第八話 1911.1-1911.4 ユニバーサルキャリア
明けて1911年、主人公は無限軌道汎用車両の開発を進めます。
年が明けて1911年になった。英国にきて3年目だ。今年は戦車の原型となる無限軌道汎用車両を作るつもりだ。
既にそれを作らせる予定のホーンズビーの役員の一人に俺は名を連ね、社内的にもトラクターで実績を作った。
ユニバーサルキャリア的な車両の図面を引くと、ロバーツ氏に見せる。この人物がホーンズビーの技術的、経営的な実質的トップだから、実際の製作はこの人がやる事になる。
図面は二パターン用意した、一つは鋳造で作るメカナムクロウラーを装備した金属履帯型のタイプ。もう一つは現行のゴムクロウラーを装備したオーソドックスなタイプだ。
これ迄、三角型の履帯を使っていたが、あのタイプの履帯はどうしても車体が変則的になってしまい、戦車ではあれを使うつもりだが、汎用車両には向かない。
そこで、前世で陸自で使っていた無限軌道装備の資材運搬車の様な足回りを持った車両を作ることにした。
大きさは4メートル弱で、使い勝手の良いユニバーサルキャリアくらいの大きさを想定し、搭乗人数は乗員二人、兵員四人の六人、或いは乗員二人で荷物や機銃、迫撃砲などの火器の搭載を想定しており、これもユニバーサルキャリアに準じる。
使い勝手の良い車両、というのがコンセプトだ。
少量生産の間はメカナムクロウラー用の鋳造履帯はうちのグランサムメタルワークスで製造し、ホーンズビーに供給する予定だ。
元々、この工場は鋳造なんかもやっていた工場で、従業員に詳しい社員が居るのだ。
汎用車両用のゴムクロウラーは車両の設計が終わってから発注すれば十分だろう。
年内に軍に見せられる事を目標に夏には形にしたいところだ。
その辺りをロバーツ氏に相談したところ、現行のトラクターが砲兵部隊向けに採用が決まり、軍にも期待されているから更に新製品を投入するのは大いに賛成との事で、用途や意義を理解した上で開発を進めると請け合ってくれた。
ホーンズビーの作っているディーゼルエンジンを使う事を想定しているが、今作らせているガソリンエンジンが間に合えば、そっちも検討に入れるという事になった。
メカナムクロウラー搭載型は遊星歯車機構を利用した操縦系がしっかり動かないと操縦するのが面倒だろうな。
三月ごろ、デチャグレフが拳銃を完成させた。
完成したのは俺が書いた図面をほぼ踏襲したデザインの、後の世を知っている俺から見れば実にオーソドックスな作りの拳銃だった。
ちなみに、俺が渡した図面は陸自が使っていた9mm拳銃そのものだ。
しかし完成した拳銃は図面そのままという訳ではなく、9mm拳銃の角ばった武骨いデザインを踏襲しつつ、実際にこの工場でも安易に作れるように一部簡略化されたりしている。
装弾数は15発、後に出てくるBHPより2発だけ弾数が多いが、弾を込めると1Kgを超えて重量感がありエンフィールドリボルバーより確実に重たい。
拳銃は二種類用意されていて、もう一つのタイプは英軍の.380Enfield弾を使用するタイプだ。
こちらの方は弾数が9発になっていてその代わりにグリップが15発のタイプより薄くなっていて、元の9mm拳銃に近いと言えるな。
試しに打ってみたが、癖がなく良い感じであり命中精度も悪くない。
早速、英軍向けを十挺ほど作ると提出した。
英軍の担当者は確実に動作するリボルバーの方が好まれる為、これの採用は微妙だと話していた。
流石に、以前のようにゲテモノを見るような目では見られなくなったが…。
一応、9mmパラベラムなら15発撃てるモデルもあると伝えておいた。
15発という装弾数を聞くと興味があるようだが、9mmパラベラムは現時点では英軍は採用していないからな。
皇国向けには五十挺ほど生産して送った。南部十四年式までのつなぎに丁度いいんじゃないかと思う。
英軍で採用された軽機関銃だが、現場から銃身の交換を可能にしてほしいという要望があったそうだ。
軍の調達部としては、分隊と共に前進する機銃であり拠点で長時間射撃をするわけではないから、このままで大丈夫だろうという判断だったようだ。
だが、ビッカース機関銃が気軽に運べない機関銃である以上、こちらの機関銃の方が多方面で使用される可能性が高く、その場合、急な防御戦闘が発生した場合、長時間の射撃が発生する可能性が高く、現場での銃身の交換を可能にしてほしいということだった。
そこで、後に英軍が採用することになるBRENで使われている銃身交換方式をデチャグレフに話したところ、可能だろうという話だ。
