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第七話 1910.9-1910.12 演習

乃木君はそろそろ大尉昇進でしょうかね。





1910年秋、英国は朝鮮半島の植民地化を進め、そして米国は満州鉄道を口実に使い進出を強めている。その後背地としての日本では新潟や鳥取など日本海側に海外資本による工場が幾つも建設された。

それに併せ、港湾施設や鉄道インフラ整備が進められるなど、地方の発展が著しい。

更にはそれら外資企業の支社が都市部に設置され、外資企業が来ることで海外の銀行と提携を結んだ皇国の金融産業も大いに発展した。

勿論、外資系ばかりではなく、日本企業もその恩恵を受けた。

需要が大いに伸張している満州や朝鮮半島ばかりか日本国内も、今や流行語にもなりつつある「中流家庭」が広まりを見せる事で内需が拡大、東洋でも有力な市場の一つとなっている。

つまり、皇国中が今や好景気に沸いているのだ。


まあ、そんな話を俺は伊藤公からの手紙で知ったのだが、半島を手放し大陸から撤退するだけで日本がこれ程豊かな国になるとはね。


俺が伊藤公に提言したとおりの未来が実現したので、伊藤公が手紙で絶賛しているのだ。


何しろ、前世の日本が半島や満州で浪費した膨大な血税が丸々国内開発に使われているのだから当然ともいえる。

元々、日本は資源は無くとも豊かな国なのだ。真面目な話、資源は買えば良いのだから。大事なのは人であり、カネで買えるものほど安いものなどない。


そして、伊藤公も前世とは異なり、暗殺される事も無かった。


その為、現在も政界の中心人物である伊藤公への返信に、この先の提言をしたためた。それはこの頃から広まり出す共産思想の危険性と、何故ダメなのかという事の啓蒙活動を行うべきであり、共産主義思想に傾倒する大学教授などの教員は、危険思想を伝搬させる為、教職から排除すべきであると進言した。

それと同時に、労働基準法の制定や物価に準じた最低賃金の公定など労働者の権利保護の重要性を説いた。

労働者の味方を名乗り、労働運動を起こしてストを先導する共産主義活動家達は労働者のふりをして自ら特権階級たらんとする不逞の輩が殆どであり、自ら額に汗して働いたことも無い輩が多い。

蔓延らせては害悪であるから、共産主義活動家を摘発すると同時に臣民の啓蒙も必要であり、中流家庭が広がるに伴い強まるであろう民本主義に基づく政治を求める声を正しく国家国益に昇華する為にも、臣民の政治思想に対する教育の必要性が最重要であると強調した。これらを書き上げると大使館に託した。


それでも共産主義は蔓延るだろうが、前世程酷くならないことを祈るのみだ。



デグチャレフには次の仕事として、警察や特殊部隊向けのサブマシンガンの製作を頼んだ。


シンプルブローバック方式でクローズボルト撃発の単発での命中精度を特に重視したサブマシンガンだ。前世だとMP5とかに相当する。


クローズボルト撃発であるため大量に弾丸をばら撒く打ち方には向かないが、確実に当てにいくにはこちらの方が向いている。


併せて、外にはまだ出さないがサプレッサーも開発する。

これは、俺が自分で図面を引く。


デグチャレフは意図を理解したようで、銃身長も200mmと先のサブマシンガンより長くなり、グリップもしっかりしたものになった。


作り上げられた試作品はコストと生産する手間が倍くらいかかるが、性能はピカ一で単発射撃であれば100メートルの距離ならば抜群の命中精度でありスコープが欲しくなるほどだ。

有効射程も200メートルに伸びたし、この時代でも作れるような低倍率スコープを作るのも良いかもしれん。


サプレッサーも効果が見られ、前世の時代の物に比べるとやや物足りないが、現時点では十分な性能と言えるだろう。


使用弾丸は9mmパラベラムだが、.380Enfieldという英国陸軍正式採用のエンフィールドリボルバーの弾丸も発射できるモデルも制作した。

これは、前回RPDが不採用になったときに、使用弾丸は英軍採用の弾丸にも対応する様に、という要望があったためだ。


9mmパラベラムモデルは32発の箱型弾倉、.380Enfieldモデルは25発の箱型弾倉を装備した。


このサブマシンガンを約束通り、英陸軍に提出する他、英国警察にも売り込んだ。



その後、日本本国から以前送り付けたRPDを採用したいと連絡があった。


RPDは、新たに南部麒次郎を中心に開発していた新型軽機関銃の性能をはるかに凌駕し、しかも軽い。欠点は前線で一般の兵士が持つ小銃弾をそのまま流用出来ない事であるが、200発という箱型弾倉の利点の方が大きく、欠点を無視して余りあると。


