15番 桜田 ジョン
桜田 ジョン:新聞部副部長。生粋の日本人。文科系イケメン。
「ジョン。ホウ・レン・ソウ、て知ってるね?」
「もちろん」
彼はくいっと眼鏡を上げ、自分を見下ろす母に対し、自信を持って答えた。
「砲撃、連撃、総攻撃、だ!」
「誰がうまいこと言え、と言ったかぁっ!」
すぱぁんっ、と小気味よいハリセンの音が響き、彼の脳天から唐竹割りの衝撃が走り抜けた。
「ビジネスでの基本中の基本、報告・連絡・相談でしょうが! あんたふざけてんのかっ!」
「まあまあ、母さん落ち着いて」
「あなた! あなたがそうだからこの子は……ああもうっ!」
父がなだめたが逆効果、ばん、と母が机を叩いた。その勢いに「おおう」と父が仰け反り、いやはやまいったな、という視線を彼に向けてきた。
いや、そんな視線を向けられても困る、と彼は思う。なにせ絶賛叱られ中なのは、彼の方なのだ。
「ジョン、あんたの仕事は勉強! その成果である試験結果は速やかに報告! 違うか!」
「ち、違わないです」
「なんなの、この中間の赤点三つ、てなんなの!」
常に成績上位であれ、有名大学へ進学しろ、なんてことは一度も言われたことがない。大学教授という身でありながら、その点はおおらかな両親である。
だが、やはり赤点三つはヤバかった。報告しなかったのはもっとヤバかった。
「しかもその理由が、アプリ作ってた? あ・ん・た・は、どうして物事の優先順位が違うの!」
「し、仕方なかったんだ!」
彼は主張した。
「俺のクラスでは日々熱い議論が繰り広げられている。その議論の採決にはいつも時間がかかっている。その採決をスムーズに行うことができれば、議論はより深まり、有意義な結論が出る。俺はそう思ったんだ!」
「やかましい!」
しかし、一言で退けられた。
「そういうことは、まずやるべきことをやってからやりなさい!」
「いいや違う! 俺は、教科書に載っていない、若者の生の主張をぶつけ合うことこそ、本当の学びだと思っている!」
彼は反論した。
「母さん。まずはこれを見てくれ!」
そしてパソコンを開き、この時のために一週間かけて密かに作っておいたプレゼン資料を立ち上げた。
「これがこれまでにクラスで行われた議論のデータだ! このように、議論そのものに比して採決に時間がかかりすぎている」
「……ほう」
「この時間を議論に費やせれば、より有意義な議論ができる。俺はそう考えた!」
「ふむ、一理あるな」
「これに対処すべく開発したのがこのアプリ。まずは基本スペックを説明したい!」
──そうして、喧々諤々の議論を始めた母と子。
好奇心旺盛で、目移りしがちで、いらんところで用意周到な、議論好き。
まさにこの母にしてこの息子あり、の似た者親子。
そんな二人を見て、彼の父はやれやれと肩をすくめ、お茶受けのどらやきを口に運ぶのだった。




