6番 宇田 皐月
宇田 皐月:バイト命の帰宅部。マヨラー。
彼女にとって日曜日は稼ぎどき、今日も朝からバイトである。アルバイトをしてお金を貯めてどうするのか、とよく聞かれるが、これといって使い道は考えておらず、気が向いたときにパーっと使ってさっぱりする。おかげで貯金はたいしてないのだが、自分で稼いだお金だ、どう使おうが勝手ではないか、と思っている。
「いらっしゃいませー!」
バイト先は駅前にある、個人経営のレストランだ。学業に支障が出ることを懸念した両親が、父の知人が経営するこのレストランでなら許す、と条件をつけたためだ。時給は少々安いが、学校行事やテスト期間に配慮してくれるのでありがたい。有名なファーストフード店でバイトしている友人は「ろくに休みをくれない」とぼやいている子もいるので、いいバイト先に恵まれたと思っている。
「光一さん、ランチ二つ、食後のコーヒー付きで!」
「あいよ」
そして何よりも、店長のお孫さんと出会えたことが最高にラッキーだ。
近くにある大学に通うなかなかのイケメンで、学生とは思えぬ料理の腕前である。将来的には喫茶店を継ぐことも考えている、なんて言っていたから、きっと独学で勉強しているのだろう。
ちなみに、現在付き合っている恋人も好きな女性もいないことは確認済、この出会いを無駄にしてなるものか、と学業に支障がない限り、彼女はできるだけシフトに入るようにしていた。
「はー、今日は多かったねー」
ランチタイムが終わり、ようやく一息ついたところで彼女も休憩に入る。エプロンを外してカウンターの一番端に座り、光一が鮮やかな手つきで賄いを作る姿に見入ること十分少々。
「はい、賄いどうぞ」
「うっは、すごい!」
彼女のリクエストに答えて光一が作ったのはオムライス。これに限っては店長をも凌ぐ腕前で、光一が厨房に入るときは必ずこれをリクエストしていた。
「うーん、おいしい♪ 光一さん、また腕を上げた?」
「いつもおいしい、て言ってくれる可愛い女の子がいるからね、研鑽は怠らないよ」
え、可愛い? 可愛いって言ってくれた? うっひゃー、照れちゃうけど嬉しいなあ、と心の中で「ダンシング・ヒーロー」を歌い踊りながら、彼女はオムライスをペロリと平らげた。
「ところで、皐月ちゃん」
「ん、なんすか?」
食後のコーヒーを飲んでいると、光一が改まった口調で話しかけてきた。
「来週の日曜、時間あるかな?」
「来週? 夕方のバイトの人、またお休み?」
日曜日は朝から入る分、ランチタイムまでで終わりというのが彼女のシフトだ。夕方は店長の知り合いの女性が入るのだが、この人がよく休むので、結果として一日バイト、というのが多かった。
「いや、そうじゃなくて……」
光一がなぜか言いにくそうにしている。シフトの話でなければ何だろう、と彼女が首を傾げていると、光一がパンッ、と頬を叩いて気合を入れた。
「うわ、びっくりした。どうしたの?」
「あのさ、皐月ちゃん……一緒に、映画に行かないか?」
「……はい?」
「アメコミ系の映画なんだけどさ。よかったら……その、皐月ちゃんと、一緒に行きたいな、て思って」
はい? はい? はいぃぃぃ?
光一の言葉に驚きすぎて、彼女の頭が真っ白になる。
どうやら、彼女の恋物語が始まるようである。