32番 山岡 輔
山岡 輔:図書委員。
サバイバルゲーム。
日本発祥と言われるこのゲームは、今や世界中で愛好者が増えていた。銃で敵を撃ち、生き残った者が勝ちという、要するに戦争ごっこゲームであり、愛好者の多くは男性であった。
彼、山岡輔も、そんな愛好者の一人だ。
「おっと」
午前三時、アラームが鳴ると同時に彼は飛び起きた。場所は某山の中。十一月下旬ともなればこの時間に山の中はとても寒い。急いで湯を沸かしてコーヒーを入れ、体を温めると同時に目を覚まさせた。
今回のゲームは、少し変わったルールで行われる。
ゲーム開始は午前四時。くじ引きで決められた場所から山頂へ行き、そこにあるフラッグを手に入れて麓の小屋へ持っていけば勝利。ここで注意すべきなのは、最初に手に入れた者が勝者ではなく、最後に小屋へ持って入った者が勝者となることだ。
つまり、フラッグを取りに行くもよし、誰かに取りに行かせて横取りするもよし、のバトルロワイヤルである。しかも夜戦。ルート上に主催者が取り付けたランタンと月の明かりだけが頼りの、ガチの上級者向けゲームだった。
午前四時、パン、という合図の花火がなり、ゲームが始まった。
彼の作戦は先手必勝。待ち伏せなど性に合わない。真っ先にフラッグを手に入れ、全速力で山を駆け下りる。若さゆえの過ちと隣り合わせの、超攻撃的積極戦法だ。
「そこか!」
タタタタタッ、と彼の愛銃がBB弾を放つ。今回は十七歳の彼が参加するということもあり、参加者全員が十歳以上用の銃で統一している。それゆえにいつもと勝手が違う大人たちが出るだろう。
そこが狙い目だ。
「そいやっ!」
狙撃音から他の参加者の位置を予測、彼は横っとびに距離をとった。数秒後に数メートル前の地面にBB弾が着弾する。
そう、十歳以上用の銃はパワーが抑えられている。ゆえに、慣れた位置と感覚では弾が届かない。だがこちらはそれに慣れた身だ、みんなが慣れる前なら、先手を取れる。
「うしっ!」
電撃戦で一気に頂上へ登り、無事フラッグを奪取。後は山道を駆け下りるのみ。
「そいやっ!」
しかし馬鹿正直にルート降れば待ち伏せの餌食。彼は右へ、左へと不規則な軌道を描きつつ駆け降りた後、あらかじめ目星をつけておいた茂みに飛び込んだ。
ここでサブマシンガンは捨て、ハンドガンに持ち変える。
大人に混じってサバゲーを楽しむ彼が、銃の威力を補うために身につけた技。闇に潜み、音もなく駆け抜けて背後から一撃の、名づけて暗殺者スキル。
これで一気に麓まで駆け下りれば、勝利は間違いない。
「……と、考えると思っていたよ」
ふうっ、と耳に息を吹きかけられ、彼の背中にゾワリと悪寒が走った。
それと同時に、脇腹に感じるBB弾で打たれた感触。
「はい、残念」
しまった、と思った時にはもう遅かった。参加者の一人、「無音のサバイバー」の異名をとる榊京子。何を隠そう、彼にアサシン・スキルを伝授してくれた師匠のような人である。
「フラッグ、いっただきー」
鮮やかな手つきで腰に差していたフラッグを強奪され、「それじゃね」とウィンクととも彼女は去って行った。
「……ちくしょう」
闇に消えた彼女を見送りながら、彼はふてくされた。毎度毎度これである。一体いつになったらあの人に勝てるのやら。
「ま、いいか」
彼は、息を吹きかけられた時に抱き締められた感触を思い出した。趣味も性格も少々……いや、かなり難ありな人だけど、小柄な体はやっぱり女性のそれだった。
しかも、なかなかいい匂いがした。それを思い出した彼は、クラスメイトには決して見せられない、少々情けない顔になった。
「しゃーない、あの感触が景品だと思うことにしよう」
彼が気を取り直して立ち上がった時、ゲーム終了を告げる合図が鳴った。彼がフラッグを奪われてからさほど経っていない。きっとあのまま彼女が勝ったのだろう。
「さーてと。朝飯の豚汁でも食べに行くか」
全力で遊んだ後はお腹が減る。「よし、京子さんの分も食べてやろう」と鼻歌を歌いつつ、彼は明るくなり始めた山を軽い足取りで降りて行った。




