ただひとつの願い
ずっと探していた。
この世界の大きさに気が遠くなるほど。
ここにいない。
ここにもいない。
どこにもいない。
探し出す覚悟も、探し出す自信だってあったのに。
すでに心のどこかではあきらめかけていた。
休日出勤が続き、しばらくぶりに取れた休みに、同僚のリサとともに街へ出た。
大通りを歩きながら気になるお店に入ったり、昨日見たドラマの話とか他愛無い話をしたりと、変わらぬ休日を過ごしていた。
「そこのお姉さん、ちょっと占ってみない?」
そうはっきりと聞こえてきた声の元をたどれば、私の首は自然と傾いた。
かなり離れた場所にいる私まではっきりと聞こえてくるのに、誰ひとり、この声に反応していない。
「おかしい…」
「ん?」
「リサ、あれ」指をさすのは躊躇われたから、目配せをしたのに、リサの視線は定まらない。
だから、「ほら、ベンチに座った黒ずくめの人。すごく怪しいでしょ。」と補足してもリサの目には何も映さなかった。
「そこのお姉さん、ちょっと占ってみない?」
抑揚のない淡々としたフレーズが何度も聞こえてくるのに、リサも、周りの誰もが気にも留めない。
まるで存在していないかのようだ。
私は、リサの話に頷きながらも、少しずつ明らかになる全容に、怪しさに加え恐怖も抱き始めていた。
年季が入った黒のローブに、深くかぶったフードが顔の一切を隠す。
子どもが好んでつけるようなプラスチックのネックレスやブレスレットをじゃらじゃらと身に着けた姿が何とも滑稽で、気を抜けば止まりそうになる足を必死に動かした。
「そこのお姉さん、ちょっと占ってみない?」
この人との距離が数メートルまで縮まったとき、鮮やかな紫色の目が私の目をとらえた。
え??
私の歩みは確実に止まり、あまりにも強烈な視線が私から離れない。
なに?この視線から逃れられない…。
どのくらい経ったのだろうか。
私の一瞬の瞬きの間にその瞳は再びフードに覆い隠され、ついでにとばかりに私の足はすごい速度で通り過ぎていた。
「見つけた」
かすかに聞こえてきた声に、私は立ち止まり後ろを振り返えれば、突風が吹き抜ける。
慌ててスカートを押されている間に、占い師の姿は忽然と消えていた。
先ほどよりも大きく首を傾けながら、少し先で私を呼ぶリサに駆け寄った。
*******
「見つけた。」
知らず笑みがこぼれ、
季節はずれに舞う花々が、歩道を埋める。
雨なんて降りそうもない雲一つない青空に、幾重の大きな虹が空を覆った。
この珍事は異常気象として大々的にニュースに取り上げられた。
これに気づかないのは当事者だけ。