表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

27番 平山 優香

平山(ひらやま) 優香(ゆうか):お料理大好き。マヨラー。

 クラスのグループに投稿された写真を見て、彼女は「ぐぬぬ」とうなった。


 「やりおるわ、片岡」


 一口大にそろえられた色とりどりのおかず、子供達に大人気のキャラクターを描いたちらし寿司、一緒に食べる保護者に配慮した大人向けの味付けまで用意する周到さ。


 「あら、すごい」


 悔しさに身を震わせている彼女を不思議に思ったのだろう、母が横からスマホをのぞき込んで感嘆の声を上げた。プロの料理人である彼女の母から見てもすごいらしい。


 「食べる人への配慮が見えるわね。優香、あなたに足りないものよ」


 常々母に言われていることをまた言われ、彼女はますます「ぐぬぬ」となった。

 彼女は、料理が好きだ。できることなら世界中にある料理を作れるようになりたいと思っている。その探究心は大したものだ、と褒められるが、探究心のあまり「これは誰が食べるのか」という料理を作ってしまうことがあり、食材を無駄にすることしばしばである。


 そういえば、と彼女は思い出す。


 昨日、レスキュー隊としてクラスメイトの家に行った時、彼は参加する子供にアレルギー持ちはいないか、と確認していた。

 とても大事なことなのに、作ることを優先する彼女だったら聞き忘れていたかもしれない。しかも彼は一緒に来る保護者向けに味付けを変えることまでしている。

 もし自分がこの料理を引き受けていたら、ここまでの配慮をしただろうか。


 「……完敗っす」


 料理ではクラスナンバーワンを自負していたが、ご家庭で喜ばれるお料理に関してはおそらく彼が上。思わぬところから現れた、強力なライバルだった。

 ついでに言うと、これはすべて「困っている恋人のため」の料理でもある。

 その点でも完敗……ちょっと彼女がうらやましい。


 「母さん、私、この人に勝ちたい」

 「料理は勝ち負けじゃないけれどねえ」


 しかしプロになるのであれば、競い合う気持ちも大切だ。その気持ちがなければ、向上心のない料理人になってしまう。


 「でもまあ、そういうのなら、一つ方法はあるわ」

 「なに?」

 「今日から毎日の料理は、あなたがするの」


 一日三食、三百六十五日。家族のために献立を考え作り続ける。季節を考え、家族の体調を考え、毎月の予算内でやりくりする。料理の基本は全てここにある、と彼女の母は考えていた。


 「あなた、自分が作りたいばかりだもの。まずはそれが第一歩」

 「うえぇ、でも、学校とかあるし……」

 「それを作った子は、やってのけてるんでしょ?」


 母の指摘に、彼女は絶句した。


 「いいの? ますます差がつくわよ?」

 「あーもー、わかった。やる! やります!」


 しめしめ、と彼女の母はほくそ笑む。

 これで面倒な毎日の食事の料理をしなくて済む。決まったメニューのあるレストランと違い、毎日の食事というのは本当にめんどくさいのだ。


 彼をダシにして、ゆくゆくは家事一切を任せてしまおう。


 母がそんなことを企んでいるとはつゆ知らず、彼女は「妥当、片岡!」と叫びつつ、まずは今日の夕食から献立を考え始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] > 「やりおるわ、片岡」 全力で同意。こんな彼氏がほしいです(ちが)。片岡くんのように頑張れる人でありたいです(正解)。 >探究心のあまり「これは誰が食べるのか」という料理を作ってしま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