27番 平山 優香
平山 優香:お料理大好き。マヨラー。
クラスのグループに投稿された写真を見て、彼女は「ぐぬぬ」とうなった。
「やりおるわ、片岡」
一口大にそろえられた色とりどりのおかず、子供達に大人気のキャラクターを描いたちらし寿司、一緒に食べる保護者に配慮した大人向けの味付けまで用意する周到さ。
「あら、すごい」
悔しさに身を震わせている彼女を不思議に思ったのだろう、母が横からスマホをのぞき込んで感嘆の声を上げた。プロの料理人である彼女の母から見てもすごいらしい。
「食べる人への配慮が見えるわね。優香、あなたに足りないものよ」
常々母に言われていることをまた言われ、彼女はますます「ぐぬぬ」となった。
彼女は、料理が好きだ。できることなら世界中にある料理を作れるようになりたいと思っている。その探究心は大したものだ、と褒められるが、探究心のあまり「これは誰が食べるのか」という料理を作ってしまうことがあり、食材を無駄にすることしばしばである。
そういえば、と彼女は思い出す。
昨日、レスキュー隊としてクラスメイトの家に行った時、彼は参加する子供にアレルギー持ちはいないか、と確認していた。
とても大事なことなのに、作ることを優先する彼女だったら聞き忘れていたかもしれない。しかも彼は一緒に来る保護者向けに味付けを変えることまでしている。
もし自分がこの料理を引き受けていたら、ここまでの配慮をしただろうか。
「……完敗っす」
料理ではクラスナンバーワンを自負していたが、ご家庭で喜ばれるお料理に関してはおそらく彼が上。思わぬところから現れた、強力なライバルだった。
ついでに言うと、これはすべて「困っている恋人のため」の料理でもある。
その点でも完敗……ちょっと彼女がうらやましい。
「母さん、私、この人に勝ちたい」
「料理は勝ち負けじゃないけれどねえ」
しかしプロになるのであれば、競い合う気持ちも大切だ。その気持ちがなければ、向上心のない料理人になってしまう。
「でもまあ、そういうのなら、一つ方法はあるわ」
「なに?」
「今日から毎日の料理は、あなたがするの」
一日三食、三百六十五日。家族のために献立を考え作り続ける。季節を考え、家族の体調を考え、毎月の予算内でやりくりする。料理の基本は全てここにある、と彼女の母は考えていた。
「あなた、自分が作りたいばかりだもの。まずはそれが第一歩」
「うえぇ、でも、学校とかあるし……」
「それを作った子は、やってのけてるんでしょ?」
母の指摘に、彼女は絶句した。
「いいの? ますます差がつくわよ?」
「あーもー、わかった。やる! やります!」
しめしめ、と彼女の母はほくそ笑む。
これで面倒な毎日の食事の料理をしなくて済む。決まったメニューのあるレストランと違い、毎日の食事というのは本当にめんどくさいのだ。
彼をダシにして、ゆくゆくは家事一切を任せてしまおう。
母がそんなことを企んでいるとはつゆ知らず、彼女は「妥当、片岡!」と叫びつつ、まずは今日の夕食から献立を考え始めた。




