第39話 とても暑い夏の日
「ほんま、あっついわあ」
ダイニングで食事をしながら真澄がぼやく。
「だね。蒸されそう……」
僕も同意する。時は8月上旬。大学も夏休みに入っていて、夏真っ盛りだ。今日の最高気温は37℃らしい。そして、2DKの我が家は、部屋にはエアコンがあるものの、食事を摂るダイニングにはそのようなものはないので、暑いのなんの。
「プールでも行く?」
ある意味夏の定番ともいえる。
「でも、こんだけ暑かったら、人いっぱいやろ……」
「それもそうだね。じゃあ、部屋に引き篭もる?エアコンガンガンに効かせて」
「そうしよかー」
真澄もどこか気怠げな声で応じる。さすがに暑すぎて元気がないらしい。
といわけで、今日は寝室でエアコンをガンガン効かせて引き篭もることになった。
とはいえ、何かするわけでもなく、僕は読書。真澄はスマホをいじって、何やら見ている。
「何か面白いニュースでもあった?」
「暑すぎて、熱中症の人がたくさん、ちゅうくらいかな」
「外に出なくて正解だったかもね」
僕はまだなったことがないけど、毎年のように熱中症で大勢の人が病院に運ばれたり死亡したりしている。
「夕食、なんやリクエストある?」
「重いものはちょっとつらいかも」
「せやったら、素麺にでもしよーか」
「素麺いいね。賛成」
ごろごろしながらそんなどうでもいいことを話す僕たち。
「コウは何読んどるん?」
「歴史の本」
「相変わらずやね。なんか面白い話あった?」
「昔の人がどう夏を過ごしてたかっていうのはちょっとおもしろいかな」
「たとえば?」
「かき氷って、昔の人はどうやって食べてたんだろうって思ってたんだけどね。高山から氷を引っ張ってきて、小屋に保存してたんだって。かなり高級品だったらしいよ」
「今やったら、コンビニでも買えるのに大変やったんやなあ」
「なんか、読んでたらかき氷食べたくなってきたよ」
「スーパーでも行って買ってこよか?ウチも食べたいし」
「それじゃ、一緒に行こう?」
「おっけー。じゃあ、準備したら出発なー」
なんだかお互いひたすら怠いと言った感じだけど、外が暑いのだから仕方がない。
「部屋は蒸し焼きみたいやったけど、外は直火で焼かれてるみたいや」
「言い得て妙だけど、同意するよ」
時刻は14:00を過ぎた辺り。一番暑い時期だ。さっさと日陰に入らないと死んでしまいそうなくらい。
「こういうときは日傘があってもええかもな」
「真澄に日傘か……案外似合うかも」
ちょうど彼女の服は白のワンピースだ。彼女に、日傘をさしているようなお嬢様的なイメージはないけど、意外といいかもしれない。
「コウは見てみたい?」
「ちょっと見てみたいかも」
「それやったら、また今度な」
「了解」
そんなこんなで10分程歩いて近くのスーパーに到着。さっきまで身体中が熱せられていたけど、急に涼しくなる。寒いくらいだ。
「外に比べたら、ほんま天国やなあ」
「とりあえず、アイスのコーナー行こっか」
スーパーの地下には、生鮮食料品とともにアイスのコーナーもある。たしか、かき氷も売っていたはず。
「ああ、あった。あった」
いちご練乳味、みかん味、などなど様々なかき氷、正確にはかき氷のようなアイス化、が並んでいた。
「でも、これをかき氷言うんはなんや違う気がするわ」
「言われればそうなんだけどね。かき氷機でも買う?」
「それもええな。後で注文せえへん?」
「おっけー。それで、真澄は何選ぶ?」
アイスコーナーに並んでいるかき氷はそこまで種類が多くない。
「それやったら、ウチはいちご練乳味のやつで」
「定番だね」
「練乳の味がいいんよ。コウは?」
「僕は……みかんかな」
特別好きなわけじゃないけど。
そして、買うものを買った僕らだけど、出る前に日傘が置いてあるのを見つけたのだった。
「日傘、買おうよ」
「ええけど、今日しか使わへんのちゃう?」
「真澄が日傘差してるところも見たいし」
今度と言っていたけど、今日見られるなら見てみたい。というわけで、日傘を二つ購入して家路についたのだけど。
「うんうん。よく似合ってるよ、真澄」
ワンピースに白い肌に日傘はなんだか、普段真澄に感じられない雰囲気があって、凄くいい。
「あ、あんがとさん。ウチみたいな女には似合わないと思ったんやけどな」
少し照れる真澄がかわいい。
「なんで?似合うと思うけど」
「そういうんって、もっと物静かで、体の線が細い子やから似合うんとちゃう?」
言われてみて、たしかに日傘が似合う女性というとそんな気はする。でも、
「僕にとっては似合ってるから。それでいいんじゃない?」
「も、もう。コウも褒め言葉が板についてきよったな」
「結婚して、もうすぐ5ヶ月だし」
「もうそんなに経っとったんやね。ついこないだな気がするわ」
「僕もそんな気がするけどね」
「時間が経つんは早いもんやね」
そんな会話を交わしながら、僕らは家に帰ったのだった。
そして、少し暑いダイニングの中でかき氷をぱくぱくと食べる僕たち。
「んー。暑い中のかき氷は最高やなー」
「同感。暑いのは嫌だけど、こういう時は感謝かな」
でもまあ、やっぱり暑すぎると思うんだけど。
「あ、そや!」
何か思いついたというように声を上げる真澄。
「どうしたの?」
「今日はせっかくやし、水風呂に入ってみいひん?」
「いいね。ちょっと面白そう」
というわけで、早速、浴槽に水をいっぱいに貯めて、二人で浸かったのだった。
「あー、これ、結構ええかも」
「うんうん。慣れたらありかもね」
そんな事をしゃべりながら、しばらくのんびりと過ごし。
そして、再び寝室でごろごろすることになったのだった。気がつけばもう夕方だ。
「なんや、せっかくの夏休みなのに無駄にした気ぃするわ」
ごろごろしながらため息をつく真澄。
「まあまあ。たまには、こういうのもいいんじゃない?それに……」
「それに?」
「こういう風に何もせず二人で過ごすのも夫婦してるって感じしない?」
「コウはまた恥ずかしいことを……。でも、そうやね。そうかもしれへん」
僕の言葉に、彼女はそう言ってくすりと笑ったのだった。




