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転機


伯爵家の一人娘として生を受けたセレスティーア・ロティシュは、両親にとても愛されて育った。

子供特有の我儘は多々あったが、貴族の令嬢として恥ずかしくないよう最低限自身を磨き、将来の夫や子との幸せな生活を夢見ていた何処にでも居る平凡な少女。


その平凡な少女に転機が訪れたのは母親が病で亡くなった翌年、父親が後妻とその娘を屋敷に連れて来た日だった。


おっとりした義母と可愛らしい義妹は、父親の親友であった男爵家当主の妻子であったが、新興貴族だったので世襲ではなく爵位が子に相続されない一代貴族とされていたらしい。


疚しい事は何もない。ただ当主が亡くなり途方に暮れていた二人を引き取っただけ。

それに、まだ幼いセレスティーアの代わりに当主が留守の間家を取り仕切る女主人が必要。


同情なのか、都合が良かったのかはわからないが、セレスティーアからしてみれば母親が亡くなったばかりだったこともあり内心大荒れだった。


けれど、義母はとても優しくセレスティーアの母親代わりになろうと精一杯努力してくれた。

だからこそ彼女と打ち解けるのは早かった。


転機となる元凶は、義妹だった。


セレスティーアの一つ年下の義妹ミラベルは、義母の背中に隠れながら恥ずかしそうにはにかんで笑う大人しい少女だった。

ソッと物陰からセレスティーアを窺う姿は小動物のようで、話かければ真っ赤になって下を向く姿は庇護欲がそそられ、姉としてこの愛らしい義妹を大切にしようと決めた数週間後。


『今のうちにセレスティーアには言っておくわ。私はこの世界のヒロインなの。皆に愛されて、最後は王子様とハッピーエンドになるんだから!』


仲良くなりたいからと初めて二人だけにしてもらった午後のお茶の時間にミラベルは態度を豹変させた。


何が起きたのかと周囲を見渡したあと視線を戻せば、腰に両手を当てツンと顎を反らしているミラベルが……。

その姿が大人ぶっている子供のようで余計に可愛らしく、少し離れて控えて居る侍女達も口元を押さえ震えていた。


随分と夢見がちな少女なのだと微笑ましく見ていたら、ミラベルは激しく癇癪を起した。

テーブルをバンバン叩き、ティーカップは音を立てて割れ、お菓子は振動で飛び跳ねている。


「……まぁ」


それ以外何と言えば良いのか。

厳しくマナーを躾けられてきたセレスティーアは驚いて思考が停止してしまった。


「なによ、その顔!私は、お、お姉様……なんかよりもずっと偉い立場になるんだから!」


お姉様と呼んだときだけ少し小声でモジモジしていたけれど、やはりご立腹なのかミラベルは再びテーブルを叩きだしてしまった。


「王族になるのだって夢じゃないんだから!って、頷かないでよ!信じてないわね!?」


このくらいの年頃の少女は、皆一度は王子様との結婚を夢見るものだ。

友人達も茶会で頬を染めながら同じようなことを言っていたので頷いたのだけれど、気に入らなかったらしい。


「その顔が気に入らないわ!って、怖いわよ!」

「あら……」


顔が気に入らないと言われたので表情を消せば、それも駄目だと言う。


(どうしろと言うのだろう……)


ミラベルとの対話を諦めた私は、離れている侍女を呼ぼうと手を上げたのだが、正面から身を乗り出したミラベルに手を掴まれ阻止されてしまった。


困惑する私に至近距離でニヤッと笑ったミラベルは。


「信じないなら、これからお姉様に起きる事を予言してあげるわ」


そう口にした。




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