はじまり The story begins from here?
ずっと一緒だった。
悲しいときは傍にいてくれたし、嬉しい時は一緒になって飛び上がって喜んだ。
唯一、私を理解してくれていた彼。
会いたい。会いたくてたまらない。
「あー。もうこんな時間。」
朝、いつも通りの行動をしていたはずなのに、出社時間を大幅に過ぎて、家を出た。
会社までの道を必死に走る。
「もう無理。」
遅刻なんて社会人になって一回もなかったのに。
“外国人に道案内をして、迷子を交番に届けて”なんて、苦しい言い訳を思い浮かべる。
「よし。」
あとは、この歩道橋を渡るだけ。
会社があるビルは、交通量が多い道路の反対側にあった。
限界を超えた身体に鞭打って、気合を入れて1段飛ばしで駆け上がる。
最後の段差を飛び越えようと足を踏み出した瞬間、目の前の人影に気付いた。
咄嗟に身体を引けば、階段を踏み外していて、後ろに傾く――。
手は助けを求めて空に伸ばされ、襲ってくるだろう衝撃に私は目をつぶる。
これ、最悪死ぬかも…
力強く私の手がつかまれ、身体が引っ張りあげられていく。
「大丈夫?」
低い声が聞こえ、恐る恐る目を開けた。
歩道橋の上だ。
安堵を覚えるのと同時に、けたたましく心臓の音が鳴る。
「大丈夫?」
頭の上から聞こえてきた声で、状況を察した。
どうやら男の人を下敷きにしているらしい。立ち上がろうと手をつき身体を持ち上げようとするが、思うように力が入らない。
掌に少し痛みがあったから、擦りむいているのかもしれない。
転落しなかったことにほっとしながらも、どうにもならない自分の身体。私はやむを得ず抱き付いてしまっている恥ずかしさで、すみませんと発した声は、今にも消え入りそうだった。
「大丈夫?起こしますね。」
私は、大きく頷く。
「あの…」
私は困惑して「あの…」再度同じ言葉を発する。
私は彼の膝の上に座らされ、先ほどよりも密着度が高く、抱きしめられている状態だ。直に相手の心臓の音が聞こえる体勢に、見た目に反して意外とがっちりとしているなと感じるほど、しっかりと収まっている。
手で押し返そうと試みるが、彼の手が優しく私の手を払うのだ。
先ほどまでの恐怖とは違った恐怖心が沸き起こった。
抗議の声を発しようと息を吸ったところで、全身の力が抜けた―――
「ロキ、どこいくの?行かないで。一人にしないで。」
久しぶりに見たロキの夢は、あの子の最後の瞬間。
私を守って亡くなった彼(犬)。
ふと、顔を触られていることに気づき、目を開けた。
目の前にはきれいな男の人がいて、流れていた涙を拭きとってくれている。
天使だろうか。
「もう一人にしないよ」よく見ようと目を細める。
私の瞼はこの人に伏せられ、再び夢の世界へ落ちていった。




