10番 片岡 勇希
片岡 勇希:生徒会書記。副会長の陶山は彼女。
「よし」
朝七時、彼は使い慣れたエプロンを身にまとい、気合を入れて料理を開始した。
本日のお題、それは「お誕生会のごちそう」。
料理が得意な彼だが、さすがにそのテーマで料理をしたことはない。なにせターゲットは幼稚園児、一人っ子の彼には弟や妹もいなければ、高校二年生の身では子供もいない。同じクラスに趣味が高じてセミプロ級の料理の腕を持つ女子がいるが、彼は必要に駆られて上達しただけであり、そのレパートリーは日々の家庭料理の範疇を出ない。
事実上の初挑戦。だが、失敗は許されない。する気もない。
遠足の日に活躍した重箱を再びスタンバイ。ケーキや参加者が持ち寄るであろうお菓子の量を計算し、全体の量はやや少なめ。華やかさを演出するために食材はカラフルに、しかも子供が好きな具材で、一口大で作り上げていく。本日の参加者に食物アレルギーのお子様はいないことは確認済み、全員に同じおかずが用意できるので、取り合いが起こることもないだろう。
「みっ〇まーうす、みっき〇ーうす、みっきみっきま〇す♪」
彼が鼻歌を歌いながら取り掛かっているのは、メインとなるちらし寿司。本日の主役の女の子が大好きなネズミのキャラクターをあしらった、いわゆる「キャラ弁」風だ。どメジャーなキャラゆえに、ネットを漁れば作り方がいくらでも出てくるのがありがたい。
「おっしゃ、完成」
そして三時間以上の苦闘の末、どうにかご馳走が完成した。なかなかの出来に思わずニヤケてしまい、完成報告を兼ねて写真を撮って彼女に送った。
返事は、すぐに来た。
『想像の十倍ぐらいすごい……』
そんなメッセージを見て、彼はまたニヤけた。してやったりとうなずき、重箱を重ねて風呂敷に包むと、エプロンを外して身支度を整えた。
「お、出かけるのか?」
パジャマ姿の父が起きてきて、彼に声をかけた。
「おう。お誕生会のごちそうデリバリーだ」
「お誕生会?」
「カワイイ妹ちゃんの、五歳のお誕生日なんだってさ」
保育園のお友達を呼んでみんなでパーティ。そのはずだったのだが、母親が事故でケガをした。幸い命に別条はないものの、両手にヒビが入っており、料理などとても無理だという。
助けてほしい。
あの意地っ張りがそんなメッセージを送ってきた。これに応えずして、何が彼氏か。
「残ったの、朝飯に食べていいから」
「おう、ありがと」
──息子を見送った後、キッチンへ行った彼の父は、皿に綺麗に盛られた料理を見て相好を崩した。
「たいしたもんだ」
一口食べてうなずくと、それを小皿に取り分けて、小さな仏壇の前に供えた。
「おはよ。勇希が彼女のために張り切って作ったご馳走だ。うまいぞ」
料理好きはお前の血かねえ。
彼の父は優しい笑みを浮かべながら、写真の中で微笑む亡き妻と語りつつ、朝のゆったりとした時間を過ごすのだった。




