1番 相川 陽一
相川 陽一:サッカー部所属。ここ一番で失敗する。
幼少よりサッカーを嗜み、いつかプロになって世界を目指すんだと誓ってはや十二年。人一倍努力を惜しまず、常に全力で練習に取り組むもなぜかレギュラーの座を取ることができない。高校二年生になった今も補欠としてなんとかベンチに入れる、という状態であり、「プロは正直無理かなー」と薄々感じつつも青春のすべてをサッカーに捧げると誓い、彼は今日も全力で練習に取り組んでいた。
「ほい、ほい、ほい!」
基礎鍛錬は怠らない。毎日朝五時半に起き、五キロほどをランニングし、自宅の庭でストレッチを行ったのち、ボールを使った軽い練習を行うのが日課だ。ランニングの際のペース配分、呼吸法、時折入れる階段ダッシュなど、細部に渡って注意を払い、家に帰ってからは全身くまなくストレッチをして体をほぐす。
「体が硬いのは、ケガの元だからな」
そうして丹念にストレッチをしたのち、いよいよボールを使った練習である。
おっといけない、いきなり蹴る前に、まずはシューズの確認。靴紐がほどけかかっている状態では、万が一のケガもある。
「うん、オッケー」
さあ、いよいよボールを使った練習……おっと、庭に落ちている石が問題だ。学校のグラウンドと違って家の庭は石やゴミが落ちている。これは危ない。
「まーったく、庭掃除はちゃんとしろよな」
ぶつぶつと言いながら庭の手入れを行う。見れば雑草が生えている。放っておくとすぐいっぱいになるからと、目に見える範囲の雑草を抜き、ゴミ箱に捨て、ついでに水やりもして作業完了。
「ヨウくーん、朝ごはんだよー」
そうこうしていると、四歳年上の姉が呼びに来た。少しぽやんとした感じのおっとりとした美女の姉。最近彼氏ができて幸せそうにしており、弟としては姉が取られたような気がして寂しい半面、心から姉の幸せを願ってやまなかった。
「あー、今日もお庭掃除ありがとう。ヨウくんが毎朝お手入れしてくれるから、助かるよー」
「なんのなんの、サッカーの練習のついでだよ」
「そうなのー? ボール蹴ってるところ見たことないけどー?」
「うーん、仕方ないよね、まずは庭を綺麗にしてからじゃないと。ケガしちゃいけないし」
「あー、そういえば、担任の先生も褒めてたねー。いつもグラウンド掃除を一生懸命してくれるって。おねーちゃんとしては鼻が高いよー」
「いやいや当然のことだよ。何事もまずは環境整備からだからね」
姉と仲睦まじく話しながらボールを片付け、相川少年は家の中に入った。
いつも真面目に練習していながら、ここ一番で失敗し、なぜかレギュラーになれない相川少年。
だれかこいつに、何が悪いのかを教えてあげてやってほしい。