勝手に結婚報告
彼女sideに戻ります
このままでは取り返しがつかないことになる。
そう思って決心したのに
いつの間にかこんなところまで着いて来てしまった。
また、多くの女性がロビーに集まっているという。
2度目ということもあり、気を利かせた警備班が内線電話で私を呼んでくれた。
私の存在が警備班に知られていたことに驚きだ。
もしかしてこのビル内では有名なブラックリスト入り?はぁ・・・ため息しか出てこない。
電話を切り、エレベーターに飛び乗ってロビーへ向かう。
ロイさんの周囲には人の壁はできていたが、前回よりもかなり規模が小さくてほっとした。
警備員さんの努力の賜だ。
エントランスを指さしてそこから移動するよう促し、私が一足先に外にでようと歩みを進めると、すぐに手が繋がれた。
驚いて横をみると予想に違わずロイさんの笑顔が思いのほか近い。近すぎる。
「ロイさん。連絡してって言ったじゃないですか」
「電話に出てくれなかったので」そうだった。鞄の中に入れっぱなしだ。
「それでも、連絡つくまで待っていてください」
「ごめん。今回は急いでいたから。移動するね」
抱きしめられた次の瞬間、視界がぐにゃりと曲がり、何回転もさせられた後みたいな感覚だ。
「ついたよ。気分どう?」
「ぐるぐるして気持ちが悪い…」
「もう少し我慢して。サク!」
口元にマグカップを近づけられ飲むよう促される。一口、二口飲むとひどい酔いに似た感覚が収まってくる。きつい匂いに頭がクリアになり、そこではじめて周りを見渡した。
あれ?ここはどこ?
「ここは?」
知識のない私が見ても品の良い高級そうな装飾が天井や壁に施され、落ち着いたアンティーク調のソファやテーブルなどの家具が並んでいる。
「僕の家」満面の笑顔で答えられた。私の顔は引きつっていく。
「ロイ…」
声の元をたどれば、遠くにこの世のものとは思えないほどの美形なお二人が、私たちを見ている。
抱き留められたままだったことを思い出し、力を入れ、離してもらおうと抗う。
それでも、離さない彼に「ロイさん」とにらんだ。
ん?なんて言って、私に触れ、抱き上げようとするものだから、本格的に声をあげようかと思っていたら、咳払いが聞こえてきた。
私は恐る恐る目線をそちらに向けた。
女の人は大きな目をこれでもかと見開き、男の人はあからさまに目をそらしている。
「ロイ様。そろそろご紹介なさっては?」私の心を代弁してくれた。
「あぁ。ここ僕の自宅で、あちらは父と母。そしてこいつはサクって言って僕の監視役?」
確かにロイさんは両親のすべてを受け継いだのだろう。
その点、サクさんはイケメンなのだけれど、圧倒的な存在感がなくて安心する。
「…はじめまして。エリンと言います」
自分が置かれている状況を理解するのにかなりの時間を要したが、何とか挨拶することできた。
こんな状況でも社会人のいろはを忘れてはいけない。
だが、お二人からは何の返事もない。
「…陛下。」見かねたのかサクさんが助け船をだしてくれた。
「あぁ。先ほど結婚のことを聞いて驚いてしまってね。少しお茶を飲みながらお話しようじゃないか。
ロイ、準備ができたら呼ぶから連れておいで。」
「はい。かしこまりました。」
動揺している間にお父様とお母様は出ていかれた。
その時、サクさんが小さな声で逃げたなと呟かれたのを私は聞き逃さなかった。
「では、エリン様。少しだけお時間をいただき、ロイ殿下がご説明されていないかとご察しいたしましたので、僭越ながら私からお話させていただきます。殿下、どうぞこちらにお座りください。エリン様は膝の上に乗せられたらよろしいかと。」
その言葉に違わずロイさんはソファに、私はロイさんの膝の上に座らされた。
「ここは、エスタリン国の宮殿です。お気づきかもしれませんが、先ほどの方は国王様と王妃様でございます。」
「え?ということは、ロイさんは王子様??」
「そうなります。結婚についてはロイ様からお聞きください。では、準備が整いましたらお呼びいたします。」そういうなり、サクさんは出て行った。
「え?結婚??」
2人きりでどうしろと??