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現実でした



「彼がセレスティーアの婚約者だ」


朝から侍女に丁寧に磨き上げられ、室内用のドレスではなくもっと良質なドレスを着せられたので何かあるのかもしれないとは思っていたけれど、まさか婚約者の顔合わせだったとは……。


「フロイド・アームルです」

「セレスティーア・ロティシュと申します」


しかも、よりにもよってフロイド・アームル様。


父の対面に座っているアームル侯爵様とフロイド様に向かってカーテシーをする。

「とても綺麗なカーテシーだ」と褒めてくださった侯爵様に、喜々として娘自慢をするお父様に呆れながらもソファーに座り、対面に居るフロイド様をそっと観察した。


(歳は同じくらいだろうか……?可愛らしい容姿は男らしい侯爵様よりお母様似なのかもしれない。婚約することに不満はなさそうだけれど……)


貴族の婚約は双方の家柄と領地に齎す利益によって決まると教わっている。

一度結ばれた婚約が破棄されることは稀で、家が潰れるか相手が亡くなった場合にのみ適応されるらしい。


先日ミラベルが言っていたことを思い出し、まだ話し続けているお父様を窺った。


予言なんてものは信じていないが、ミラベルが言っていた通り私の婚約者はフロイド様になった。

お父様と義母が話していたのを偶然聞いてしまったのだろうか?とも思ったが、仮にも伯爵家当主が人払いもせず娘の婚約者のことを話すとは思えない。

でも、だとしたらミラベルはどうやって情報を得たのだろうか?

まだ五歳のミラベルに直接話すわけもないし……。


「もうすぐお誕生日ですね」

「……はい」


笑顔を保ちながら悶々としていたからフロイド様に話しかけられビクッとしてしまった。


「婚約披露はセレスティーアの誕生日パーティーで行うみたいですよ」

「……そうですか」

「セレスティーアの瞳は赤なので、真っ赤な薔薇を持っていきますね」

「はい」


フロイド様が一生懸命話しかけてくれたのにそれどころではなかった私は曖昧な返事しか返せなかった。


そして迎えた七歳の誕生日パーティー。

婚約披露を終えた私は真っ赤な薔薇のブーケを手にしたまま一人立っていた。

広間の中央では婚約者であるはずのフロイド様と義妹が仲良く踊っている。


……何が起きたのだろうか?


フロイド様とファーストダンスを踊ったあと、ミラベルが「将来のお兄様と踊ってみたい」と頬を染めながら頼み、フロイド様は二つ返事でそれを承諾してしまった。


婚約者の義妹とはいえ異性であることには変わらない。

常識的に考えれば婚約したその日に婚約者以外と踊るなんて眉を顰められるような行為だ。


それなのに、お父様も義母も招待客も、踊っている二人を微笑ましく見守っている。


「ミラベルに……恋をした、とか……?」


まさか……と否定してみるが、踊り終えたフロイド様は私のことなど忘れたかのようにミラベルとその場から離れ、給仕に飲み物を頼み二人で談笑を始めてしまった


「確か、ミラベルが癒して、支える……?」


唖然とする私に気づいたミラベルは、得意気に笑みを浮かべて見せた。




婚約披露から数か月後。

ミラベルをお茶に誘いそれとなく会話の中で私に起こる未来を探った結果、とんでもない言葉が沢山飛び出し頭を抱えることになってしまった……。


『お姉様が学園に通っている間に、お父様は私をとても溺愛するようになるの』

『お姉様は学園で取り巻きを沢山引き連れて、まるで女王様のように振舞うの。王太子や一年後に入学してくる第二王子に纏わりついて周囲から嫌われてしまうわね』

『あとはー、フロイドと仲の良い私を虐めたりするのよ』

『学園の卒業パーティーでは、断罪イベントが……あ、婚約破棄のことね』

『王族からも睨まれちゃったからお父様はお姉様を修道院に行かせるわ』


一つ一つ見て来たかのように事細かに語るミラベルが怖くて仕方なかった。

そのどれもが妄想ではなくこれから起こることなのだと言われ、前のときのように軽々しく相槌を打つことも、妄想だと聞き流すことも出来ない。


だって、度々我が家に訪れるフロイド様は、私ではなくミラベルに会いに来ているようにしか見えないのだから。


――にっこり微笑みながら私の恐ろしい未来を語る義妹が、悪魔に見えた。






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