第十二話 異世界転生アルバイト! オークから逃げ切れ!
アルバイト 三日目 朝
(はぁ……まさかこんなに大変な仕事だとは思ってもいなかった)
『転生するのは人間だけじゃありませんよ』
ミミさんの一言を思い出す。なんと俺はこの世界では人間ではなかった。
「何とかここまで逃げ切ることができた。まさかオークという形で転生するとは……」
(短い脚に膨れたおなか、大きな鼻。何よりこの独特なからだのにおい……初日は息をするだけでやっとだった)
「アダン様―! 結婚してー!」
(俺はこの世界の中でアダンと言われている。オークはもともと男性が二%で女性が98%、もともとハーレム系の頂点に達しているかの如く女性オークからモテる。そして俺はこの三日間、地獄のような日々を過ごしていた)
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回想 転生初日
『今年もオーク結婚祭りが始まりました! 男性オークが成人式を迎えることができました! 女性オークの方はぜひ彼の心をゲットしてください! 毎年恒例の方も多いですが、一応ルールを説明いたします。男性のアダンさんはハーレムルートでよかったですね!』
~オーク結婚祭り ルール~
ルール一 成人の日を迎えた男性のオークは三日の夕暮れの鐘がなるまでに女性オークにキスされたら即結婚!
ルール二 その方と子孫繁栄の儀式を即執り行う。男性オークの拒否権はなし。代わりに複数のオークとの結婚を許可する!
ルール三 結婚のためには手段は問わない。ただし男性オークを殺してはならない。
「私も結婚のためには手段を選びませんでした。逃げる彼を落とし穴に誘導して……ハハっ! 拘束した後に結婚できました! ちょっとけがをしちゃったみたいだけど結婚のためには仕方ないよね! あー懐かしい!」
(ここは、地獄か? あの……俺……あんなオークたちとキス……子孫繁栄なんてしたくないんですが! いまから逃げたいんですが!)
「以上が説明となります! みんな分かったかな?」
「うおおおおおおおおお」
「早く結婚させろおおおおおお」
「わたしゃこの祭りで60年、結婚できずにいたけれど今日は首根っこ捕まえて結婚してやるわい!」
(え、この祭りに参加して60年の大ベテランが出席? おばあちゃん? 俺も参加者みんなオークだし、捕まったら結婚? ダリアさん聞こえていますか? 帰りたい! パスで!)
ピピ!
『将大……』
「頭に響くその声は、ダリアさん! 助けて!」
『悪いけど、戻ってくるためには死ぬかオークから逃げ切るかのどちらかしかないわ』
「そんなぁ! どっちもいやじゃあ!」
『じゃあ、頑張りなさいね』
ピピ!
「そ、そんなぁ!」
「さあ! それでは盛り上がってきたところで運命のカウントダウンです。今回は100人中何名が結婚できるでしょうか? じゃあアダンさんはこの町の中の範囲で逃げてくださいね! この町から一歩でも出たらルール違反で全員と結婚です。100人と三日三晩に続く子孫繁栄儀式を楽しんでもらいます。ということでカウントダウンです! さあみんなでせーの!」
「「「六〇、五九、五八、五七、五六、」」」
(カウントダウンって一分しかないの? その間に100人のオークに捕まらないようにって……気合しかない!)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおにげろおおおおおおおお」
――――――――回想おわり―――――――――――――
「はぁ、はぁ」あのオークたち、俺の体臭をかぎ分けて無限に追いかけてくる。しかも昼夜を問わずあいつらは集団で襲ってくる。よく女性オークに捕まらなかったなぁ。さすがはオークの身体能力だ。
休憩時間なんてあるはずもない。
俺はこの体臭を消すため体に泥を塗りたくった。そして今は沼の中で息をひそめている。夕暮れの鐘まであと約二時間。本当にここまでよく頑張った。
ダリアさんの説明だと、『結婚回避』ってなんかお見合いみたいなイメージで、気に入った人の中から自分が選ぶのだと思っていた。しかし、本当は嫌いな女性オークから逃げて、その中で気に入った女性のオークの前に現れて結婚する。一応選ぶという意味は間違えていないが納得いかない! 後で文句言ってやる。
ビー
『あなたアルバイト中なんだから、声聞こえているわよ。文句を言うですって?』
「あ、やべ。ばれた」
『そんなこと言っているなら、天界に戻す期間を遅らせちゃおうかしら?』ふふっ
「いやあ……それはやめて! ダリアさんかわいいって言っただけなんですよ! 今僕はオークなんかより、ダリアさんと結婚したい! ダリアさん! 僕と結婚してください!」
『『ばばば! ばっかじゃないの!?』』
「うわぁ! 急に大声出さないでくださいよ。耳に響くじゃないですか!」
『もう! 私はあなたとは結婚しないわよ! あんたのことなんて全然好きなんかないんだから。全然! 好きじゃない! オークと早く結婚しなさい!』
ピピ!
ダリアとの回線は切れた。
「そ、そんなぁああああああああああああ! あ! しまったつい大きなお声を!」
ギロリ
(な、なんだこの凍ったような視線、もしかして……)
「あ、見つけた! アダン様! みんな! この沼に隠れていたわ! 行くわよ!」
「げ! ダリアさんのせいでオークに見つかったじゃないか!」
『いいざまね。せいぜい頑張りなさい』
「そ、そんなぁ……」
「「「ほら! いくわよおおおおおおお! アダンさまあああ子孫繁栄のため結婚しましょううううう」」」
「「「いやあああああああああああ! にげろおおおおおおおお」」」
俺は走りに走りまくった。もしかしたら死ぬより大変な思いをしたのかもしれない。
ゴーン ゴーン
夕暮れの鐘が鳴り終わる。
「な、なんとか助かった……」
クエストクリア!
元の世界に戻りますか?
「もちろん! 戻ります!」
ブワン




