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第五十三話 1914.11.5-1914.11.20 ガスマスク

第一次世界大戦というと毒ガス戦。

ガスマスクが必要です。





1914年11月、来春に起きるだろう第二次イーペル会戦の事を考えていた。この会戦では、アンモニアを化学合成する事に成功して化学肥料を大量に作り出し、世界の食物生産能力を飛躍的に向上させた功績で世界史にその名を残したフリッツ・ハーバーが〝毒ガス博士〟として再デビューを果し、彼が開発した忌まわしき毒ガスが本格的に戦争で使われる事になるあの事件が起きるだろう。


現在、英仏軍の装備に毒ガスに対抗できるガスマスクは入っておらず、また泥沼の塹壕戦を打破する突破力と期待されている戦車と装甲車両も、現状毒ガスを防ぐ機能を持って居ない。


勿論、俺はそれを座視するつもりは無い。


前世での知見を活かして、既にガスマスクの準備を進めていた。


それがやっと完成したと言うわけだ。

俺は前世で色んな国の軍用マスクを見る機会があったし、勿論自衛隊装備のマスクを触ったこともあるが、それらを参考に英軍が採用していたS10ガスマスク風の物を開発することにした。


主材質は難燃性を高めた硬質合成ゴム製で、ゴーグル部分はこの時代によく使われているセルロイドを改良した耐火セルロイドを採用した。

この耐火セルロイドは、この分野で業績を残しているスイスの科学者カミーユとアンリのドレイファス兄弟が開発しスイスで製造している物を採用したが、同時に、資金を提供するから英国や我が皇国にも二人の先進的なセルロイド製造工場を作って欲しい、という交渉もしている。

彼らはデュポンなどの化学製品製造企業の有力な競合者であるし、セルロースアセテート製品であるフィルムやラッカー、化学繊維などの開発製造で残した業績を考えると、有望な投資先であることは間違いないからな。


他にも、ガスマスクの気密性を高めるために、英国のキッピング教授の開発したシリコン素材も活用している。

また、フィルターに関しても前世の40mmNATO規格フィルターを参考に、今の技術でも実現可能な物を開発したが、実用性十分なものができたと思う。

しかし、フィルターを入れる吸収缶の構造や仕組みが、S10ガスマスクの丸パクリなのはご愛嬌だ。どうせこの時代の人には解らない。

ちなみに吸収缶は、正しくは〝直結式防毒マスク用吸収缶〟というもので、英国風にマスクの左側に取り付けるタイプのものだ。


ガスマスクは、生産性を高めるためにゴム成形技術を用いて生産されているんだが、既にイギリスというかヨーロッパでは、この手の大量生産技術が実用化されていることに驚きだな。


このガスマスクは、皇国欧州派遣軍には全将兵に行き渡る数を納めることで既に契約が済んでいるんだが、英軍に関しては、先ずは前線に居るヘイグ将軍麾下の部隊に試験配備することになった。

と言うのは、毒ガスそのものはフランス軍が既に配備している事が知られているが、フランス軍首脳部は実際に使われるとは思っていないようだし、英軍にしてもヘイグ将軍のお声掛りと言う事と、ほとんど原価の格安お試し価格で提供されるという事なので試しに配備してみよう、という何とも消極的な理由なんだが…。


でも、ガスマスク自体は毒ガス防御以外にも利用用途があるからな。実際、前世の第二次世界大戦でも毒ガスは使われなかったが、ガスマスクは色んな用途で使われていたからな。



ところで、うちの会社は創業以来右肩上がりの成長を続けており、特に戦争が始まってからというもの、戦争特需もあって売上と会社規模の膨張は止まる所を知らない。

正直、俺はここまで会社を大きくするつもりは無かったから、この先もし万が一にも事業が失敗するなどという事があればと、想像するだけで胃が痛くなる。


イギリスは階級社会なので貧富の差がかなりあり、そして未だ児童労働などが社会問題となっている。

これらの問題が第一次世界大戦の後の不況で一気に噴出して社会情勢が不安定になり、その不満から戦争利得者がやり玉に上げられた結果、彼らは破産するほどの莫大な税金を取られ、現実に破産した実業家が結構な人数居たらしい。


更には、ロシアでの共産革命の余波もあって、フランス発の社会主義運動がイギリスにまで入ってきて、労働者が権利拡大や大幅な賃上げを要求し、それらの要求が受け入られないと大規模なストライキを起こしたりと面倒な時代がやってくる。

そしてその総仕上げが、大恐慌による世界同時大不況時代の到来だ。


この時期に、破産したり身売りした企業は数しれず、というわけだ。


俺としては、どういう形であれ次の戦争を見据えており、労働運動等そういったことに無駄な時間を費やしたくない。むしろ、ピンチをチャンスに、ここぞとばかりに有望な人材の採用や有力企業の買収を進めたいところだ。


そんなわけで、俺の会社は他の会社に比べれば格段に高待遇の会社として、既に知られて居る。

毎月少額の天引きで、会社が経営している病院に低負担で掛かることが出来るし、各種奨学制度も用意しているので、本人にやる気があるなら、働きながらも勉学進学に取り組む面倒を見る事が出来る。

他にも、この時代の他社では殆ど見られないが、福利厚生の一環として低価格で食べられる社員食堂の設置や単身独身社員向けの寮、家族向けの社宅の提供等、いろんな特典を享受することが出来るようになっている。

一日の労働時間は八時間、週休二日制、更には有給休暇制度など、前世の日本では当たり前だった制度なども取り入れている。


そして、新たに取り入れたのが、社員としての意識向上を目指す意味もあるが、仕事着としての制服を採用した。

この頃から流行りだしたデニム生地を使ったツナギで、会社のエンブレムが胸に刺繍されていて、デザイン的にもカッコ良く仕上がったと思う。


この時代、工場勤務であっても仕事着は自前であり、女性でも薄汚れて着古した服を平気で着ていたりするから、こうやって全員が同じ制服を着用すると一気に職場の雰囲気が良くなるな。


制服は会社からの貸与品で、会社が定期的に回収してクリーニングし、きれいな状態になって戻ってくる形を取っている。

また、制服を社外に持ち出すことは原則禁止で、しかも制服全てに社員番号がタグ付けされており、万が一紛失したり盗難品が見つかった場合にも、直ぐに誰の物なのかが分かるようになっている。

勿論、これは、防諜上の意味もある。


制服は社員にも概ね好評で、社員の士気も更に上がったように思う。

その話を聞いた人が見学に来るくらいで、俺の会社の知名度が更に上がることは間違いないな。



CI活動の一環として制服を採用してみました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 化学兵器全盛の時代だから当然ガスマスクは 開発必須ですよね。 確かにその会社の制服があると社員の意識が 違うのはわかりますわ。 工業系の制服着た写真のジューコフとか、 カムとか乃木さんとか沢…
[一言] 戦争特需で急拡大しているんだろうけど、一次大戦の後をどう乗り切るのか、すごく手腕が問われますねぇ その時期は、民間も購買力壊滅するから、良いもの作ってもなかなか売れないしね。 それにしても…
[一言] 福利厚生…そのうちここからプロのスポーツチームとかも誕生しそうですね
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