ただ、今のように気軽に腰撃ちも出来ているのは軽さだけでなくハンドガードがあるからで、それをなくすと三脚とかを握る必要があるため、銃のバランスが崩れるとの事だ。
そこで、フォアグリップを取り付けられるようにすることで、その部分は解決することにした。
いざ方針が決まり、銃身交換の方式も既にあるとなると、既存の完成品を改造して試作品が完成するまでがあっという間だった。
流石に有能なガンスミスは違うな。
完成した軽機関銃はRPDの特徴の一つであったハンドガードがなくなり、代わりに特徴的な取っ手付きの銃身が付くことで別の機銃の見た目になった。
取外し可能なフォアグリップを付けることで、一応腰撃ちも可能になり、大きくバランスを崩すこともなかった。
これはこれで良いのではないだろうか。
十挺程改造すると、それを英軍に提出した。
担当者は満足げに銃身を変えてみたり、フォアグリップを握って操作してみたりと試したあと、実に素晴らしいとお墨付きをくれた。
後日、英陸軍に呼ばれると案内されたのは射撃場の一角。
そこには、何故か銃架に載った改造型RPDが…。
聞いてみれば、試した結果なかなか良かったので、どうせなら持ち運びのできる銃架もあれば必要に応じて据え置きの機関銃として使えるのではないかと考え、軍の工廠で作ってみたのだそうだ。
その形は、前世で見たことがあるBREN用の三脚に実に似ていた。
しかし、わざわざ標準装備のドラム型マガジンではなくて、ベルト給弾式を活かすために三脚に載せられる形の専用のマガジンまで作っているとは思わなかった。
あの専用のマガジンは一箱で250発も入るらしく、重機関銃として使う気まんまんじゃないか…。
英軍の担当者から、今回のこの形を完成形としてエンフィールド軽機関銃Mk1として正式採用することになったので、既に納品された分とこれから工廠で作る分は工廠で改修をするので必要図面を提出する事と、これから納品する残分はこの改造型で納品するようにとのお達しがあった。
ライセンス料も改造の分上げてもらえることになった。
勿論、この銃身の交換システムは特許をとってある。後からチェコ人から訴えられるのは勘弁してほしいからな。
その後、拳銃は英軍では部分採用、皇国では不採用となった。
皇国は南部式自動拳銃があり、軍としては南部式自動拳銃を正式自動拳銃として使うが、日本国内で販売するのなら商社を紹介するとのこと。
結局、英軍は工廠では生産しないため、千挺をうちの会社で生産し納品。その後、追加注文するかどうかは後に検討ということになった。
日本向けは五百挺を生産し、試しに商社を介して日本国内で販売することになった。
世界各国にもサンプルを送って売り込んでみたところ、ベルギーから国営工廠でライセンス生産したいとの申し入れがあったので、早速ライセンス契約を締結した。
残念ながらやはりリボルバー全盛なのか、現時点では自動拳銃はあまり売れなかった。
だが、いずれ売れることを俺は知っているから、今は良いだろう。
デチャグレフの次の仕事はいよいよ本番とも言えるが、12.7mm機銃の開発だ。
俺は、おれの作る戦車にこの機銃を載せるつもりだ。
しかし、この時代にこの口径の銃は存在しない為、弾から開発する必要がある。
デチャグレフは後にDK重機関銃という12.7mm機関銃を開発している。
既にベルト給弾式の機関銃を完成させ、ガス圧式の機銃も見事に完成させてみせた。
そのため、12.7mm機関銃に関しては、今回は図面などは渡さずデチャグレフに全て任せることにした。
万が一の場合でも、天下の名銃であるM2重機の図面が頭の中にあるので安心である。
四月に入ってホーンズビーで汎用車両の試作車が完成。
エンジンは焼玉式ディーゼルが車体の真ん中に鎮座しており、このままでは足回りの試験くらいにしか使えない。
ゴムクローラー式のモデルは特に新しい事をして居ないため新しい懸架装置も特に問題なく普通に動いた。
メカナムクローラー式のモデルは、やはり金属履帯の為ゴムクローラー式に比べると動作が重々しい。
鋳造で作った履帯はかなり重たいのだ。そして、全くうまく動作しなかった。
前世でもメカナムホイールは使われだしていたが、メカナムクローラーは模型レベルしか動いてなかったが、かんたんではないということか…。
一先ず、メカナムクローラーは放棄し、オーソドックスにゴムクローラー式で行くことにした。
エンジンの方はロウリッジが∨型8気筒エンジンを開発しているがまだ時間がかかりそうだった。
ガソリンエンジンが完成し、期待通りの性能を発揮すれば一先ず形になるだろう。
もう少しで戦車の原型が完成です。
しかし、メカナムなゲテモノはダメでした。