30番 三浦 兼五郎
三浦 兼五郎:美術部員。書道部の武久由美とは幼馴染で芸術家仲間。
十一月も半ば、毎年この時期になると彼は一気に多忙となる。
「うーむ、次はどうするか……」
書店で買った「年賀状デザイン」の本を眺めながら彼はうなった。もちろんこれはあくまで「参考」のために買ったのであり、彼自身が使うつもりはない。
なにせ彼は美術部員。
年賀状デザインは、毎年彼のオリジナルだ。
いくつものコンクールで入選してきた彼にとって、年賀状は絶好の「修行の場」である。中学時代はクラスメイト一人一人に違う絵柄で描いて出したこともあった。さすがにあれは大変すぎるのでやめたが、今年は「クラス用」「部活用」「その他友人用」「親戚用」の四種類をデザインすることにした。
「部活用」「その他友人用」「親戚用」はすでにデザインを完了している。
残すは「クラス用」のみ。これが難しい。なにせ今年は新たな試みとして、クラス全員の似顔絵を描こうと決めたからだ。
「似顔絵と一言を添えるスペースを確保しつつ、なおかつ干支を意識させるデザイン……うーん、難しい」
いっそ似顔絵だけにするかとも考えたが、それでは年賀状にならない気がした。やはり干支は欲しい。それから似顔絵を描いて……女子は着物姿にするか? だとしたら男子は?
試行錯誤を繰り返し、どうにか納得のいくデザインができたのは夕方だった。
「今日はここまでか」
明日は期末テストの試験発表。それが終わるまで作業は中断だ。はてさて、今年は元日配達の期限に間に合うのだろうか。
「メッセージで一斉配信、でもいいんじゃないの?」
幼馴染の武久由美にはそう言われたが、ハガキという形で届けたい、というのが彼の思いだ。デジタルツールを否定する気はないが、年に一度ぐらいはアナログがあってもいいと思っている。
「三浦くんの年賀状、てすごいよね」
「一人一人違う、てのがまたすごいよな」
中学の時、クラスのみんなにそう言われて嬉しかった。半分趣味でやっているものだが、それでも喜んでもらえるのは嬉しい。とはいえ、たとえ喜んでもらえなくても、彼はやはりオリジナルデザインの年賀状を作るだろう。
ただ描きたい。
そんな気持ちがこみ上げてくる。創作とは、そういうものだと思う。描きたくて描きたくて、気がつけば筆をとっているから描いている、ただそれだけだ。
でも、できれば自分の作品で喜んでもらいたい。
「ま、欲張りはいけないか」
彼は、コンクールで入選するのと、描いた絵を受け取って喜んでもらえるのとは、別物だと考えている。その両方を叶えられるのは、ほんの一握りの本物の実力者だけ。
自分がそこに届くかどうかはわからない。
だけど、今はただ、描き続けたい。
「ごはんよー」
一階から母が呼ぶ声が聞こえた。
「すぐいくー」
さあ、まずは期末テスト。それが終わったら一気に仕上げてしまおう。
彼は置いた絵筆を片付け、「うんっ」と背伸びをしてから部屋を出て行った。