難点は、日本の国内工場での生産が難しい事の様だ…。

やはり英国の工業水準の方が未だ日本より高いという事だな。


それで、将来的には日本国内で生産したいが、当面の使用分の1000挺は英国の工場で生産する。

その代わりに国内で生産する為に、英国の工場に日本人研修生の受け入れを要請された。

勿論受諾したが、研修生は英語の話せる奴が来るのだろうか?



デグチャレフの次の仕事は拳銃の製作。15発弾倉のダブルカラムマガジンを使用するティルトバレル式ショートリコイルのオーソドックスな自動拳銃だ。この時代でも既にブローニングがコルトで同様の自動拳銃を作っているから、それ程珍しいものでもない。


日本軍も必要だし、英国軍も必要だろう。多分な。

なにより、海外にも輸出出来て資金調達が出来るという寸法だ。




年の瀬が近づいてきた頃、英陸軍から現在試験中の短機関銃、つまり「パイプの玩具」だが、どういう意図でこういう兵器を作ったのか、試験を請け負っている現場の将校に直接話してほしいと呼び出しがあった。


いずれ、こういう時が来るだろうと思っていたから丁度いい。


俺は前世の記憶を総動員して日露戦争の塹壕戦闘の実態を話し、それを突破するにはどうすればいいかという話をした。


つまり、航空偵察に基づきながら塹壕を掘り進み肉薄し、そして時が来たら準備射撃の後、煙幕で敵の火線を煙に巻くと、一気に突入していち早く敵の塹壕を制圧し、後は塹壕沿いに掃討していく。


そういった場合、100m以下の近距離で敵を瞬時に制圧するのに必要なのが短機関銃であり、また敵の機銃などの火力を味方の継続支援射撃で制圧する為には、ビッカース機関銃の様な移動困難な重機関銃ではなく、持ち運びが容易な軽機関銃を随伴させる。


つまり、そういった使い方をするのだと説明をした。


実際は、次の戦争は毒ガスが多用されるからこんなに簡単ではないのだが、戦車に随伴して戦線突破する突撃部隊はやることはあまり変わらんから問題無いだろう。


しかし英陸軍の連中は、今一つ理解が出来ないようなので、実際に導入したての自慢のビッカース機関銃を使って塹壕と機銃陣地を設営し、それを軽機関銃と短機関銃を装備した突撃部隊で突破するという演習をしてみてはどうか。という話になった。


軽機関銃は英国陸軍の要望通り、RPDを.303ブリティッシュが使用できるように改造した。お陰で、200発入る箱型弾倉は使えなくなり、75発入るドラムマガジンを新たに作る羽目になった。



クリスマスまでに、突撃部隊こと青組を俺が指導し、赤組は演習場に陣地を設営した。


まあ、イギリス人というのは戦争をスポーツだと勘違いしていて、軽機関銃を派手に撃ちまくり、短機関銃で弾をバラまけば大はしゃぎという有様で、我が皇国軍とは明らかに違うな…。


今回は、時間の関係で塹壕は敵側の塹壕近くの地点まで掘り進められている。

その代わり、敵の機銃座はスタンバイ終了し、守備するエンフィールド銃を装備した歩兵は待ち構えているアドバンテージがある。


実際に弾が飛び交う訳では無いが、その戦いを判定員が目を皿の様にして見ているというわけだ。



演習日、寒くて堪らないが幸い雪は積もっていない。

戦争中であれば雪が降ろうとコンディション最悪であろうと任務をこなさなければならないが、平時の演習なのだから天気は良い方が良いに決まって居る。


奇襲攻撃を表す為、一時間以内に攻撃側から攻撃を開始する事になっている。


青組の指揮官は三十分ほどを経過した時点で動き出し、発煙筒を投げ込み辺りを真っ白にすると突撃の笛を吹いた。


軽機関銃は敵の機銃座に制圧射撃を掛け、先制射撃を食らった機銃座は制圧状態に陥る。


その間に、敵の歩兵は敵が見えないため適当に前の方を撃つが、自慢のエンフィールド銃の連続射撃は既に敵のいない方向を撃つばかりで、まじかに現れた青組の兵士が至近距離から短機関銃で弾をバラまくと、その場の歩兵たちは戦死判定で制圧された。


