11番 河合 杏里
河合 杏里:ゲーム大好き帰宅部。マヨラー。
愛する『味の〇マヨネーズ』の在庫が切れた。
「こっちじゃだめなの?」
母が特売で買ったキュー〇ーマヨネーズを指差したが、彼女は断固拒否した。別に嫌いなわけではない。あれはあれで好きである。しかしつい最近、クラス会議で味わった敗北感から立ち直りきっておらず、今はまだキュー〇ーを食べる気にはなれなかった。
そんなわけで、やや遠くにある大型スーパーへ行き、味の〇マヨネーズ全種を買いそろえた。ついでに輸入雑貨店へ行き、初めて見るクラフトマヨネーズに歓声を上げて飛びついた。
「大漁、大漁♪」
お小遣いはなくなったが、満足のいくお買い物ができた。彼女は上機嫌で戦利品をリュックに収め、意気揚々と帰途に着いた。
「あっと、そうだ」
彼女は店から出ようとして思いとどまると、エスカレーターで上階へ向かった。そこにはゲームセンターがある。ここしばらく来ていなかったので、久々にちょっと遊んで行こうと思ったのだ。
クレーンゲームやらプリクラやら、ファミリー、グループ向けの遊具に見向きもせず、彼女は店の奥にあるアーケードゲームコーナーへと向かった。
「ん?」
店の奥に人だかりができていた。最近人気のロボット格闘ゲームのコーナーだった。やっぱり人気だなあと思ったが、なんだか雰囲気がおかしい。
もしやと思って見ていて、やっぱり、とため息をついた。
高校生と思しき数名が、小学生を相手にボコボコにして遊んでいるのだ。このゲーム、対戦で勝つとポイントがもらえ、そのポイントでアイテムを購入して自身を強化していくのだが、連続で勝ち続けるとボーナスアイテムがもらえる、という仕組みがあった。
そのボーナスアイテムがなかなかにおいしい。レアアイテムもあって、みんなが必死で戦い続ける。それがゲームを盛り上げているのだが、もちろん、なかなか勝てずアイテムをもらえない、という人もいる。
そういう人がアイテムをもらうための手っ取り早い方法が、弱い奴を相手に勝ち続ける、である。
ゲーマーの間では「この仕組みはひどい」「せめてレベル制限もうけろ」と声が上がっているのだが、メーカーは改善する気がないようだ。逆に、様々なコラボを通してさらに盛り上げようとしているぐらいだ。
「まったく、金儲けばかり考えやがって」
企業である以上、利益を追求するのは当たり前。しかしこれはひどい。そんなわけで彼女はこのゲームはもうしていない。
が、目の前でこんな光景を見ては、放っておけない。しかもこの高校生ズ、ゲーム代は小学生ズに負担させているようだ。これをカツアゲと言わずなんと言うのか、メーカーに問い合わせてやりたい。
「はいちょっくらごめんよ」
彼女は、半泣きでゲームをしていた小学生を押しのけた。対戦相手の高校生が何かを言っているが知ったことではない。
勝ち続けて手に入れられるアイテムは、負けるか試合をキャンセルすると、手に入れる権利を失う。
「あらよっと!」
エネルギーゲージは三分の一を切っていた。対戦相手が持つミサイル砲なら一撃でやられる。これはちょっくらきついか、と思ったが、高校生はアイテム頼りでゲームの腕自体は平均以下だった。
銃弾をかわし、爆撃を防ぎ、あっという間に対戦相手を倒す。まさにワンサイドゲームだった。
「おーっ!」
「ねーちゃんすげー!」
小学生ズの歓声を浴び、うむうむ、なかなかに気持ちのよいものだ、と彼女はスカッとした気分になった。
「いやいや、どうも、どうもね」
「てめえ、何邪魔してるんだよ!」
アイテムを手に入れられなかった高校生ズが激昂する。だが、その程度でビビる彼女ではない。
「ああん? 小学生相手にカツアゲしてたやつが、なにほざくか!」
カツアゲ、という言葉をことさら大きい声で叫ぶと店内がざわめいた。ちらりと見ると、アルバイトらしき店員がこちらを見ている。
「店員巻き込んで騒ぎにする? 受けて立つよ」
ぐっと高校生ズが声に詰まった。そして「くそったれが」と定番の捨て台詞を吐いて店を出て行った。
「うっし、それじゃ子供たちよ、こんなところでばっか遊んでいないで、もっと楽しいことしろよ!」
「うん!」
「じゃーねー、ねーちゃん!」
小学生ズの歓声を浴びて、誇らしげに立ち去る彼女。ちょっぴりいいことをしたな、と満足感を覚え彼女はゲームセンターを後にした。
「よーし、帰ったら久々に、対戦格闘しよ♪」
久々に会う強敵たちとの戦いに胸をわくわくさせながら、彼女はマヨネーズ満載のリュックを背負い、鼻歌を歌いながら自転車を漕ぎ出した。




