうしてもっと言ってほしいって思っちゃうんだろう)
「ダリアさん!」
「ふぇ? な、なんなの?」
「お、お水……俺、持ってきますね」
「あ、当たり前じゃない! 私はあんたの上司なんだからね! 早く持ってきなさい」
ごくごくごく
(なんとか、これで気を落ち着かせなきゃ!)
「おまたせしました」
しばらくするとダリアさんのオムライスが先に到着する。
「オムライス! オムライスよ将大! ここのオムライスは絶品なの! 半熟オムライスがライスを包み込み特製ソースがじゅわぁわって! 欲しい? ねえ? 欲しい? あげません―! あれ? 将大のビーフシチューはまだ来ていないみたいだけれど、冷めたらいけないから先にいただくわ」
(こんだけがっついていれば話しかけられないでしょう。このオムライスを食べ終わったら、ちゃんと話すんだから。私の事をいじったことを後悔させてやるんだから!)




