25番 林田 慎二
林田 慎二:卓球部のフォレスター三人衆。男の娘疑惑あり。
「慎ちゃん、それおいしい?」
「うん、おいしいよ。味見する?」
「うん!」
彼は食べていたアイスを一口すくい、隣に座る彼女の口に運んであげた。
ぱくり、と可愛い口が彼のスプーンをくわえ、嬉しそうに笑う。
「あ、おいしい! じゃ、私のも」
「わーい、ありがと」
キャッキャウフフとアイスの食べ比べをする彼と彼女。しかし、たまたまここに居合わせた人には、二人の女子高生が、楽しそうにアイスを食べているようにしか見えないだろう。
だが、ここではっきりさせておく。
二人のうち、一人は男である。
「慎ちゃんに付き合ってもらってよかったー」
ふんわりとしたロングヘア、水色のタートルネックのニットにフレアのロングスカートと、どこからどう見ても「かわいい」としか表現のしようがない女の子、蘭が嬉しそうに笑いながらアイスを口に入れた。
「いつでも呼んで。僕と蘭の仲じゃない」
ストレートのショートヘア、オリーブグリーンのニットワンピースにブーツと、ちょっぴり大人びてはいるが、やはり「かわいい」としか表現のしようがない男の子、つまり彼も、嬉しそうに笑いながらアイスを食べた。
この二人、中学時代の後輩、先輩の仲である。蘭が後輩で一学年下。中学時代は彼を「林田先輩」と呼んでいたが、蘭が別の高校に進学したため、思惑あって名前で呼んでもらうようにした。
「女の子限定のスイーツサービス、行かない?」
蘭からそんなメッセージが届いたのが昨日のお昼過ぎ。彼は二つ返事でOKし、こうして朝から駅前の喫茶店に繰り出してきた、というわけである。
「それにしても、慎ちゃん、気合い入れてきたねー」
「男の子、てばれたらだめだもの。お姉ちゃんの借りてきちゃった。どうかな?」
「うん、かわいいよ。男の子にしておくのもったいない!」
「ありがと」
この会話を通りがかったウエイターが耳にし、「なんだと?」と振り向いた。
「あ、お兄さん、追加いいですかぁ?」
そんなウエイターに、彼はすかさず満開の笑顔を浮かべ、甘ったるい声で呼びかけた。そのあまりの可愛さにウエイターは一瞬前に考えていたことを忘れてしまい、女の子限定メニューをなんの疑問もなく受け付けてしまった。
「さぁすが」
「うふふ」
彼は完璧に女の子の仕草で、コーヒーを手に取り一口飲む。うん、今日も絶好調、と内心で笑いながら。
「慎ちゃん、そうやってクラスの男子手玉に取ってるんでしょ?」
「人聞き悪いなあ。そんなことしてないよ」
確かに中学時代はそんな悪戯をして遊んでいたが、痛い目を見たことだし、高校では大人しくしている。特に二年生になって、あの木葉咲夜がクラスメイトになったとあってはなおさらだ。
「そお? 木田先輩と森田先輩、相変わらずみたいだけど」
彼のクラスメイト木田、森田は中学時代からの同級生。なので、蘭も二人のことはよく知っていた。
「あの二人はねえ……ちょっと特別」
「え、特別? 特別って?」
「ナイショ」
思わせぶりな口調に蘭が目を輝かせたが、彼は人差し指を口の前で立て、軽くウィンクした。
「でも、前も言ったでしょ? 僕、女の子の服とかお化粧は興味あるけど、恋愛は別」
「女の子がいいの?」
「そうだよ」
「じゃあ、どんな女の子が好きなの?」
えー、それ聞く? と彼は内心で嘆息した。どんなに突然の連絡でも予定をこじ開けて応じているの、そろそろ気づいてくれないかなあ、と頭を抱えたい気分だった。
「慎ちゃん?」
「んーん、なんでもない」
まあいいか、と彼は肩をすくめた
もう一歩、踏み込んだ関係になりたい。
だけど、今のままの関係もとても楽しい。
願わくは、蘭が僕を男として意識する前に、他の男がアタックしませんように。
「僕が好きなのはね、笑顔が可愛い、ちょっと天然な女の子だよ」
「ふーん、そうなんだあ。出会いがあるといいねー」
これで何度目の不発かな。
彼は深々とため息をつくと、冷めたコーヒーをゆっくりと飲み干した。




