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26番 坂藤 海斗

坂藤(ばんどう) 海斗(かいと):演劇部。文化祭でクラスの出し物「コッペリア」の演出を担当。

 「坂藤……」


 日曜午後、演劇部の部室。近所の保育園で行われるクリスマス公演に関する打ち合わせを終えたのち、届いたメッセージを見ながらニヤニヤしていたら、背後から声をかけられた。


 「……あんたロリコンだったの?」


 心の底から滲み出る嫌悪感。そんな声音で尋ねられ、彼はハッとなって振り向いた。

 一学年上の三年生、菊池奈々。我が演劇部の先代部長にして、彼が秘かに憧れている先輩である。


 「い、いやいやっ! なんでそんな濡れ衣を!?」

 「だってさあ……さっきからその写真見て、ニヤニヤ笑ってるし……」


 彼が手にしているスマホには、幼稚園児と思しき可愛い女の子が、満面の笑みを浮かべている写真が映されていた。


 「こ、これは、そういうんじゃなくて!」

 「まあ、確かにスッゴク可愛い子だけど……」

 「ああもう聞いてくださいよ!」


 心なしかいつもより距離が遠い先輩に、彼は昨日の出来事をかいつまんで話した。


 「あー、なるほど、クラスメイトの妹のお誕生会ね。あーびっくりした」

 「……そんな誤解をされることの方がびっくりっすよ」

 「だってニヤニヤ笑って気持ち悪いし」


 そんなにニヤけていたのか、と彼は頬をつまんで顔を引き締めた。効果があるかどうかはさておき、気持ちの切り替えには十分役に立つ。


 「じゃ、ニヤニヤしてたのは、おねーちゃんの方を見てかな?」

 「違います」

 「じゃ、何考えてたの?」

 「いや、お誕生会をテーマに、シナリオが書けそうだなあ、と思って」


 彼に自覚はないのだが、ストーリーを考えている時にニヤニヤする癖があるらしい。そのことを教えてくれたのは目の前にいる小悪魔的先輩のはず。

 さてはわかっててからかわれたか、と思いつつ、まあいいかと考えていたストーリーを話す。


 「どこか疎遠だった母違いの妹と、お誕生会を機に急接近。姉妹の仲直りに一役買ったクラスメイトたちに、恋人の男の子の手作り料理……」

 「ふんふん」


 彼の言葉に、先輩が目を輝かせる。


 「いいじゃんいいじゃん、いい話になりそう!」

 「でしょ?」

 「まさに高校生が演じるべき、青春物語だね」


 文化祭でクラスの出し物とした「コッペリア」は有名なバレエ作品で、陽気で明るい喜劇ではあるが、本気でやるとしたら高校生には荷が重い。

 しかし、こちらならイマドキの高校生の、等身大の青春物語。しかも主役の二人は、現役の生徒会副会長と書記である。来年春の新入生歓迎演劇会で演じたら、結構ウケるのではないだろうか。


 「いいなー、坂藤はあと一年、高校生できるんだよねぇ」


 彼が新入生歓迎演劇会のことを言うと、先輩はうらやましそうに笑った。その顔を見て、彼の心が甘く疼く。


 実は、もう一つ話を考えているんです。

 それは、憧れの先輩に告白できない男子高校生が、演劇を通して思いを伝える切ないラブストーリーで……


 「……おーい坂藤、またニヤけてるよ」


 考え込んでいたらまた声をかけられ、彼は慌てて頭を振った。


 「す、すいません」

 「そのニヤけるのなんとかしなさいね。気持ち悪がって女子の後輩が入らないかもしれないよ」


 ケラケラ笑う先輩に、彼は力のない笑みを返した。

 笑みを返しながら、彼は思う。

 女子の後輩なんて、どうでもいい。

 来年も先輩とこうして過ごすことができたら、その方が何倍もうれしいのに、と。


 「心配だなー。いっそ留年して行く末見届けようかな」

 「大歓迎です」

 「むーり。親に怒られる」


 年が明けたら、もう先輩と同じ時間を過ごすことはなくなる。

 あと一ヶ月、少しでも長く、先輩と同じ時間を過ごしたい。


 「ちょっと脚本考えてきますんで、受験勉強の息抜きに、見てもらえません?」

 「うん、いいよ。楽しみに待ってるね」


 単なる後輩としてでもいい、先輩もちょっとくらいはそう思ってくれていたらいいのに。

 そんな甘酸っぱい思いを胸に秘めたまま、彼は早速ノートを広げ、シナリオを書き始めた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おお!こっちは甘酸っぱい系年下くん×年上さん!高校の一年て大きいですもんね。後輩くんを応援したくなります。 [一言] 何度も感想送りつけてしまってますし、返信しなくていいですよ!
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