後は、シナリオ通り塹壕を掃討しながら進み敵の指揮官の居る指揮所を制圧して勝利。


塹壕内では銃剣の付いた長いライフルは取り回しが悪すぎる上に、一発撃つ間に敵は短機関銃で弾をバラまくように撃ってくる。

拳銃は将校しか持っておらず、銃剣付きライフルを振り上げて白兵戦に持ち込む前に全員が戦死判定となった。


実際は、こんなに簡単にはいかないだろうが、つまり短機関銃と、随伴する分隊支援火器の威力は旧態依然とした軍隊では太刀打ちが難しいという事だ。



この演習終了後、英国陸軍から大量の短機関銃と軽機関銃の発注が舞い込んだ。


短機関銃は突撃部隊の武器としても有用だが指揮官が拳銃の代わりに持つのにも有用だと判断したのと、ビッカース機関銃は要として必要だが、分隊に随伴する支援火器の重要性も良く分かったという事らしい。


結局、9mmパラベラムと6.5mmのモデルだけ生産するつもりが、英国仕様も作る羽目になったのだ。


勿論、うちの工場だけで全て生産するという訳ではなく、エンフィールド工廠でもライセンス生産をするそうだ。


日英両軍の大量発注でうちの工場は大いに潤った。


拳銃が完成すれば、マークスマンライフルや突撃銃も必要だろう。


並行して、戦車もそろそろ動かさなければな。



ホーンズビーは農業用トラクターで一世を風靡し、英陸軍から再度砲兵向けの牽引車を製作し提出する様に指示があった。


俺は銃器製造で稼いだ資金をホーンズビーに投資して影響力を高めると、自ら経営に参画して、英陸軍が求めるようなただの牽引車ではなく、もっと汎用性のある車両を製作するべきだと訴えた。


ホーンズビーの経営陣トップは元々技術屋だった2代目であまり金儲けには興味が無いタイプだ。

巨額の投資を受けたのに警戒心を抱くどころか大いに喜ぶ有様で、前世で会社が吸収されてしまったのも致し方ないのかと思ったぞ。


しかし、この世界では俺が経営陣に加わった以上はそんな事はさせないがな。


俺が作りたいのはユニバーサルキャリア的な汎用車両。

あれを豆タンクとして戦車習熟に使い、その後本命の戦車を更に作る。


実現可能かどうかは兎も角、俺が考えている戦車はメカナムホイールを履帯に組み込んだメカナムクロウラーを搭載した戦車だ。

遊星歯車機構をうまく使えば横移動も局地回転も可能な高機動な戦車が出来る筈だ。

もしかすると、現時点の工業技術では実現不可能かもしれない。


しかし、ここはあの英国なのだ。ひょっとすると出来ないとも限らないだろう。


ただ、量産性が著しく悪ければ諦めて、農業用トラクターで使った三角形の履帯を前後に二つずつ搭載した戦車を考えている。


いずれにせよ、のろのろと塹壕に四苦八苦しながら走るような戦車は作る気が無い。


今月、新たに俺の会社に技術者をスカウトしてきて、ホーンズビーに出向させた。


スカウトしてきたのはエリスに居た製図工のロウリッジという男だ。


彼は後にネイピアに引き抜かれてエンジンを作る男なのだが、俺の為にもエンジンを作ってもらう事にした。


声を掛けてみると技師として独り立ちして仕事したかったらしくチャンス到来とすぐに飛びついたのだ。


自動車用の80馬力以上のガソリンエンジン。これを作って貰って汎用車両に搭載する。


実際の戦車にはこのエンジンを二つ搭載する予定で考えている。


1912年までには戦車を完成させたいところだが、既に1910年も終わってしまった。


実家からは結婚しないのかなんて手紙も来てるが、外国暮らしでどうしろというのか。

とはいえ、俺も既に31歳を過ぎてこのままいくと史実通り乃木家は絶えてしまいそうだな。










1910年も終わり、乃木君の留学もそろそろ終わり。

第一次大戦の英軍は史実よりほんの少し強いかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] Дегтярёв(Degtyaryov)なので (誤)デチャグレフ (正)デグチャレフ では?
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